第9話 希望への作戦再開

 緊張している俺のことを気にする素振りもなく、観覧車は機械的に回っていく。


 どんどんゴンドラは高い位置に上がっていきちょうど4分の1くらいのところまで上がった時だった。紗耶香さやかが突然口を開いた。


 「夏彦なつひこ。観覧車に乗った時に聞いてほしい話があるって言ったの覚えてる?」


 大きな緊張とその中にある少しの期待から声が上ずった状態で返事してしまった。


 「うん。」


 俺は続けて聞いた。


 「聞いてほしい話ってなんだ?」

 「夏彦にずっと言いたいことがあったの。でもこれはできるだけあなたには隠しておきたかったのだけれど……」

 

 その瞬間ゴンドラは、日の入りが一番きれいに見える頂上より少し回ったところに来た。


 「きれいだ。」


 俺の口から急に言葉が勝手に出てきた。


 「本当ね。」

 

 紗耶香は自分が話したかったことをあきらめて、俺の話に相槌あいづちを打った。


 紗耶香の話を聞きたかったとはいえ、観覧車から見る夕暮れはとてもきれいだった。


 山に落ちていく日と、その光に照らされた雲がとても美しい



 その夕暮れの美しさに目を奪われている間に時は過ぎ、気づけばゴンドラは一周していた。


 「夕暮れがきれいすぎて言いそびれちゃったわ、大切な話。」

 「ごめんな。俺が話をそらしたせいで。」

 「いいわよ。この話は作戦が終わったら話すことにするわ。覚えておいてね。」

 「分かったよ。」


 今回告白を期待していた俺は、紗耶香の話を聞くことはできなかった。でも、観覧車から遊園地を出て家に帰るまで他愛のない話をしていた時間はとても楽しかった。


 楽しかったしいいか。しかも告白されるなんて俺の思い違いの可能性の方が高いしな。


 俺はそう思うことにした。



 遊園地に行ってから数日がたった。


 俺たちのアカウントには通知は切ったもののたくさんのフォロワー、すなわち応援者が付いていた。俺たちは遊園地以来久しぶりに集まろうと決め、また紗耶香の家に集まることにした。


 「作戦を次のステップに移す時が来たわ。」

 「拡散も進んだしいいころ合いだろう。」

 

 俺たちの作戦は極めて簡潔なものだった。簡単に言ってしまえばSNSを使って世界の人たちを動かして、火星に抗議するというものだ。後は火星側の出方によって様々な計画に移行するつもりだ。


 「SNSに火星に向けて抗議の投稿をするように多言語で呼びかけるのよ。」

 「あぁ。これが成功すれば火星側も何らかの行動に出てくるはずだ。」


 俺たちはリアリティを出すためにそれぞれ違う文を投稿した。


 “今、戦争を起こさないために俺たちできることはアシダー党に頼らずに、地球に住んでいる人々が直接火星に交渉を求めることだ。そのために皆には火星側のアカウントやHPに火星への交渉を求めるような文を投稿してほしい。”


 俺はこの文を多言語で投稿した。


 紗耶香も自分で考えた文を投稿している。

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