最終話 すべての真実
「久しぶり
“持って行ってくれていいのに”?俺は少しの違和感を聞き逃さなかった。
「持って行ってくれていいのにってどいうことだ?」
肩の下まである髪をたなびかせながらこっちを向いた紗耶香の顔は真剣そのものだったがその奥にはかすかに悲しみが感じられた。
俺がもう一言紗耶香に質問しようとして口を開いた瞬間紗耶香の方から話し始めた。
「待って。私観覧車で話す気だった話をしに来たの。」
今度こそ告白の返事かと俺は覚悟した。どちらの答えでもいいように。
「私も夏彦のことが好き。」
普通なら二人で抱き合ったりするシーンだろうが雰囲気がそうはさせなかった。
俺は十分うれしかったが、紗耶香の様子がおかしい。
「紗耶香?」
「でも私は夏彦とは付き合えない。」
「どうして」
「ここに夏彦を連れてきたのは私。この家の持ち主も私。」
は?
どういうことか説明してもらわないと、脳が高熱になってい今にも大切な脳細胞が片っ端から壊れそうだ。
「どういうことか詳しく説明してもらってもいいか?」
「えぇ。」
「ある日私は登校中に大通りに横たわっていた夏彦君を見つけた。そして自分の家に連れていって看病した。その後お医者さんに診てもらったときにあなたがタイムスリップしやすい体質だと分かったの。」
そんな、馬鹿な。もうすべてが信じられないが、出会った時と同じで紗耶香は真剣だった。
「それと同じ時期にアシダー党が火星側に武力を使って移住権を求めようとしていることに気づいたわ。だから専用の機械を使えば元の世界に返せた夏彦をこの世界に残し、家に制服に着替えられる機械と音声を残して私は自宅を去ったの。その後私はうそをついて実家に入り浸っていたの。」
あの時紗耶香の家のお風呂で感じたどこかで嗅いだ覚えのあるにおいは自宅のにおいだったんだ。
しかも俺の家にも、紗耶香の家にもたくさん人形があった。
「この計画は一人で進めるには効率が悪すぎたから、あなたに手伝ってもらうことにしたの。計画が成功しても、失敗しても終わり次第あなたをもとの世界に戻すつもりだったわ。政府から狙われないように。あなただけでも守れるはずだった。」
急に紗耶香の様子が変わった。
「でも。でも夏彦君が好きとかいうから。私が夏彦君のことを好きになったから、元の世界に戻したくなくなっちゃったじゃない。」
紗耶香は泣いていた。
それも普通の泣き方じゃない。顔をしわくちゃにして、斜め下を向きながら子供のように泣き続けた。
目からこぼれた涙は頬を伝い一滴、また一滴と地面に落ちていく。
そんな姿の女の子を見るとこっちまで泣けてくる。たとえ利用されていたとしても、たとえ紗耶香が伝えてくれた愛が嘘でも俺はこの世界にいたい。
”ずっと紗耶香のそばにいたい。”
「俺はこの世界にいる。元の世界に戻る方法がなくなったと思えば苦じゃないさ。それに元の世界にもどったってまたタイムスリップしてしまうんだろ。ならこの世界の方が幸せさ。政府に狙われる時は一緒だよ。」
「本当に?本当に?」
紗耶香は俺に抱きつきながら何回も聞いてきた。
おれは何回も優しい声で言い続けた。
「うん。本当だよ。」
終わる世界で君と… 赤のアドベンゼン @new_kakuyomer
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