第8話 春風に吹かれる日

 ジェットコースターに乗り込んで、出発を待つまでの間しょうもない話をずっとしていた。すると急に紗耶香さやかが、

 

 「夏彦なつひこ。観覧車に乗った時に一つだけ話したいことがあるの。聞いてくれる?」


 本当に急に言われたので俺は動揺した。



 この数か月間、紗耶香と一緒に長い期間を過ごすうちに、俺は紗耶香のことを好きになったらしい。



 出会ってから、長い期間を過ごす間に様々な一面が見えてきて、とてもかわいらしく、時にはいとおしくさえ感じた。いつか告白をしたいと考えているが、転生先の、しかも未来の人に告白するなんていけない気がして、いまだに勇気を出せていない。


 そんな女の子から、「観覧車に乗ったときに話したいことがある。」とか言われたら期待してしまうにきまっている。


 「うん。いいよ。」


 そんなことを言われるのに慣れていない俺はそっけない返事しかできなかった。


 動揺し、きちんとした返事もできないままジェットコースターは出発した。



 そのあとのことはあまりよく覚えていない。なぜならあまりにも近代化しすぎていて忘れていたが、俺はジェットコースターのような乗り物に乗ると一瞬で酔ってしまうのだった。 


 観覧車以外に覚えているのは昼飯を一緒に食べたという思い出だけだ。


 昼飯に何を食べようか考えていなかったので、ご飯屋さんが並んだ通りを二人で歩きながら何を食べようかを話し合った。


 「何が食べたい?」

 


 「なんでもいいけれど、俺たちが手軽に食べれそうなところって限られてない?」

 「じゃイートインもできるから、エクボナルドに行きましょう。」


 

 この遊園地デートが終わってしまったら、それこそ作戦がすべて終わるまで出かけられないだろう。



 それから俺たちはエクボナルドに行って、中で食べたいものを食べた。


 外に出ると少し肌寒く感じた。時計は16時を指していた。日が落ちてきて気温が下がって

、そのかわりに春特有の寒い風が吹いてきた。 園内に植わっている桜などの花びらがきれいに散っていく。


 俺たちは最後に観覧車に乗って帰ることにした。さっき感じた春特有の風が、俺たちの正面から吹いてくる。お互いに寒く感じたので少し早歩きで観覧車に向かった。


 観覧車は園内で少し小高くなった場所にあって、園内の端にあったので二人で歩くと時間がかかった。しかも小高くなっているせいで、そこまで向かうにはかなりの急斜面を登る必要があった。


 

 観覧車に着いた頃にはちょうど日の入りがきれいに見える時間になっていた。


 二人で観覧車に乗り込んだ。


 係のおじさんがドアをガチャンという音とともに閉めた瞬間、ゴンドラの中には独特の緊張感が漂った。それは、付き合ってもいない二人の男女が密室空間に二人きりだからだろう。

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