abrf年rb月ad日
学校に入って4年も経つと、クラスではグループとの会話が依然として多い一方で君とは何の気なしに話す仲にもなっていた。
しかしこの年と翌年はクラスが異なり、帰り道に出会ったら少し話す程度で、会話の頻度はかなり減っていた。
給食の始まりを告げるチャイムが鳴る。私たちは6人班で机を合わせ、給食当番の人はせっせと白いエプロンを着て廊下にある棚にクラスごとに割り当てられた食器と献立を運んでくる。私はいつものグループの人達と一緒に手を洗いに行く。今日の献立は待ちに待ったカレーだった。当時はカレーが大人気で、おかわりの分のじゃんけん戦争がしばしば起こっていた。
手洗い場の隣に給食棚があり、石けんの匂いに勝ってカレーの良い匂いがする。手を丁寧に洗い、すでにしわくちゃのハンカチを取り出し、手の水を染みこませる。給食棚の前にはまだ白いエプロンを着た子たちが米粒のように集まっている。相変わらず私たちはありもしない妄想や馬鹿話をしながら、教室に戻ろうとしていた。
そんなさなか事件は起きた。教室の前でエプロンを着た子が、走ってきた子にぶつかって転倒して持っていたカレーの鍋もひっくり返った。察したときにはすでに手遅れで廊下にカレーが散乱した。わんわんと泣く声が聞こえる。私たちは唖然としていたが、我に返りその子の元に行った。その子は見たことがあり、どうやら隣のクラスの子だと分かった。グループの一人が先生に連絡しに行くと廊下を走り抜けていった。こういったときの廊下走りは合法であるべきだと思った。
「大丈夫?!立てる?」
その後も私は言い寄ったが泣き声はやまなかった。しかし目立った怪我もなく、カレーもかかっていなかったのでやけどなど重傷の心配もなさそうだった。
次第に周りに人が集まってきて、ざわざわし始めた。「カレーが無くなっちまった」「最悪だ」「あいつがやったのか」色々なヤジが鮮明に私の耳に届いた。カレーを惜しむ声、私たちを犯人として蔑む内容。グループの一人が罵倒に耐えられなかったのだろう、
「ちげぇよ!」
ガヤを一掃する。するとさらにガヤもヒートアップして、煮えたぎるかなりまずい雰囲気になった。先生もなかなか来ない。
「もういいよ、黙っとこう」
「なんだよ、あいつら許せんのかよ!」
落ち着けようとした矢先、私にまで矛先を向けてきた。だがそれにしてはとても悲哀に満ちた目だった。
許せないよ。
叫んでやりたかった。
「何してんの?」
私にとってその声は虚空を切り裂くように鮮明に聞こえた。
「どうしたの?!」
君が群衆の中から私と転んだ子のもとに颯爽と近づいてくる。
「この子がぶつかって転んじゃって・・・、膝を痛めてるみたいだから保健室に行こうと思って」
「うん、速く連れて行って。こっちは後処理やっとく」
すると君のグループにいたメンバーも駆け寄ってきて、雑巾を調達し、カレーの後処理を行った。
「手伝ってくれませんか」
君は嫌味は全く無い様子で懇願していたが、対して群衆は引いていった。
私は保健室で保健の先生に一連の事情を話すと、暫くの間、動くのは辛いだろうと、その子の分の給食を持ってくるように頼まれた。学年の廊下に戻ると、多くの人がそれぞれのクラスの入り口に集っていた。カレーの入った器を持っている。学年でカレーを分配しようと先生が企て、君のグループが率先して行うにつれて手伝ってくれる人も出てきたらしい。隣のクラスメイトの代表数名と支援者、そして君が配給のように他のクラスを駆け回っていた。
一方で食器トレーを持った私は保健室に献立を届けて颯爽と帰ろうと思っていた。人見知りのさがである。ここで話せる器量など無い。これは君に任せて私がカレーをもらう役になっていた方が良かったかもしれないと感じた。
「献立持ってきた、どうぞ」
引くほど口がビキビキになっていた。
「ありがとう、君って隣のクラスの#3:*だよね、またお礼する」
そちらも片言ではあったが私よりも相当律儀な言葉遣いであった。
「いいよ、そんなの」
照れくさく返すと、私は教室に戻った。その子は驚きながらも不満げな顔でこちらを見つめていた。後日、私はその子からカレーと互角、それ以上の競争率を誇る骨付きチキンを少し分けてくれた。残りのチキンは私のグループや、君、そしてそのグループといった人達に分けるらしい。ついあの子の食料が絶えないか心配になった。
今日のカレーはおかわりもないし、量も少し少なめだった。
でもそんなことを思う輩はすでに少数派だった。
この日食べたカレーはいつもより香ばしかった気がする。
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