第14話


 昼食の片付けを終わらせ、子供たちを外で遊ばせることにした。

 三人は院長室に入り、内鍵を閉めた。


「どうして鍵を?」

「なんとなく」


 皮張りの椅子に腰掛け、ヤルキンは、さて、と切り出す。


「院長先生が蘇生されたとして、だ。ロゼ、お前は探索者を続けるのか?」

「私はどうせ定職には就けない。これで食っていく」

「おいおい、即答することはないだろ。もっと悩めよ」


 二人は鉛玉を食らったような表情でローゼリカを見た。


「院長先生が戻られたら、私も都市内のどこかで家を見つけて、そこで暮らす。出ていく」

「ちょっと……出ていくって」


 あなたには無理でしょう、と言いかけて口を閉ざした。

 いや、彼女はそんな子供ではない。もう成人している、大人だ。


「でも、いつまでも探索者なんて身分でいるわけにはいかないでしょう。今から、組合の鑑定所にでも仕事を探しに行かない? ほら、ロゼは目利きができるわけだし」

「ロゼ、何もずっとこのままってわけにもいかないだろう。俺が言えたことじゃないが、先生が戻ったらちゃんと学校に行くんだ」

「……先生が戻るかなんて、わからないだろ。先生には、息子がいたんだから」


 ヤルキンはローゼリカに目配せをしたが、気づかれなかった。

 目を白黒させるクーゼリアに、タイミングが悪い、と悪態を吐きそうになる。


「え、ちょっと待って……先生、子供がいたの?」

「俺たちの新しい仲間の男が、先生の息子だってさ。見た目がそっくりなんだ。赤の他人とは思えない」

「あら……えっと……そう、そうなの……でも、先生はどうして息子さんと一緒にいなかったの? そんな話、一度だってしたことなかったし」

「さぁな、あの息子曰く、先生に捨てられたそうだ。言っておくが、私はまだ信じていない。あいつ、先生のことを罵ったし、それに、救児院の院長をやるような人間が、自分の子供を捨てるわけがない。そうだろ?」


 ローゼリカは、吐き捨てるように言った。

 残りの二人は頭を抱える。返答に困るのだ。


「……とにかく、蘇生にかかるお金の心配はないし、先生はちゃんと戻ってくるんだよね?」

「そうだな、うまく行けば、だが」

「まぁ、その仲間に会ってみたい、かな。ちゃんと話をしないとーー」

「それより、聞いてくれよ。今日の探索で拾った死体がなかなかの上ものだったんだ。きっとしばらくは食うに困らない」

「ロゼ、いいかな? 今は、先生の息子さんの話をしたいの。お金の話じゃなくってね」

「……」

「うん、ありがとう……で、蘇生ができるのは、いつですか?」

「早くて一週間後だな」

「そっか、そうですか……」


 院長先生が戻ってきたところで、すぐに迷宮に戻って稼いで来てください、とは言い難いだろう。先生は、迷宮内で死んでいたのだから。


「死因が不明、なんですよね?」

「あぁ、一応な」

「うーん、なんだか謎が多いですね」


 クーゼリアは思い切り伸びをした。

 わからないことだらけだ。

 迷宮になんて潜っていないから、なおのこと。

 ローゼリカはずっと黙っている。

 

「まぁ、結局は生き返らないとわからないことだらけだな」

「そうですね……ロゼは、その人のこと嫌いなんですか?」


 後半部分は小声で聞いたが、彼女には聞こえていたようだ。


「別に、ただ気に食わないところがあっただけ」

「そ、そうなんだ……」

 昼食の片付けを終わらせ、子供たちを外で遊ばせることにした。

 三人は院長室に入り、内鍵を閉めた。


「どうして鍵を?」

「なんとなく」


 皮張りの椅子に腰掛け、ヤルキンは、さて、と切り出す。


「院長先生が蘇生されたとして、だ。ロゼ、お前は探索者を続けるのか?」

「私はどうせ定職には就けない。これで食っていく」

「おいおい、即答することはないだろ。もっと悩めよ」


 二人は鉛玉を食らったような表情でローゼリカを見た。


「院長先生が戻られたら、私も都市内のどこかで家を見つけて、そこで暮らす。出ていく」

「ちょっと……出ていくって」


 あなたには無理でしょう、と言いかけて口を閉ざした。

 いや、彼女はそんな子供ではない。もう成人している、大人だ。


「でも、いつまでも探索者なんて身分でいるわけにはいかないでしょう。今から、組合の鑑定所にでも仕事を探しに行かない? ほら、ロゼは目利きができるわけだし」

「ロゼ、何もずっとこのままってわけにもいかないだろう。俺が言えたことじゃないが、先生が戻ったらちゃんと学校に行くんだ」

「……先生が戻るかなんて、わからないだろ。先生には、息子がいたんだから」


 ヤルキンはローゼリカに目配せをしたが、気づかれなかった。

 目を白黒させるクーゼリアに、タイミングが悪い、と悪態を吐きそうになる。


「え、ちょっと待って……先生、子供がいたの?」

「俺たちの新しい仲間の男が、先生の息子だってさ。見た目がそっくりなんだ。赤の他人とは思えない」

「あら……えっと……そう、そうなの……でも、先生はどうして息子さんと一緒にいなかったの? そんな話、一度だってしたことなかったし」

「さぁな、あの息子曰く、先生に捨てられたそうだ。言っておくが、私はまだ信じていない。あいつ、先生のことを罵ったし、それに、救児院の院長をやるような人間が、自分の子供を捨てるわけがない。そうだろ?」


 ローゼリカは、吐き捨てるように言った。

 残りの二人は頭を抱える。返答に困るのだ。


「……とにかく、蘇生にかかるお金の心配はないし、先生はちゃんと戻ってくるんだよね?」

「そうだな、うまく行けば、だが」

「まぁ、その仲間に会ってみたい、かな。ちゃんと話をしないとーー」

「それより、聞いてくれよ。今日の探索で拾った死体がなかなかの上ものだったんだ。きっとしばらくは食うに困らない」

「ロゼ、いいかな? 今は、先生の息子さんの話をしたいの。お金の話じゃなくってね」

「……」

「うん、ありがとう……で、蘇生ができるのは、いつですか?」

「早くて一週間後だな」

「そっか、そうですか……」


 院長先生が戻ってきたところで、すぐに迷宮に戻って稼いで来てください、とは言い難いだろう。先生は、迷宮内で死んでいたのだから。


「死因が不明、なんですよね?」

「あぁ、一応な」

「うーん、なんだか謎が多いですね」


 クーゼリアは思い切り伸びをした。

 わからないことだらけだ。

 迷宮になんて潜っていないから、なおのこと。

 ローゼリカはずっと黙っている。

 

「まぁ、結局は生き返らないとわからないことだらけだな」

「そうですね……ロゼは、その人のこと嫌いなんですか?」


 後半部分は小声で聞いたが、彼女には聞こえていたようだ。


「別に、ただ気に食わないところがあっただけ」

「そ、そうなんだ……」


 ローゼリカは、なんというか、好き嫌いが激しいのだ。

 たいていの人間には無関心だが、嫌いな人間に対する感情の爆発のさせ方が尋常ではない。

 だから、関係を構築する前に破綻してしまう。

 協調性が、ないわけではないのだが、そこまで気を使えるほど大人ではないのだろう。

 でも、元々ほとんど喋っていなかったのだから、ここまで人と対話できるようになっただけで万々歳だ、と前向きに考えるようにした。



 ローゼリカは、なんというか、好き嫌いが激しいのだ。

 たいていの人間には無関心だが、嫌いな人間に対する感情の爆発のさせ方が尋常ではない。

 だから、関係を構築する前に破綻してしまう。

 協調性が、ないわけではないのだが、そこまで気を使えるほど大人ではないのだろう。

 でも、元々ほとんど喋っていなかったのだから、ここまで人と対話できるようになっただけで万々歳だ、と前向きに考えるようにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る