パパガバンノゴハンヲタベテイルトキニセイヨウデハセンソウガオワリマシタ

higansugimade

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 とめどなく涙が流れる。糸のように流れる先が虚空に吸い込まれてまるで水瓶座みたい。服が涙に浸されないよう注意深くしていた娘は服を脱いだ。和服は帯が目立って美しい。重たい。手際よく脱いでベッドに放り投げると娘にとってのすべてが軽くなった。寒かった。風呂場へ急いだ。フローリングは冷かった。掃除の済んでいなかったのが心残りだった。明日、ピカピカに仕上げようと思った。それが娘の全回復を示す。明日への気持ちで晴れ始めた、早い黒雲は動き去り、千切れた羊毛のような雲が心の空間を占めつつあった。

 シャワーを浴びると娘は再び涙を流した。黒雲がどこからともなく呼び戻され、瞬く間に心は湿気に満ちた。お湯の温度を上げた。自分は完璧主義者だ。そう思って娘はバスタオルで頭を拭いた。涙を拭った。完璧主義者、いや、そんなわけはない。しかし完璧主義者という響きは今の気分に合った。あえての些細な話だけど、と、誰に向かうわけでもなく娘はことわりを述べる、そんな完璧主義者のわたしが、どうしてシャワーを浴びる前に掃除をしなかったのだろう。娘はこんなことにもたちまち後悔の念にかられる。どうして、いつもいつも、後から後から、やるべきだった事柄に苛まれるのだろう。完璧主義者だからだ、と娘は思った。後からやることは癪なのだった。つまり、前にやるべきだったと完璧な人が考えたとき、それが後になること自体が癪なのだ。これはいけない。もう、考えることを止めなければいけない。完璧主義から逃れるために。とりあえず寝るべきだ。寝てからすべてをなんとかしよう。明日やるべきこととして物事を捉えよう。そうとも、そもそも、わたしはなんとか主義なんかに染まるわけにはいかないのだ。服を着なければ。

 いつもの寝巻で布団にくるまると、娘は再び自分のことだけを考えていた。枕を下にして天井を見上げたら、涙にかられた。やれやれ、泣く機械だ。オートマティックに蛇口のオンオフが切り替わる。脳みそでいくら考えても無駄なのだ。これは、肝に銘じるべきだ。頭と体はバラバラになることがある。彼女はくるりと体を翻してスマートフォンを手に持って画面を覗きこみつつ思った、わたしははらはらして体の反乱の行き着く先を見守るしかないのだ、と。この先、怒りの感情にとりつかれるなら始末に負えない。そうなりたくないものだが、こいつも考えてどうこうなる類の話ではない。

 ここで娘は眠れない夜のために考えを起こす。自分のこと以外を考えるようにする。携帯の画面は光り輝いている、いま、光の砂がさらさらと傾きに応じて流れるアプリで画面は埋まっている、さらさらと光の粒は流れて、きらきらとした動きは傾きに応じる。これを止めることができないが(時間を捧げること、投資であって現状はマイナスだ)、その気分の変わる感じは悪くない(姿勢を整えること=攻勢へ転じるための出発点にすること、これはプラスだ。何にか。わたしの生にだ)。なんだかまた、自分に帰ってきた。

 数学的に生きてみよう。さらさら。きらきら、くるくる回したスマフォの優しい動きは彼女の手のひらで。完璧主義に繋がる道ではなく。冷静さを取り戻す。感情をわたしが支配する。しがないわたしの生の充実を図ろう。あと何年生きられるの? 健康寿命は、三十年というところか。あとはだらだらでもいい、ともかく、この三十年をどう生きるかだ。まっとうに。

 右手を両手で包んでもらったあの時を思い出していた。自分から離れることが出来て、眠りについた。

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