33. 結末は期待外れ!
「おお!ベバムさんもようやく世界征服に興味を持ってくれましたか」
「誰がいつ世界征服がしたいなんて言った?……て、イシャ!お前どこから……!うげぇ!お、重い……!」
ベッド上でうつ伏せになっているベバムに乗っかってくるイシャ。ずっしりとした重みを感じる。
「おい、俺は腰をやってるんだぞ!?」
「あ、これはこれは失礼しました」
ようやくイシャがベッドから離れる。全く……本当にこいつは医者なのか?
「ったく。いつからいたんだ……」
「私はずっとここにいましたよ。これまでも、今も、これからも」
「怖い事言わないでくれ。笑えないから」
「笑わすつもりなんてありませんよぉ。大切なのは今とこれからですからね。代わりに私が笑いますね。あはははっ!」
ーーこ、こいつ……!相変わらずヤバイ事を平然と……!!
ベバムは、イシャの存在に全く気づく事が出来なかった。
どうして俺が心の中で思ったセリフを知っているんだ?など聞きたい事はあったが、厄介な方向へ進む気配しかしなかったので、胸の中にそっとしまっておいた。
ただ、一つだけ聞いてみる事にした。
「俺がいつ世界征服に興味があるなんて言った?」
「だって、この話、世界滅亡エンドじゃないですか」
「どうしてそう思う?」
ベバムはイシャに問いかける。
「ふふっ……その質問の答えは直ぐに分かりますよ。では、ここで私が考えた”覚醒!第三の目!放て!目からビーム!!”の結末を話すとしましょう」
「お前がそのタイトルを話すと何かムカつくな」
「失礼な人ですね。折角私がアドバイスしてあげようというのに」
「お前にだけは言われたく無い。それに、お前のアドバイスなどいらん」
イシャの無邪気な笑顔に騙されてはいけない。様々な町を巡り、沢山の人と話して来たベバムであったが、最初にイシャと会った時(ショーの途中で腰をやってしまい、イシャの診療所に連れて行かれた時)から、ヤバイ人間だと認識していた。実際、ベバムの認識は悲しい程的中していた訳だが。
どうせ今回のアドバイスとやらもロクでもない事を話すに違いない。しかし、イシャから”世界征服”というワードが飛び出すと、いよいよ冗談では済まされなくなってくる。イシャの事だ、本当にやりかねない。
「安心して下さい。ただの極々平凡な医者の戯言だと思って聞いてもらえれば、十分ですから」
お前のどこが極々平凡な医者なんだと言うツッコミを必死に抑え、堪える。
まあ、とりあえず聞いてみるか……
***
もやもやもやもやーん。妄想のお時間ですよぉ。もやもやもやもやーん。
ーーうん?ちょっと待ってくれ
ーーちょっと、ベバムさん。妄想の世界に入って来ないで下さいよぉ。迷惑です。消えて下さい。
ーー随分と辛辣だな。ちょっと傷付いたぞ。……じゃ無くて!最初のアレは何だと聞いている。
ーー最初のアレ?世界征服の話ですか?それとも”絶対に病気にならない薬”の話ですか?
ーー両方違う!最初のもやもやもやーんってヤツだ。
ーーああ、それですか。ふふっ。ベバムさんが話すと可愛いですねぇ。ふふっ。
ーーあああ……辞めてくれ……寒気が……
ーー最初のアレは、妄想を始める時の効果音ですよ。
ーー妄想を始めるのに、効果音が必要なのか……
ーーお、始まりますよ。
世界を救うという重大な使命を負ったベバムさんですが、その使命の重圧に耐えられず、自暴自棄になり、精神が崩壊してしまいます。その結果、自らの使命を放棄し、第三の目ビームを使って街々を破壊して行きます。が、当然ビームを使う度にベバムさんの寿命も減っていきます。自分の思うがまま全てを破壊する快感とその反動による命の
おしまい
***
「どうでした?どうでした?感想を聞かせて下さいよぉ!」
イシャが何かを期待するような表情で、感想を求めてくる。
ベバムはとりあえず一言。
「まあ、お前らしい結末だったな」
「はて、私らしい……とは?抽象的過ぎて理解出来ないです。もっと具体的にどうぞ」
具体的と言われても、概ね思った通りの結果だったし、ベバムとしてはもっとぶっ飛んだ結末になると身構えていたので、ある意味期待外れ(期待はしていないが)と言える結末だった。
「ある意味期待外れの結末だったな」
「期待外れ……ですか。次は愚かなベバムさんの期待に応えれるよう、努力する事を検討しますね」
「愚かなは余計だし、期待に応えなくていいし、検討も余計だ。全く」
朝っぱらから頭痛がするような話を聞いてしまった。まあ、アドバイスというか、参考程度にはなったが。
「ふふっ。ベバムさんは面白い人間ですね。愚かレベル10の住民たちとは大違いです」
ーー散々愚か愚かと罵倒したのは、どこのどいつだよ。
「そうだ、雑貨屋のジイさんは大丈夫だったのか?」
住民が助けに求めてくるという事は、やはりある程度は信頼されている証拠なのだろうか。
「愚かな人間を助けるのは不本意ではありますが、”一応”この町の医者ですからね。ベバムさん程酷くないので安心して下さい」
「俺はそんなに酷いのか?」
「酷いです。調子に乗ってると、マジで動けなくなりますよ。一生」
はっきりと言われてしまった。ここは、大人しくするしか無いだろう。
気のせいかもしれないが、少しだけイシャの言葉というか、口調が柔らかくなった気がした。気のせいかもしれないが。無気力な表情もどこか、緩んだような……気のせいかもしれないけど。
ただ、ベバムが心配する程おかしな人間では無いのかもしれない。勿論ふつーの人間では無いだろうが、ベバムだって人の事は言えない。もう少し信頼しても良いのではと思った。
「そうそう!ベバムさん、あなた、お腹すいてますよねぇ?」
イシャのこの言葉……!
……嫌な予感がした。
口調が柔らかくなったんじゃ無い。これは、獲物をおびき寄せて、仕留めるための甘い罠!!
「いや、いい。やめてくれ」
「やめてくれって、まだ私何もしてませんよ?」
「お前の事だ。俺が動けないのを知って、朝食を用意する。その中にお前が開発した”例の薬”をこっそり混ぜて、俺に飲ませようと考えているんだろ?」
「あら、バレちゃいました?」
悪びれもなく、あっさりと認めてしまったイシャ。前言撤回、先程の言葉は無かった事にしよう。
「バレちゃったなら仕方ないですね。ふつーの朝食を用意してあげますよ」
「朝食を用意してくれるのはありがたいが、ふつーなのは当たり前だぞ」
「朝食代は、自治会からガッポリ貰いますね。特権乱用万歳!」
「だからお前が言うなって……」
全く……心配だ……。
どうなる事やら。
わたしたちは空飛ぶ芸人なのだ!! みずみゆう @mizumi_yu
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