第1話-a
教室に足を踏み入れる。教室内の雰囲気が騒がしい。これはいつものことだ。彼女よりも早く登校したクラスメイトが朝のおしゃべりに興じている。
原因はなんなのだろう。クラスメイトの表情だろうか。仕草だろうか。何を疑ってみても表面上はみな同じようだった。それなのにクラス内に漂う異質な何か。
望がよくわからない気持ちのまま自分の席に着く。すると隣のクラスの
「ねぇ知ってる?今日転校生がくるんだって。」
予想もしてなかった話。たいていは前日のドラマの感想だったり、期間限定のスィーツの話だったり、他愛のない話題から朝の会話はスタートするのが常だった。けれどその日は全くの想像の埒外から会話が始まった。そして、なぜだかわからないけれど、転校生と聞いた瞬間、望は胸の奥でかすかな不安の影がよぎったのを感じた。
「それほんと?珍しい。今まで転校生なんてこの学校にきたことなかったと思うけど。」
「うん。でもなんかほんとらしい。」
「へぇ。高校って基本的に義務教育の小学校や中学校と違って定員があるから、簡単には受け入れできないって聞いたような気がするけど……。」
「そうなの?でも転校生の話はほんとみたいだよ。隣のクラスの玄田君が、職員室で山本先生と小笠原先生が話してるのを聞いたって。」
「ということは二年生かな。どのクラスになるんだろう。ちょっと気になるね。」
「だよね。何人か今職員室を見張ってるみたい。新しい情報が入ったら教えてくれるって。」
「じゃあ、分かったら私にもついでに教えて。」
「おっけー。」
文はガラス越しに別の友人を見つけたようで、この情報を話すために席を立つと、足早に教室を出て行った。
望は友人が出ていくのを見届けると鞄から教科書とノートを取り出して机にしまう。いつもよりもはしゃいだような空気が教室に充満しているのは、転校生の話題のせいだろうと彼女は思った。時折、転校生という単語が耳に届く。
そしてこの浮ついた空気の中でもやはり、さきほどの違和感が存在している。
なんだろう?
はっきりしない問題の答えを探すのを諦めると、それを振り払うように望は一限目の英語にむけて、辞書を引き始めた。
SHR開始の5分前になって隣の席の女子がぱたぱたと走って戻ってきた。席に座りながら彼女、
「文からの伝言。今日くる転校生って二人みたいだよ。めっちゃ気になるよね。文がたまたま廊下ですれちがったらしくて、男の子のほうは顔ちょっとかっこよかったって言ってたよ。女の子のほうもそこそこ可愛かったみたい。」
「そうなんだ。もしかしたらどっちかこのクラスにきたりしてね。」
「うん。もしそうなら私は男の子のほうがいいなぁ。このクラスの男子の顔面偏差値微妙だから、かっこいい男子に来て欲しい。じゃなかったら別にどうでもいいや。」
「あはは。絵里らしい。」
二人の会話が一瞬とぎれた直後に教室の扉が開いて、担任の山本が入ってくる。その後ろに知らない男子生徒が続く。噂の転校生であることは誰の目にも明らかだった。
教室内が水を打ったように静まり返り、生徒全員の視線がその一人の生徒に注がれた。
男子生徒が
賢爾の自己紹介が終わると、後を継いで山本が、転校生が少しでも早く新しい学校になじめるよう仲良くしてやってほしいと続けた。それから山本が賢爾に彼の席を指さして見せた。窓側二列目の一番後。昨日まではなかった机と椅子がそこに鎮座していることに望はやっと気づいた。彼は教師の指示に従い教室を進む。皆の視線が彼に集まっていた。
その日一日転校生は大人気だった。休み時間毎に彼の周りには人が集まり、他愛もない様々な質問を矢継ぎ早に投げかけている。彼は少しとまどったような顔をしながらも新しい学校に慣れようと丁寧に対応していた。その中には文と絵里も含まれていた。
望はそんな集団を離れたところからなんとなく落ち着かない気持ちで眺めていた。
転校生がやってくる話 たろう @under_sorrow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転校生がやってくる話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます