一 そして門へ誘われる
「――果たして、吸血鬼はそのように美麗で、気高い存在でなければなりません」
この日、トルヴァエン(※)はその気候に似合わしくない雨模様を飾っていた。八月だというのに凍てつくかのような寒気を帯びたそれは、シャープにとって非常に好ましいものでもあった。
「それは、カーミラのような?」
「彼女は狼にも蝙蝠にもなれない」
雨風は次第に増していき、古屋に置かれた蝋燭の灯は不規則に揺らめく。
シャープは持ち前の顎まで伸びた髭を揺すり、自身の前に座る男――フレイを眺めた。先ほどからこの気候にも負けぬほどの激しい貧乏ゆすりをしている彼はしかし、身の上にあった立派な燕尾服を着こなしている。机に置かれたシルクハットは、彼の順風満帆な人生を象徴するかのように純白で、そして清楚だ。
「よく、よく分かりました。噂に違わぬ面白い方だ」
フレイは足の揺れを止めさせると「しかし吸血鬼の住処となると、まさしく私の館はお誂え向きといえるでしょうな」
ようやくきたか。シャープは足を組みなおし、フレイに向き直った。
「ロード・セラジル――」
「フレイで結構」
「では、フレイ殿。お聞きしましょうか。瘴気なる館とは……?」
入り込んだすきま風が、二人の身体を隔てていた。
※…ウェールズ南東部に位置する郡
ロゼリアのために 物部道三 @mono354
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