55. コーチェラは音楽フェスの若返り例になれるのか【Coachella2023】
な~んて偉そうなタイトルを付けましたが、これはあくまで、ただの音楽好きの私が、日本時間2023/1/11早朝に発表になった2023年のコーチェラ・フェスティバルのラインナップを見て思った感想文です。(すべて敬称略)
難しい考察や美しい示唆があるわけではないので、ご了承ください。
ちなみに昨年のコーチェラについては、こちらの記事で取り上げました。
・33. コーチェラ・フェスティバル2022直前! 楽しみな25組の出演者たち
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897097110/episodes/16816927862274118233
【 1.ヘッドライナーから大御所を外した2023年のコーチェラ 】
最初に2023年のラインナップを見た時に思ったのが、
「BjörkもUnderworldもThe Chemical BrothersもGorillazも居るのにヘッドライナーじゃない……!」
という驚き。今に始まった傾向ではありませんが、2023年は特にびっくりした印象があります。
2023年のヘッドライナーはこの3組。
Bad Bunnyは2016年にデビューした時代をけん引するラテン・トラップシンガー。今をときめくアーティストです。
BLACKPINKも2016年デビュー、韓国の4人組女性音楽グループで日本にもファンが多いので名前を知っている人も多いでしょう。
Frank OceanはアメリカのSSW・ラッパーで、デビュー時期は2011年。自身のラグジュアリーブランドがプラダとコラボするなど、幅広く活躍しています。
2023年のコーチェラは、ヘッドライナー3組が全員2010年代デビューということになるようです。
ちなみに2022年のコーチェラのラインナップでは、Harry StylesとBillie Eilishという2人のポップスターをヘッドライナーに据えつつも、中堅~大御所の境目に居るSwedish House Mafia×The Weekndという布陣。2023年に通じるものがあります。
【 2.切っても切れない「フェス」と「高齢化」 】
音楽フェスが日本で知られるようになった当初は、「フェス=若者文化」という印象が強かったと思うのです。それは単純に「音楽ライブ=若者文化」という考えに基づくものでしょう。
しかし現代では、「フェスに行くのは(そして出るのも)中高年」という価値観に変わっているようです。結構前から、国内外でこうした話題は取り上げられています。
例えば、こちらは2013年時点ですでに出ていた高齢化の話題。
『00年代に20代、30代だったフジロッカー達が30代、40代を迎えるようになり、子供連れも多く見られるようになった。(略)フジロック側も観客の成熟化を認識してしっかりと対応している』
『年齢層が高くなっている要因の一つにチケット代や交通費、宿泊費の高さがある』
〈引用元〉
fashion-headline「フジロック・フェスティバル'13が終了。年齢層の高まりとフェスファッションに注目」
次に、海外の記事で取り上げられていたデータ。
『「定期的に」または「たまに」フェスティバルに行くと回答したのは、年配の人たちが中心です。 30~44歳は他の年齢層よりも定期的または時折フェスティバルを訪れると回答しています』
『フェスティバルの主催者は30~44歳の年齢層のニーズに注目したほうがいいかもしれません。彼らはフェスティバルへの参加頻度だけでなく消費意欲も高いからです』
〈引用元〉
YouGov America「Why Music Festivals aren't for young people」 ※意訳 矢向
そして、フェスに来ない若者世代の(この記事は映像コンテンツについての調査ですが)価値観は。
『タイムパフォーマンスを重視する理由として「自分が価値を感じるコトに、時間を割きたいから」(略)全ての映像コンテンツをできるだけ効率化して見たいというわけではなく “自分の好きなものにできるだけ時間をかけたい” と考えている』
『自分が価値を感じることに時間やお金を充て、それ以外は節約していきたいという観点からメリハリをつけ、限られたリソースを上手に配分している』
〈引用元〉
PR TIMES 株式会社SHIBUYA109エンタテイメント「Z世代の映像コンテンツの楽しみ方に関する意識調査」
観客の世代については、こういった考察もあるようです。
「南米諸国は、少子高齢化を迎えていないため観客に若年層が多く、コンサートではどの地域よりも熱狂的に反応してくれるので、アーティストも良いパフォーマンスが出来、再び南米で公演を行いたくなる」
〈引用元〉
Yahoo!ニュース ブラジル日報「《記者コラム》国際音楽フェス三昧のブラジル」
【 3.歴史の転換期にいるのかも 】
経済が二極化しているというお話は、こうした音楽フェスにも登場するんだなと思うと、世知辛いですが仕方のないことなのかもしれません。こんな風に言うのはロマンに欠けますが、音楽フェスも経済活動の一つだから。
そしてお金の話だけでなく、配信やサブスクの普及に伴い若い世代と中高年の音楽への向き合い方も変化を遂げ、「旧来の手法」である音楽フェスに親しみを持つ人たちが高齢化していくのは当然。
忙しい若者からしたら、数万円も叩いてチケットを買い、好きなアーティストが出る数十分のために遠出し長い待ち時間を過ごすのは、時間にも心にもお金にも余裕がないと出来ない中高年の道楽に見えるのでしょう。
10~20代の新規顧客を音楽フェスに連れ出すための施策として、彼らに人気のアーティストを呼び込み、目立つ位置に据える。
でも、推しを見に来た若者が定着してフェスに来てくれるようにするには、それだけでは足りないように思います。コスパ・タイパを考えると、どうやってもフェスは配信やサブスクには敵わないからです。
以前取り上げたこういう楽しみ方も、決して効率的とは言えないし……。
・3.新しい音楽の探し方
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897097110/episodes/1177354054897895309
これは素人考えでみんなとっくに気付いていることだと思うのですが、フェスというイベントが行われる前提にある、「どうしてわざわざ会場に集まってタイムテーブルに沿って音楽を聴くのか」という価値観を、フェスに来ない音楽ファンに伝えることが必要な時代なのでしょう。
もしそれが伝えられないなら、フェスと言う形式の価値自体を問われる段階に来たのかもしれないし……。
例えば、かつて「民衆の気楽な娯楽」と認識されていた歌舞伎が、今や「格式高い伝統芸能」に変わりつつも、現代文化を取り入れながら続いているように。大規模な音楽フェスティバルも立ち位置や価値が変わって行く段階にあり、私たちは歴史の転換期に居るのかもしれませんね。
大御所を据えつつもヘッドライナーから外したコーチェラが、何かしらの転換を上手に迎えた時、彼らが思い描く「若返りを実現させたフェス」になるのでしょう。
【 4.求める音楽像と目指す客層が交わる音楽フェスが一番幸せそう 】
一方で、先に取り上げたYouGov Americaで言及されているように、「主な顧客層でありお金もたくさん出す世代に向けたサービスを充実させる」といった価値の付与の仕方もあるようです。
例えば国内では、ブロードキャスター・ライターとしてお馴染みPeter Barakan主宰の音楽フェスティヴァルPeter Barakan's “LIVE MAGIC !”がそれに該当するでしょう。(「フェスティバル」はPeter Barakan式では英語の発音に近い「フェスティヴァル」と書かれます)
とは言えこの場合は、中高年向けのフェスにしようとしたと言うより、Peter Barakanが選ぶアーティストが渋い(そして彼のファンがやって来る)から、自然と顧客の世代が高めに設定されたと言った方が正しいように思います。
ホームページでもわかるように、アーティストだけでなく飲食店も丁寧に選ばれている様子(先述のYouGov Americaでは、中高年のファン層が目新しく良質な食材やお酒に対して高い関心を寄せているという結果が出ていました)。そしてラジオでもよく、主宰自ら「休憩用の椅子をたくさん置きます」とお話していました。客席の雰囲気も穏やかそうで、彼らにマッチした音楽空間が提供されていたことが伝わってきます。
Peter Barakan's “LIVE MAGIC !”はアーティストの選び方を始めとする芯がしっかりしているからこそ実現する音楽フェス。こんな風に、主催者側が思う「こういう音楽で行きたい」と求める音楽像と、来て欲しいと目指す客層が交わる音楽フェスは、とても幸せそうだなと思います。
世代問わず、「このフェスは私のためのフェスだ!」と思った音楽フェスティバルには、何らかの興味を持つでしょうから……。
【 5.なんやかんや言いましたが 】
最初考えていた内容よりも色々と思いを巡らせてしまいましたが、なんやかんやで2023年のコーチェラも楽しみです。
ヘッドライナー3組はもちろん、Björk・Underworld・The Chemical Brothers・Gorillaz・FKJ・SG Lewis・Idris Elba・Domi & JD Beck・Hiatus Kaiyote・Snail Mail・Mura Masa・Sunset Rollercoaster(落日飛車)・Dominic Fike・Alex Gと、楽しみなアーティストがたくさん出演しますし。
2023年は無料配信があるのかないのか、今(2023/1/11)時点ではまだわかりませんが、もしあったら是非見たいなと思います。
→2023/4/13追記:無料配信される旨が発表されましたね🙌
安全で健康で楽しいフェスになりますように! 新年早々、賑々しいよい知らせを聞けてとてもよかったです。
※2023/04/18追記
Weekend 1を見た感想をまとめました。
・59. Coachella2023 Weekend 1の思い出
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897097110/episodes/16817330656007350436
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