第4話 説明会


「えー、本日、説明会にお集まりいただいた皆さん、こんにちは。今回、組合に加入した際の雇用について説明させていただく、ローゼリカです。階級は赤銅等級……下から数えて二番目ですが、現在一階層を攻略中の、現役の探索者です」

 壇上に立ち、座席を見渡すと、ざっと100名程度の人間がローゼリカに焦点を合わせていた。人種、年齢、性別も様々で、火精霊族から、影精霊族まで、色々な種族をごちゃ混ぜにした錚々たる面子である。

 中には、西大陸の外から来たであろう変わった出立のものもいた。帯刀したものもいれば、一般市民のような軽装の人も。子供もいれば、歳をそこそこ重ねた人もいたりして。

 皆、目的は同じ。迷宮に入ることを夢見る人々だ。

 そして自分は、そんな人たちの夢に対して、現実を見せるためにやってきた番人である。

「まず、迷宮に入るために必要な資格についてお伝えします。これは、どのような人であっても、取っていただく必要があります。まず、探索者学校の卒業資格。今お集まりいただいている施設にて、三ヶ月ほどの座学と、一週間ほどの実習を行っていただくと発行されます。入学には試験が必要となります。内容は、身体検査です。また、大陸共通語で授業を行いますので、それの読み書きができない方は、入学を拒否いたします。ただし、他の迷宮街にて同様の資格をお持ちの方は、二日間の座学を受けていただければ、この街の資格を進呈いたします」

 普段、ここまで喋ることはないので、舌は乾き、緊張で筋肉が強張った。台の上に置かれた台本を横目に、水晶板に投影された映像を入れ替える。

 だが、焦って次の次の映像を映してしまった。

 慌てて手元で入れ替えたが、ここで一気に何もかもがどうでも良くなった。完璧なスピーチを目指していたが、全て頭から吹っ飛んだ。

 職員が、キッとこちらを睨んだ。じゃあ素人に委託するなよ、とローゼリカは苛立ったが、なんとか押さえ込んだ。

(あークソ、なんも覚えてない) 

 前日頑張って覚えたはずの台本の内容をまる忘れしてしまった。

 スラスラと誦じることができたはずだ。昨日までは。

 ローゼリカは諦めて、用意した台本を取り出した。机の前貼りで見えない位置に置くと、気を取り直して説明を再開する。

「次に、職業資格についての説明を行います。迷宮内では、戦闘や採掘などを行い、報酬を得ていただくのですが、これらの行為を行うには、資格が必要です。戦闘などに関しましては、魔術を使う方は魔術師免許や、傷ついた方を癒される場合でしたら、医者免許などがあります。これはどういうことかというと、各種専門技能への正しい知識や、確かな技術があることを証明していただく必要があるのです。パーティーを組む際の詐欺行為の阻止を目的としています。なので、どうしても必要なのです。そこはご容赦ください。大抵の資格の場合、組合認定の組織にて試験を受けていただき、合格すれば資格を取得したという証拠になります。もし、新しい技術を習得されたい場合は、組合認定の組織にて各種講座を受講していただくなどの方法があります。また、剣術などで特定の流派を収めていらっしゃる方は、組合の職員が別個に認定を行います。探索者になる際、これらの資格は、最低一つ取っていただくことになります。組合が推奨する資格などは、お手元の資料などを確認ください。個々の適正にあった資格を取得することをお勧めします。資格が必要な行為であるのにも関わらず、無免許で行った場合は罰金、もしくは探索者資格の凍結などの罰則があります。不正はできませんよ、組合員の刻印で、全ての行動は記録されます。どのような魔術を行使したか、どのように戦闘を行ったか、などの行動は全て組合で記録しています」

 おお、と周りがざわめいた。

 行動を組合に記録されている、というのは少し抵抗があるだろう。

 何も、小便に行った時間まで全て記録されるんじゃないだろうな、という声が奥から聞こえてきた。

「えー、みなさん。迷宮内での犯罪を未然に防ぐための処置なので、ご理解くださいませ」

 脇の椅子に座っている職員が、面倒臭そうに大声でそう言った。

 すると余計にざわついてしまって、再開のタイミングに戸惑っていると、やれ、という圧を背中から受け取った。

「私が現役の探索者であるということは、冒頭お伝えした通りですが、今回は私がどのように組合の制度を利用しているのかについてお話しします。まず、私は現在もう一人の探索者の方とペアを組み、迷宮の探索を行っています。私が取得している資格は、刃物取り扱い、戦闘偵察、危険魔術道具取り扱い、魔鉱石採取、鑑定二級の五つです。戦闘時には、斥候役を努めています。普段は、迷宮の探索を進めつつ、このように後進の育成や観光業に関わる仕事を行っています。組合に所属すると、組合に寄せられた依頼を受けることができます。探索者は、その依頼を解決することでお金を稼ぐことができます。また、一定数の依頼を解決したり、迷宮から貴重なものを持って帰ったり、地図の未開区域を探索すると、等級が上がり、難しい依頼を受けることができます。これらの他にも、様々な働き方がありますが、長くなるので割愛します。学校に入学すれば、座学の時間に教えてもらえますので。また、組合では保険に加入することができます。月にいくらか納めれば、迷宮内で負った怪我や病気を無償で治療してもらうことができます。他にも、探索者のための宿や、武器や道具の販売をしている店に入ることもできますし、武器や防具を預けることもできます。というか、街中で武装していると捕まるので、武器は絶対に持ち歩かないでください。えー、ここまでお話ししたところで、学術院の、次のものに替わろうと思います。ここまでで何か、質問はありますか?」

「はい!」

「奥の、黒い服の方、どうぞ」

「探索者って、どれくらい稼げるんですか?」

「等級にもよりますが、赤銅等級の探索者週に5日潜ったとして、平均15万ガレオンいくかいかないかくらいですね」

「そうですか! あざっす!」

 耳聡いローゼリカは、その男が隣に座った誰かに「俺だったら二倍は稼げる」と自慢して、それを無視されているのを聞き取ることができた。 

 平均的な探索者の月収は、親方から独立したばかり職人のそれと変わらない。

 ローゼリカはそれすら稼げていない。稼げていたら、ここにはいない。

 一部の探索者が法外すぎるが故に、平均値がおかしくなっているだけである。

 中央値と言わないのがいやらしいな、と思った。

(なんか……夢見がちな人ばかりだな)

 ローゼリカの偏見だが、一攫千金を狙いにくるような人間は、迷宮探索に向いていない。常に付き纏う命の危機。それにさらされることへのストレスと、得られる対価は釣り合わない。不安定な仕事だ。

 迷宮が目的ではなく手段である人間は、強い。修行のために来た人間、戦わねば生きていけない武者と、金を稼ぐために入る職業探索者との溝は深い。

 大抵の人間は、現実と理想との乖離に恐れをなし、ここを去る。冒険譚を語られるような英雄になるには、文字通り、死ぬ気で、血の滲むような思いで潜り続けるしかない。

 ローゼリカ自身、この仕事に向いているとは思えなかった。ただ、こうするしかなかった。ここしか居場所がなかっただけで。

(時間より十分早く終わらせてしまった……これでよかったのか……)

 不安になりながら、担当官の方に目線をやると、何やら小声で隣の職員と話しているのが見えた。

(……私のことを話しているのか? ああ、いやだいやだ……見ないでくれ)

「質疑応答はこれで終了します」

 職員が後ろから、そう言った。

「ローゼリカさん、時計見てる?」

 言われて時計を確認すると、十分ほどずれていた。


 壇上から降りて、後ろの控室に入ると背後から声をかけられた。

「お疲れ様です。さて、あとは俺に任せてくださいよ」

 後ろを振り返ると、見覚えのある男の顔が、あった。

「アラン……ネイム!?」

 こんなこともあるのか! とローゼリカは驚きを隠せなかった。

 偶然にしてはできすぎている。いっそ気味が悪いと感じるほどに。

「そうですよ、俺も今日ここでやるんですよ、説明を」

「この後……ということは、学術院のーー」

「あっはは、ともかく、あなたがあんなに流暢に喋るなんて、俺も知りませんでしたよ」

 話を遮るように話題を逸らされ、眉間にしわがよった。

 ただ、時間が差し迫っている。いつまでも壇上を空席にしておくわけにはいかない。

「早く行ったら?」

 苛立ちを込めた声でそう言うと、向こうはヘラヘラと笑って、行ってきまーす! と子供のような声で言った。

 アランが壇上でまともに話すかどうか、それだけが気がかりで、こっそり見に行った。

(だって、あいつならやりかねない……自殺がどうだの、こうだのって)

 壇上に上がると、一礼してから、大きな声でハキハキと、挨拶を始めた。

「今日、ここにお集まりのみなさん! 私ども学術院は、探索者を必要としています。皆さんの力が必要なのです!」

 それから後は、まぁ、普通の勧誘告知である。

 組合と提携してどうのこうの、学術院がどのようなものを求めているか待遇がどうだの。

 陰から一人、冷や冷やしながらそれを聞いていたが、そんなそぶりは一切見せず、滞りなく説明は終了した。


 説明会自体が終わり、未来の探索者たちが解散すると、ローゼリカはアランの元へと歩み寄った。ただなんとなく、暇だったので、そうすることにした。そうしたら、食事に誘われた。奢ると言われたので、断ることは難しかった。理性はいくな、と念じるのだが、財布の中身を思い出し、素直に誘いに乗ることにした。


「あんた、普通に話せるんだ」

「そうですね、俺が目指すのは清く正しい自殺です。決して、人様に迷惑をかけてはいけないと、心に誓っております」

(じゃあ、私に殺してくれなんて頼んだのは……迷惑をかけたにカウントされていないのか?)

「ここで死ぬーとか言い出したら、あんた、減給じゃ済まされないよな」

「ああ! 壇上で死ぬのも悪くないですね! 観衆の目の前での突然死……正直、考えたら興奮してきました。すばらしいアイデアです。特許を申請しましょうか? 同じ自殺法を試した人がいたら、遺族から使用料をぶんどりましょう!」

「はぁ……?」

 目が、危険な光を帯びていた。

 正直、他人のフリをしたい。

 話が通じているのかいないのか、とにかく飛躍しすぎて、対応に疲れた。

(頼むから、空気読んでよ)

 現実逃避に、ローゼリカは備え付けのメニューを眺めた。

 二人は、打ち上げと称して酒の飲める食堂に来ていた。

 そう、食堂。あくまでメインは食べ物である。アルコールはおまけ。そうすることで、酒税の支払いを抑えているのだ。

 メニューを眺めながら、説明会の時のアランの様子を思い返す。正確には、彼をみていた人々の反応を。

 アランの説明は、それはそれは上手いものだった。演説のように、淀みなく言葉が流れる。彼は学術院から派遣された研究者だった。死の研究者、というのはあながち間違いではない。彼の研究分野は、「遺跡の発掘」と「魔鉱石の使用における人体への影響」についてだった。前者は、遺跡に埋まった人間の死因から当時の文化水準を推察することがそうで、後者は魔鉱石が人体に及ぼす悪影響の中に「寿命を早める」というものがある。

 意外なことに、二つの研究分野でそこそこの実績を残しているらしく、未来ある探索者に、研究についての助力を要請することと、学術院所属の探索者になることについての利点を説いていた。この街は、これらの研究、どちらの目的も噛み合っているという理屈らしい。

 そこだけ見れば、別におかしいことではない。

 死の研究者などと恐ろしげな言葉を口にし、意味深なことを言っているが、実態はごく普通のありふれた研究内容の、少し優秀な変人だった。

 ローゼリカには、学がない。正確には、学歴がない。

 この街全体の識字率はおおよそ六割。およそ六年間の義務教育が課されているが、それはここで生まれた子供だけに課されるものであり、移民には適応されない。

 孤児院に預けられたローゼリカだからこそ、読み書きや計算ができているが、それすらままならない大人が、この街にはたくさんいた。

 そもそも、大学や~院のような高等教育機関は、西大陸にはほとんどなく、優秀な魔術師などは、中央に留学するのが普通だった。

 勉強するくらいなら、鶴橋を持って石でも掘りに行った方が儲かるこの地域において、わざわざ好き好んで、実益的ではない、魔術や医術以外の学問を修める人間はほぼ皆無であると言い切ってもよいだろう。

 だから、研究について説かれても、その難しさが理解し難いので、全員頭のいい人であることくらいしか読み取れなかった。

 実際のアラン・ネイムの学士としての実績は、それなりのキャリアがあり、そこそこ目をかけられているほどの結果を残しているのだが、それはこれだけの交流では読み解くことができない事実である。


 それよりも、ローゼリカが驚いたのは彼の話姿に見惚れる人々の視線だった。

 アランは平均的な価値観からして、相当な美男子であったようで、壇上に登った時、人々の視線が生々しい、粘つくような、高価な品物をみる人間の、好奇なものに変わったのがわかった。

 特に、女性たちの視線を一手に集めていた。

 花も恥じらう、とは男性に対して使う形容詞ではないが、まさしくアランは、花も恥じらい、世界の寵愛を一身に受けて生まれたような、独特の色気を持った青年であった。

 やや痩せていて、それがやつれているようにしか感じていなかったローゼリカと、それに儚さを見出した他の人たちとでは、考え方が根本的に異なった。

 口調も、落ち着いて喋れば、早口でも、奇怪な冗談を言い出すわけでもなく、淀みなく話す様子はまさしく教師のようであった。

(本の挿絵で描かれる王子やら騎士やらって柄ではないよな)

 自身のおぼろげな記憶の中で、同年代の同性が、きゃあきゃあとはしゃいでいた相手の顔を思い出した。それは、絵物語の中に登場する創作上の人物であったり、酒場で歌う芸人であったり、高名な探索者であったりもした。

 全員、確かに綺麗な顔をしていた。

 ただ、アランは今まで見てきたそういう人の中にはいなかったタイプで、インテリというか、独特の雰囲気がある、目立つ人間とは少し違う変わった性質を持っていた。

 顔ばかり見ていると、二つの瞳が、機嫌を伺うようにこちらを射抜いた。

 不覚にも、おお、と思った。

(まー、中身を知ってあんな変人好きになる奇特な人はいないだろうな)

 口を開けば、痛くない死に方なんかについて語り出す人間なのだから、特定の相手がいたことは少ないだろう。

 むしろ、こいつと話してまともな神経でいられる人を紹介してほしいとすら思う。

「注文、決まったなら呼びますよ」

「あ、あぁ……頼む」

 厨房にも響くような大きな声で、彼は店員を呼びつけた。

 最も、ここは酒場なので大声で騒ぐ連中もいるのだが、素面でここまで目立っているのは彼だけだった。

「店員さん、白魚の塩煮込みと、エール酒一杯お願いします。あ、ついでに白パンも」

「塩麺の油、野菜、汁マシマシ麺大盛りの、付け合わせは白野菜の砂糖漬け。飲み物は発泡酒」

 店員は淡々と、事務的に注文を取った後、厨房へと帰って行った。


 二人が昼食を食べに入った青い鳥亭は、異国の料理をメインに扱う大衆食堂である。

 24時間いつでも好きな時に好きなものが食べれて、ボリューム満点しかも安価、というのが売りで、料理の内容も、多国籍かつ種類に富んでいる。

 様々な土地から集まる探索者が、故郷の味に舌鼓を打つ、というわけだ。

 ただ、観光ガイドに掲載されるような有名店ではない。知る人ぞ知る店という感じで、地元民が客のほとんどである。

 ローゼリカも、存在こそ認知していたものの、実際に訪れたのは初めてだった。

「ね、来てよかったでしょう?」

「……まだ食べてない」


 確かに、雰囲気は悪くない。落ち着いているとは言い難いが、苛立つほど喧しいわけではない。

 先に運ばれてきた酒に口をつけると、自分が大人であるような気がしてきた。


「……で、今回食事に誘った理由は?」

「そうですね、まずはお腹が減っていたから……で、二つ目は少し話したいことがありまして」

「話したいこと?」

「単刀直入にいうと、俺は貴方たちと一緒に探索に行きたいと思っていまして」

 ローゼリカは思わず、口に含んだ酒を吐き出しそうになった。売り込みだとは全く思っていなかったのだ。

「手っ取り早く等級をあげたいって思いませんか? 俺は魔術が使えるから、探索効率は上がりますよ」

「待って、話が掴めないんだが」

 なぜ、学術院の学者が、自分たち死体さらいと一緒に迷宮に行きたがるのか。

 冗談だとは思えないトーンで、そんなことを言われて、非常に困惑した。

「そもそも、学術院はそっちで雇った探索者と提携しているんじゃないのか? それに、私みたいな低等級のやつを雇い入れる利点がわからない」

 次ばやに質問すると、アランはうんうん、と何もかもわかっているような顔でうなずいた。

「俺はね、溢れものなんですよ」

 見たらわかる、とは言えなかった。

 だから黙っていた。溢れものという言葉が、自分にも反射して、喉から迫り上げてくる何かがあった。


「確かに、等級が上がれば請け負える仕事が増える……だが、それの分け前はどうする? 上がったらわからんが、今は二等分しても雀の涙だ。三等分しては余計に減る。等級ってそんな一気に上がるもんじゃないだろ、そこはどうなんだ」

「まぁ、死体を集めるにしろ、もっと深い階層に潜った方がワリがいい。一階層で拾える死体から得られる収入など、たかがしれていますよね。そもそも、死体拾い自体が効率的な仕事ではないですよね。定職にするものじゃない。しかも、一階層止まりなら尚更だ。俺を雇って、前線を拡大しましょう。それならあなたたちは”稼げる”んですよ」

「確かにそうだが……三人に増えたからとはいえ、我々は戦いに勝てると思うか? 私は勝てる戦いしかしたくない。奥の階層に進むことは、確かに検討しているが、中堅の探索者が入ったとはいえ、決して死ぬことなく、全員が無事な状態で進むことができる保証がないだろう……そして、我々が死体をさらうのは、意味があっての行為だ。わけは、聞かれても答えることはできないが」

「なるほど、そちらの意図は理解しました。けれど、俺ももう一人で潜るのは限界を感じていたところなんです……だから、臨時でもいいので雇っていただけないでしょうか? 取り分は報酬の一割でいいです」

「そちらのメリットは? 慈善事業同然の報酬で、働く意味がわからない。認めるが、我々二人は弱い。そちらの攻略に付き合える自信はない。」

「俺を雇ってくれる人は、あなたしかいないんですよ」


 必死な表情でそう懇願されたが、正直信じ難かった。

 蘇生術が使え、魔術の知識があり、一人で迷宮に潜れるほどの実力者が、安い金で買い叩いてもいいと言っている。詐欺ではないかと疑うほど、好条件だ。

 


「それに……死にたがりのやつに、背中は預けられないな」


 自分で口に出して、そうかと納得した。

 技術どうこうではなく、そういうことなのである。


「あぁ……あれは俺の趣味であり、本性であり、性癖なのでどうしようもないんですよ」

 お前の本性は生物の本能と真逆をいくのか、と口には出さずに突っ込んだ。

 堂々と言ってのける様は、自信に満ち溢れていた。本人の容貌と、妙な説得力のおかげで、なぜか異常な言動を飲み込めてしまう自身がいた。

 これを飼っている学術院の底力を、肌で感じた。

「……そうか。まぁ、私の一存では決められないから、ヤルキンと相談することにする」

「わかりました。また、出会ったときにでもお返事を聞きましょうかね。日中は迷宮か賢者の塔の支部にでもいますから、何か用があれば、いつでもどうぞ」

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