10 エピローグ




 〈パンドラガーデン〉による意識不明者の増大はトップニュースとなった。


 病院は天をひっくり返したかのような大騒ぎとなり、マスメディアはこれに対しいち早く食いつき連日放送した。


 無論〈パンドラガーデン〉は発売禁止となり、アクセスできないようになった。植物状態の一名を除いたプレイヤーたちが帰らぬものとなり、〈サイキックドリーム〉の株は大幅に下落して倒産を免れなかった。


 〈倫理会〉は発売を許可した責任も含め調査に乗り出し、また今後世に出る予定だったホラージャンルのVRゲームの発売を見送らせ多くの企業とゲーマーたちを混迷させることとなった。


 ホラージャンル自体の是非も再審することとなり、全く今後の見通しがなかった。






 飽きやすい大衆の中で一連の事件が風化しかけた頃、一つの都市伝説が持ち上がった。


 その内容というのも、VR空間に〈パンドラガーデン〉の看板キャラクターともいえる鉄球頭――ジャッジメントオーブを見たというものである。


 そのVR空間はゲームに限らず仮想リゾートなど多岐に渡った。




 目撃者たちの証言はほぼ統一されており、「斧をひきずりながら歩いていた。こっちを見ると『違う』とだけ呟いて去っていった」とのことだ。


 多くの者たちの記憶の中から再び〈パンドラガーデン〉事件を掘り起こさせたのは言うまでもない。


 バグ、事件の原因との関連性への議論が起こった。


 そんな議論も、結局なんだか分からないまま終息へと向かっていく。









 とあるVR空間。


 ここは誰も知らぬデータの行く着く先にて、最深層。


 天は青く、白の0と1の数字が羊雲のように無数に並んでいる。対する地は鏡や水面のように空を映し、これまた青色であった。




 そんな美しいともとれる世界に入ってきた存在がいた。


 頭は鉄球という異形の大男だった。


 かつて人々に噂されたように大斧を引きずって歩いている。



 男はひたすら歩き続け、この地にやってきた。


 かつて愛した者を探しに。




 男は足を止めた。


 もう一歩進めば踏み潰してしまうような距離にそれはあった。




 「やっと見つけた」




 男は大斧を手から離し、膝ひざから崩れ落ちて手で優しく囲む。




 ――青い一輪の薔薇ばらが咲いていた。




「アリシア」


 


 かつて仮想空間から現実世界を〈悪意の庭〉に変えようとした悪魔の涙。


 それを自分と世界まるごと消滅させた一人の女。


 そして彼女を愛した鉄球頭の男。




 「望」という漢字には無いものを求める様を表す。

 そして青い薔薇は人工的に造られた存在である。



 物語は誰知らぬ所でひっそりと幕を閉じようとしていた。




                                 《了》





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VRホラゲを始めたら何故か敵キャラになった件について 墨沼かげと @suminuma

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