コスチュームプレイシンドローム

鳳つなし

第1話 俺たちの真夜中

 息が詰まりそうな夏の夜。女の子に襲われる夢を見た。

 自分の倍くらいの体重をお持ちのミケポ女子が頬を赤らめながら、俺の顔の上に跨った。女性の肉とは思えない、まるで車のタイヤが空から飛んできたのかと思うような、そんな衝撃だった。

 起きてみるとなんということはない。枕元に置いていたペットボトルがなにかの拍子に倒れこんできただけだった。

 ヒンヤリとしている。女性の肉もこんな冷たさだったような気がする。

 金を払って抱く女は、大抵肉が冷たいものだ。

 今日の夢はこの前のハズレを思い出したせいだろうか。それでも息子が微かに反応しているのが恥ずかしい。

 落ちてきたペットボトルの水をラッパ飲みし、トイレに立つ。

 そしてトイレで座る。

 俺の住む街は住宅街であり、こんな真夜中には寝静まって虫の鳴き声しか聞こえない。

 その静寂の中心で排泄する俺。俺の体から出た不要なものはどこへ行くのだろう。

 真夜中の闇は人の思考を狂わせる。こんなことを考えている俺はどうかしている。

 用を済ませ、ベッドに戻ってみたものの、眠気はとっくに吹き飛んでいる。

 天井を見つめていても退屈なだけだ。

 横になって俺はスマホを開いて、暇潰しをすることにした。

 SNSには多くの人のぼやきが集められている。みんな生きるだけで命を擦り減らしているに違いない。間違いなく俺も、命をただ浪費している。

 なにかいいことないかな。それなりに善人らしい行動を心掛けてきたのだから神様に見返りを求めたっていいのではないだろうか。

 いや、人は善人であることがデフォルトなんだ。善い行いをしてるのは当たり前なのだ。けれども悪人が珍しく善行をすると褒められるのは、世界のバグなんだろうな。

 暇潰しで開いていたSNSで面白いつぶやきを見つけた。

『仮面の戦士に変身できる奇病があるらしいw』

 それま? と思ってアップされている画像を見ると、正義のヒーローと言うにはちょっと、と思うほど子供に見せられない容姿だった。

 特撮のコスチュームというよりもパニック映画の特殊メイクを彷彿とさせるリアリティで、おそらくその類の虚構だろう。

 誰が発信しているのか知らないが、特殊メイクにしろCGにしろ、暇な人間のすることにしては大掛かりに思える。説明も他の画像もなにもないこのつぶやきは、さほど伸びてはいないが、マニアたちには拡散されているようだ。そのうちこの画像の真偽も公になることだろう。

 さあ、そろそろ寝ないと明日の仕事に支障がでる。スマートフォンのブルーライトは睡眠に悪影響を及ぼすという話も聞いたことがある。このまま画面を見続けるのはよくないのだろう。

 充電コードを差して、ディスプレイ側を下に向けて枕元に置く。タオルケットを軽くかけ、俺は目をつむった。そして意識をなくすのを待った。

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コスチュームプレイシンドローム 鳳つなし @chestnut1010

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