Break time

第50話:将軍の手紙

 AtoB 我が友へ。

 お前を憎まねばならない。

 お前はいつも、誰かの為に。たとえば儂や、同期の連中。同じ部隊の者。部下たち、上司であっても。顔を見たこともないのに、軍人だからという理由で。そいつが楽になるようにした。

 それは出会った町の人々。石を投げ、銃を持ち出す反抗者たちにもだ。

 そんなお前を見てきたから、うっかり儂も見倣ってしまった。お前ほど徹底してはできなかったが、それがどうも上役たちには受けが良かったらしい。エイブスよりもエドモンズのほうが、融通が利くとな。

 イーブンでなかったなどと言えば、お前は笑ってくれるのだろうか。


 そういうわけで儂は、実力もなく中将まで祀り上げられた。あげくエナム蜂起に際して、最高司令官で大将ときた。

 貧乏農場で、両手で足りるほどの馬と牛。家族で食うにも足らん、イモの世話に追われた男がだ。

 全てお前のせいだ。

 お前がもう少しだけ人に冷たかったなら、儂はお前の部下で居られたのに。

 それも過ぎたことで、そうなったのをとやかく言わない。と格好をつけられれば良いのだが、そうもいかなくなった。


 あろうことか。いや、ありえんことだ。

 どれだけ罵られようと、嘘だと言われようと、これだけは言わせてもらう。

 お前を死なせる命令書に、儂はサインなどしていない。

 では誰がと問われれば、憶測になってしまうが。栄達を望む、一部の者たち。言うなれば、参謀連中の総意とやらだ。

 奴らの思うところでは、お前の死こそが儂の隠れた欲求であったらしい。意を汲んだ誰かが、意図もせずどこかで、「誰かがやってくれないものか」と独り言をした。

 それをたまたま聞いた誰かが、自分でか頼んだのかは知らないが、お前の首に手をかけた。

 メイン軍の司令官は、なぜだか急に死んでしまった。そんなふざけた報告を受けた、儂の気持ちが分かるか。

 おかげで朝食中だった儂は、副官の制服を新調してやる羽目になった。


 あれこれと言いわけをしてしまったが、ここからが最もお前を怒らせるはずだ。

 精鋭と名高い銃騎馬隊に、お前の家族への手紙を託そうとした。そうだ、儂自身が知るでない者に、お前の家族のことを話した。それは誓って、謝罪の為であったのだが。

 故郷がノソンと知らぬ者はなかったろう。お前の歳で、妻や子が居ないと考えるほうが無理はある。

 だが間違いなくきっかけは儂の手紙で、口実をも与えてしまった。名の一文字をも書きたくないあの阿呆は、またありもしない儂の気持ちを利用した。

 己の保身の為に、お前の家族を危険に晒し、お前の故郷を焼いたと。もはやそれは、報告ですらなかった。動かせる兵の一人も居ない儂を、カンザスは見限ったのだ。


 無謀にも。勇敢にも。ノソンの人たちは、兵士を追い返したとも聞いた。お前の家族も見つけられていないと。名を出す前に気付けたことだけは、良かったと思う。

 しかし驚いた。今日、お前の娘を見かけたよ。遠く離れた、このマナガンでだ。

 妻も子も居ない儂に、家族ならここに写っているとお前のくれた写真。そこへ写るままの姿だった。

 その夫は、儂への文句を直接に届けた。彼女の現れたのが偶然であるはずはない。

 お前に。お前の家族に。どれだけ詫びても済まないことをしてしまった。だからせめて、儂の責任で終わらせようと思う。儂などの命を、お前の娘に背負わせることはない。

 もう心配することはないから。少なくともこの内戦は終わったのだ。

 どうかこれから、お前に連なる人たちに労苦なきことを祈る。


 英雄エースに比べて、欠陥品バグはいつも劣るのだ。

 エール=エドモンズ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る