襲滅学園インフィニティ
エベル
第1話
「ただいま」
僕が週2の塾から帰宅すると家の電気は消えていた。いつもなら両親が仕事から帰宅している頃で明るいはずなのにめずらしいこともあるもんだ。
「誰もいないの?」
手探りで玄関付近の電気をつける。すると、真っ赤な血のついた包丁が床に落ちていた。ホラー映画でしかみたことがない光景に一気に体の体温が下がってくる。
「なんだよ……ドッキリのつもりか?」
声が震えて顔が引きつりながらこれはきっと違うんだと言い聞かせてキッチンへ向かう。ガタガタ冷蔵庫から音がして恐る恐る開けてみる。中には目玉のついた肉塊が入っていた。ぎょろっとしてうごめく視線と目が合う。人生初の恐怖を感じている。
「ウアアアア!」
ベッドから飛び起きた。すっごくリアルな夢だった。よかった……夢で本当によかった。時計を見ると電車がギリギリだった。早く着がえて待ち合わせ場所に行こう。
「ごめん遅れて」
「寝坊だろ」
「ああ」
僕らは中学卒業して、春休みだ。友達の須藤とジャンクフードを食べる。須藤は名門校である私立インフィニオ学園に入学が決まってるようだ。そして僕は……。
「そんでケイチ受験落ちたんだって!?」
「うんケン並み」
2つ受けて両方ダメだった。どっちかは受かる。みんな普通に高校いって企業に就職してるなら大丈夫だろうと楽観的に考えてた。
「世界の強制力って僕には通じないのかも」
「あのな遅めの中二病はともかく……ノキだぞ。軒並みはノキナミだぞケンナミじゃねえ」
「なんやて……」
「いきなり関西弁すんな」
「せやかて須藤」
「いやそれを言いたかっただけかよ!」
ともかくどうして僕が受験に落ちたのかようやく把握した。定員オーバーじゃない。試験の成績に問題があったんだ。それならしかたないと納得する。どうするかこれから考えないとだ。
「じゃあな」
友達と別れて家に帰ろうと駅へ向かう。その途中駅近くのバス停の前で老人が右往左往していた。間違いなく道に迷ってるとこだろう。
「おじいさん迷子ですか?」
「ううむ……この近くのパーラーにいきだいんじゃ」
「パーラー……スイパラ……?」
パーラーと検索してたまたま見つけたブログでお年寄りは喫茶店のこともパーラーと言ったりすると書いてあった。
「もしかしてここですか?」
「そこじゃ……今時親切な若者じゃな」
おじいさんは店に入っていく。待ち合わせ相手が店内で手を振っていた。これで用事もすんだし早く帰ってテレビ見よう。
「あなたは幸せ?」
僕の家は一軒家で周囲は両親の趣味で作ったガーデニングの小さな庭がある。周りには柵がついていて入り口は背丈ほどの鉄製の門だ。開けようと手をかけたタイミングで女の子に声をかけられた。幸せかと聞かれればそうだ。両親が揃ってるし友達もそこそこいて間違いない。それが一般的に普通のステータスであり僕は恵まれてるほうだから幸せなはずだ。
「今は幸せだよ」
受験落ちてこれから道を外れて不幸になるかもしれないけど現時点では幸せだ。
「あなた変な人」
僕は平均的な顔立ちで特に美形でも醜くもないし服も雑誌でモデルが着てたのを参考にした量産型の既製品だってのに何が変だっていうんだろ。一般人がモデルの真似して着ても似合ってないって言いたいのか。
「知らない人に声かけられて普通に答えてる」
「そんなこと言ったら君も知らない人に声かけないでくれよ」
違和感より問いかけの答えを考えることに意識をもってかれて平然と話したものの冷静になるとこれはおかしいことだってことを指摘されて初めて認識した。
「あなたとは近いうちに会うことになる気がする」
「はあ?」
芝居がかった捨て台詞を吐いて女の子はどこかへ行った。キツネにつままれたようなもんだと僕はさっさとドアを開けて家に入った。母さんは趣味のガーデニングを終えたばかりのようでまだ風化せず生渇きの土のついた手袋が玄関に置いてある。
「ただいま母さん」
返事がないから二階かトイレにでもいるんだろう。荷物をおいてテレビをつけた。一時間くらいしても母さんはやってこない。心臓発作をおこして倒れているのかもしれない。心配になって家の中を探してもどこにもいない。
「ただいまー」
「父さん大変だ!」
父さんに母さんがいないことを話してすぐ電話で捜索願いを出した。心配で気を揉みながら眠りについた。夢の中の僕は庭にいる。花壇があってそこには何かを埋めたような盛り上がりがあった。まるで母さんが……やめろよ僕。母さんはきっと生きてる。
「お話よろしいですか?」
次の日になって家でニュースを見ていると知らないおじさんが訪ねてきた。父さんは仕事で留守だから僕が応対する。おじさんは入る高校がない僕をぜひインフィニオ学園に入れたいといいだした。そこは須藤の入る名門校だ。この状況で思わぬ幸運が舞い込んだ。
「お母様のこと大変ですね」
帰り際に意味深なことをささやいていった。あの人が何か知ってるのは間違いない。僕はあの学園へ通う決意を固めた。
「あのせんせイケメンくね! ここにして正解だわ!」
「そこそこ男子の体格もいいしぃ……」
地味なひざ下5センチ厳守の中学と違い超ミニスカ女子がたくさんいる。男子はその中でもひときわ目を引く女子を見ていた。
「ジロジロ見ないでくれる」
「ねえケイチは幸せ?」
敵を殲滅したあと彼女に問いかけられて僕は学園に来る前のことを思い返した。
襲滅学園インフィニティ エベル @zesuswomann
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