23. いい曲×シュール=最高のMV

 いい曲が好きです。当然です、「いい曲だ」と思うから好きなんです。

 そして私はシュールさがあるものが好きです。真顔ですっとぼけている、本人は至って真面目で真摯な姿勢を保ったシュールさが好きです。


 そこで今回は、「いい曲」かつ「シュールさ」を満たす、好きと好きが交わった最高なMV(ミュージックビデオ)をご紹介します。



1. Tomトム Rosenthalローゼンタール "Watermelon"

 いい曲×シュールなMVと言っておきながら、いきなり曲までシュールなのですが…。

 こちらは、歌詞の8.5割くらいがWatermelon(スイカ)で構成された曲。作詞作曲は、イギリスのシンガーソングライターのTom Rosenthalです。

 彼は美しい旋律と優しい歌声が特徴的な、あったかい曲を作ることの多い音楽家。そして、子煩悩で家族思い。よくインスタグラムにも家族(特に娘さん)の写真を投稿していたり、自分の父親の死を題材にした大変エモーショナルなアルバム"Denis Was a Bird "を作ったりしています(私は聴きながら号泣しました)。

 その端々に、彼の何となくのユーモアのセンスが垣間見えるので、私は音楽だけでなくその点も含めて音楽家としての彼がとても好きです。

 

 そんなTom Rosenthalを私が最初に知った曲が、この"Watermelon"。ひたすらWatermelon, Watermelonと言い続ける曲であり、MVはスイカの着ぐるみを身につけたご本人が自然豊かな街のそこらじゅうを走り回る…という内容です。

 何がどうして彼をそうさせたのか、私にはいまだにわかりません。ただひたすらに聴こえる、ワラメロワラメロ…。英語ネイティブのWatermelonをここまで反復して聴ける曲は後にも先にもこれしかない気がします。


 余談ですが、この曲がリリースされた数年後、Harry Stylesが"Watermelon Suger"という曲を発表しました。Tom Rosenthalはもちろんそれにインスタグラムで反応しています。

 ひとりぼっちでスイカの格好をした自分と、女の子に囲まれてスイカを持っているHarry Stylesの写真を並べ、曰く「僕には23人の踊る女の子は必要なかった」。

 この人の空気感、好きですね。



2. Daði & Gagnamagnið "10 Years"

 この名義の中心人物Daðiダディ Freyrフレイルは、アイスランド出身、ドイツ在住のエレクトロニカ・テクノ・ポップスミュージシャン。私が知ったのは、2021年ユーロビジョンでした。

 ユーロビジョン出演時は、Daði & Gagnamagniðという名義で、Daði Freyrの家族や友人で構成されたパフォーマンス集団として、自分たちの顔のドット絵が印刷された衣装でライブを展開してくれました。

<おまけ>初めて聴いた時の私の感想https://kakuyomu.jp/works/1177354054897097110/episodes/16816452220373950309


 この曲のMVの特徴を一言で言うと「レトロな特撮風」。強そうに見えないヒーロー風の格好をしたDaði Freyrと仲間たち、どうしても北欧デザインぽさが滲み出てしまう怪獣、わかりやすい合成、明らかに手作りのロボット……。(怪獣やロボットはDaði Freyrと、一緒にパフォーマンスしている奥さん・Árnýの手作りです)

 彼らの決着をつけるのはダンスなんですが、それがまたなんとも張り合いのないくねくねダンス(とても真面目なダンス解説動画もあります)で、クセになります。

 ユーロビジョンのライブでは、そのくねくねダンスや明らかに鳴ってなさそうな楽器、イケメンにだけ吹く謎の風を用いたパフォーマンスが楽しめ、元気を貰える仕上がりになっています。


 しかし、そのシュールさに気を取られていると気付かないのですが、「タイトルの10 Yearsってなんだろう?」と思って歌詞を読むと、この曲がひっくり返るほどピュアな恋の歌であることがわかるのです。

 ざっくり言うと、「出会って10年になるけど君のことが好きだよ、どんどん好きになる」みたいな歌詞。さらに言うと、これは実話です。先述のDaði FreyrとÁrnýはハイスクールで2018年に出会ってキスまで2年かかり、10年経った2018年に結婚した…という逸話があります(この辺りはÁrnýがインスタのQ&Aで回答しています)。


 とにかく甘くてピュアな歌詞、そしてダンサブルな楽しいエレクトロニカ。なのに何故このMVになったのかな…とは思います。照れ隠しかもしれません。だけど、このシュールさがあるからこそ彼の曲/彼らのパフォーマンスに私は惹かれ、他の曲も次から次へと聞いてしまう訳です。

 先日発表していたクリスマスソングも、曲・映像ともに相変わらずのクオリティでさすがだなぁと思いました。最近二人目のお子さんも産まれたことですし、彼の音楽がさらにパワフルに、楽しくなることを期待しています。



3. Claptoneクラップトーン "Wake Up (feat. James Vincent McMorrow)"

 2021年リリースのアルバム"Closer"収録のこの曲。私の大好きなひんやりエレクトロニカ・ダンスミュージック、Claptone節の効いたお気に入りの曲です。


 Claptoneの音楽は、音の作りがシャープかつリズムがわかりやすく刻まれており、抑揚少なめのボーカルと非常に相性が良い。私はそういう曲を聴きたい時にClaptoneを選ぶので、この"Wake Up"は大好物です。

 また、歌詞が抽象的なのも気に入っています。

「どこで目覚めるのかわからない。あなたと一緒に目覚められるかな」

「泣かないで、わかってるでしょう。時には1人になるのがいい」

 "You"を恋人と見て単なるラブソングとして捉えてもいいし、家族や友人、または自分の夢などと捉えてもしっくり来るのが良いですね。そんなことを思いつつ、どんなMVなのかなと思って見てみると……。


 んん?


 MV冒頭で、「これは7回落雷にあった2人の男の実話」という表示があって始まるのですが、本当に実話…?と思いたくなるような展開が待っています。

 文字通り、このMVには2人の男が出てきて、ひたすらに落雷被害に遭います。運転中や日光浴中、果ては洞窟の中まで追いかけてくる雷…。だけどその所々に、嘘だろ…と思う謎の描写(例:頭から火柱)がちらほら。どこまでが本当のことで、どこからが幻想なのか。もしかしたら最初の「実話」という一文が、既に幻想のひとつだったのかもしれませんが…。


 もしかして、これにまつわる有名な話があるんでしょうか。私が知らないだけなのかな…。そんな、どこか不安な謎めいたシュールさのあるMV。この曲がますます好きになってしまいました。



 まだまだ好きなシュールなMVはありますが、今回はこの辺りで。あなたのプレイリスト拡充にお役立て下さいな。おすすめのMVも、募集しています。


※今回記載している英詞の和訳は、矢向独自の意訳です。正確な内容は、ぜひご自身の目でお確かめ下さいね…。

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