蒼葉さんの過去
「団長!うちら悔しいです!また"碧眼の龍"にいいようにやられて!」
夜中のとある廃倉庫にて軍服に似た格好の女性たちが建物内の半分の面積を占めるほど存在していた。
そして彼女たちが見据える先には、少し古ぼけたソファーにこれまた同じ格好にさらに羽織を着ているオールバックでまるで某有名歌劇団の男役のような顔立ちの女性がいた。
彼女の名前は
「全て想定内だ。水景でも他に相手になるやつは"理性のある虎"、"奇面の玄武"、"紅毛の不死鳥"のいわゆる
「"無冠の孤狼"ですか?」
「その通り。まぁ奴は自分からどうしようという人間じゃない。警戒するのは」
「四神獣たちですか…」
1人の部下の少女がそう言った。
全員が女性であるものの、その強さは男がまるで歯が立たないほどであり、水景市女最強伝説の象徴とも言える4人である。
「
「団長ならばいけます!あたしらはどこまでもついて行きます!」
他の者たちも呼応して返事をしていった。
四神獣たちにより影が薄いがかなりの実力をもつ。
「まずは牙城のひとつを崩そうか…。標的は…"碧眼の龍"」
鷲尾は不敵な笑みを浮かべ四神獣の1人"碧眼の龍"こと蒼葉辰美を標的にしたのだった。
◇◇◇◇
今日もまたいつもと変わらないように登校していた。
昨日あんなことはあったけど、距離は少し近く慣れたと思う。それに今日はこれも持ってきたから。
僕はカバンに入っている包みを見ていた。
不機嫌な顔をした女子が教室に入ってきた。蒼葉さんである。昨日あんなことはあったが、挨拶をしっかりとしたかった。
「おはよう。蒼葉さん」
「あぁ…おはよぅ……」
どこか恥ずかしそうにではあるが挨拶を返してくれた。しかし他のクラスメイトは蒼葉さんの行動に驚きが隠せなかった。
今まで他人と挨拶をしたことない蒼葉さんがクラスメイトと挨拶をしているなど貴重なことである。
「蒼葉さん。昨日のこと誰にも言わないから」
あまり大きな声にならないように、蒼葉さんに話しかけた。
「ばっ!?てめぇ、それは死んでも言うな?言ったら殺すからな?」
死んだら言えるわけないじゃん…。というか発言がいちいち物騒である。
でも悪い人ではないことを知っているので、怖くはない。
「わかってるよ。でも僕はいいと思うよ」
「…。ふん!…てめぇ、ぜってぇあとでシメるからな…」
顔を赤らめてそう脅してきた。なんか可愛いく感じた。昨日ペットショップであんな可愛い顔をしていたからそれが投影されているのだ。
「ね、ねぇ…。神室木くんって蒼葉さんと仲良かったのかしら?」
「さぁ?でも普通に話しかけてるね…」
少し離れた席でこちらの方を見ている女子たちがいた。しかし、声のボリュームが少し大きくこちらに聞こえてしまっている。
話の内容が聞こえたのか蒼葉さんは顔をしかめて不機嫌そうにしていた。
「……」
「蒼葉さん?気にしちゃだめだよ」
「別に気にしてない。あんなこといつものことだよ…」
蒼葉さんはそう言って窓の景色を眺めて物思いにふけた顔が横から見えた。
時間も迫り、人も増え始めてきた。飛馬がやってきて、こちらにはなしかけてきたことで、蒼葉さんとの会話は終わった。
「はーいみんな!おはよー!!」
元気な声でうちのクラスの担任そして実の姉の朔夜姉がやってきた。
家と学校でオンオフがあり今現在は、美人で優しく元気な神室木先生という役を演じていた。
「今日も元気に頑張ろうね!!」
なんという名演技なのだろうか。普段の姉の姿を見ていてとてもではないが、今の姿が姉であるとは思えない。
思わず別の誰かと感じてしまう。
「では出席とりまーす!!荒木くん!」
こうしてまたいつもの日常が始まっていった。
◇◇◇◇
チャイムが鳴りお昼の時間となった。
すると蒼葉さんは席をたちまたコンビニの袋をカバンから出して、またどこかへと行ってしまった。
「ま、待って!」
こちらが呼び止めようとしたが、聞こえなかったのか知らないふりをしたか分からないが教室を出ていった。
僕は慌てて、包みを2つ持って教室を出ていき蒼葉さんを追いかけた。
「お、おい?凛弥!!どこ行くんだよ!?」
「ごめん!ちょっと用事が出来た!!」
とにかく蒼葉さんを追いかけた。
「凛ちゃん…」
いつもと違い2つの包みを持っていく凛弥を見て
僕は蒼葉さんの後をバレないように着いて行った。
彼女は階段を上がり3階へといき、さらにまた階段を登り4階へと行った。
しかし、4階は視聴覚室やら資料室などの教室しかない。
彼女にバレないようについていくがその4階すらも行かずにまた階段を上っていく。
この上となるともう屋上しかない。ということは屋上で食べているのだろうか。
蒼葉さんが、ドアを開けて屋上に行ったの隠れた位置から見つつ、続いてドアを開けた。
開けた空間に少々錆び金網の屋上。景色も水景の街が良く見えて気持ちいいものだった。
しかし肝心の蒼葉さんはどこにもいなかった。確かにここに入っていったはずだったが。と思った次の瞬間、肌をピリッとさせる殺気とともに、空気がさかれるような鋭い拳がこちらに襲いかかってきていた。
驚いたものの、何とかそれを避けることが出来た。
「な、何するの!?」
「人をつけておいて何言ってるんだよ。って…神室木?何でお前がいる?」
蒼葉さんは驚いた顔でこちらを見ていた。
「蒼葉さんコンビニの袋を持ってどこかいってたから、気になって…」
よくよく考えたらまたストーカーみたいなことをやってるなと思った。
「お前またついてきたのか、気持ち悪いぞ?」
少し引いた顔をしていた。でもそれは僕自身も引いた。2日連続でストーカーなんて気持ち悪いに決まっているだろう。
でもただついて行った、訳では無い。
「あのさ、これ良かったら食べない?」
僕は青色の包みをひとつを差し出した。
「これ、僕が作ったんだ。良かったらたべて?」
僕は蒼葉さんにお弁当を作った。前から思っていたが、コンビニの袋で中身的におにぎりとかサンドウィッチしか入ってそうではなかった。
成長期に栄養の偏りは良くないなと思って僕は弁当を作ったのだった。
「餌付けでもする気か?」
「違うよ。蒼葉さんに食べてもらいたいんだ」
「わ、私に…か?」
少し顔を赤らめていたが、どうしたのだろうか?遠慮せずに食べてもらいたいと思ったが、どうだろう。
「よこせ…」
僕の手から少々強引に奪い取った。適当に床に座り包みを外し蓋をとると、今日僕が朝から作った弁当がしっかりと入っていた。
「う、美味そう…」
「食べてみて?」
蒼葉さんの目が輝いているように見えた。そして箸を渡して蒼葉さんが食べる姿を見ていた。
「う、美味い!!なんだこれ卵焼きか!?」
蒼葉さんは卵焼きを口に運びほうばっていた。目が点になり満足そうにしていた。
箸が止まらず次々と食べていく。今日の弁当は無難に唐揚げや卵焼き、アスパラのベーコン巻きやほうれん草のおひたしといったものをおかずにしていったが蒼葉さんは満足に食べていた。
「うっめぇ!!これって神室木が作ったのか!?」
「そうだよ」
「こんなもの食ったことねぇ!!めっちゃくちゃうめぇ!!」
「それは良かったよ」
蒼葉さんは満足そうに食べていた。作ったこちからすれば、美味しそうに食べている姿を見れて嬉しかった。
作ったかいがあるというもんだ。
「お前すげぇな!!こんなうまいもの作れるんかよ!!」
「いやいや、大したことじゃないよ」
僕ももうひとつの弁当を開けて食べようとした。すると、こちらを餌を欲しがる子犬のような目で見てきた。
よく見ると弁当のおかずとご飯は全てきれいさっぱり無くなっていた。
まだ足りないということなのだろう。
「こっちも食べる?」
「いいのか?」
「うんいいよ、じゃあその代わりそのおにぎりとサンドウィッチ貰っていいかな?」
余程良かったのだろう、僕の分も食べたいと言ってくれた。僕としてはとても嬉しかった。さすがに何も食べないと辛いので、蒼葉さんのコンビニのおにぎりとサンドウィッチを貰うことにした。
「いただきます」
「いただきます!!はむ…うめぇ!!」
いつも不機嫌そうな顔をしていた蒼葉さん。昨日はペットショップにてあんなに慈愛に満ちて動物を愛でている顔。そして今日のお弁当を食べていて笑顔で美味しいと言ってくれる顔。
彼女は不良と呼ばれてはいるものの、僕は嫌いになれない。むしろ好感が持てる。
どうして不良になったのだろう。それが疑問として浮かび上がった。
「蒼葉さん」
「なんだ?」
「どうして不良になったの?」
その言葉を聞いて蒼葉さんは箸を止めた。真剣な顔に変わり、まっすぐ前を見つめていた。
「私な。母子家庭なんだよ」
「そうなんだ…」
「父さんは小さい時に死んだ。それかババ…母親と2人で暮らしてるんだ」
そうだったのか。蒼葉さんの顔はどことなく哀しそうな顔をしていた。
「母親は父さんが死んで以降は仕事ばかりで、もちろん私を育てないといけないからな…」
「うん」
「でも小さかった私にはそれが辛かった」
どこか辛そうな顔をしていた。彼女に強いイメージを持っていたのだが、全くの真逆で触ると崩れそうな感じであった。
「私は母親に構ってもらえなかった。仕事仕事で忙しそうな母は私に構う暇なんてなかったのさ」
「…」
「私はそばにいて欲しかった。構って欲しかった遊んで欲しかった。でもそれは叶わなかった…」
自分には母親も父親も姉たちもいるためそんなことは味わったことがなかった。
いつも自分の傍には誰かがいた。それは小さい時から今まで変わらず。
しかし彼女はどうだろうか。おそらく親に一番かまって欲しい時に愛して欲しい時に、誰もいなかった。
「私は小学校に入ってからも母親に褒めてもらおうと色んなこと頑張った…。でも褒めて貰えない。忙しいから後で…そう言われてきた…」
彼女の話を聞く度、自分自身も悲しくなってきた。
不良と彼女は他の人から言われているのだが、それは果たして不良という言葉で片付けて良いのか、そう考えた。
「私は中学生になったある日、突然爆発した。」
蒼葉さんによれば、通知表を母親に見せた時に彼女は母親にこう言われたらしい。
「あんた頭良かったんだ…」
普通に聞いたらなんてことないのだが、蒼葉さんは小学校の時からずっと満点の成績で品行も良かったらしい。
だが母親は彼女の姿など全く見ていなかったのだ。
好きの反対は無関心。それはよく言ったものである。まさにその通り。嫌うのではなく、そもそもの関心がない。
これが蒼葉さんに大きな傷を負わせただろうか。
「私はブチギレて、大喧嘩になり家を飛び出した」
「私はただひたすら街を走り続けた。何も考えたくなかった。ただやり場のない怒りと哀しみを持って走った」
僕はその言葉を聞いて胸が締め付けられる感覚があった。
おそらく暴言よりも辛い。無関心てやつは。
誰かが言っていた。好きの反対は無関心であると。
それが体現されているようであった。
「街は暗くなってさ、気がついたら山の展望台に来てたんだ…」
「高杢山の?」
「そうさ」
「夜に光る水景の街を見ていたんだ…。とても綺麗だった…」
「確かに綺麗だよね」
「お前もそう思うだろ?」
蒼葉さんは僕の方を見てニコッと可愛い笑顔を見せた。
「その景色を見てあることを思い出したんだ…。父さんとの約束…」
蒼葉さんはふと青空を見上げていた。それはまるで天国に行ってしまったであろう、お父さんの顔を思い浮かべるように。
その横顔はとても美しく、どこか儚げであった。
「その約束のために私は水景にくる暴走族や不良を締めてるのさ。別に不良になろうと思ってなったんじゃない」
「そうだったんだ…」
グレたというには何か違う。自分が意図しない間に周りからそう思われて、蒼葉さんは不良というイメージに変わったのだろう。
なんだか僕は蒼葉さんのイメージがまた変わった気がした。
「ところで、お父さんとの約束って?」
「あぁ、それか?それは…」
彼女が言いかけた時に、空気を読まない予鈴が聞こえてきた。屋上にいることもあり、早めに帰らないとギリギリになってしまう。
「おっと…。そろそろ帰らないとな…」
彼女は弁当残りを素早く豪快にかき込んだ。そして手を合わせてしっかりとご馳走様と言ってくれた。
「弁当美味かったよ。ありがとうな…」
「いいよ。僕が好きでやったことだから」
彼女の満足そうな顔を見れてよかった。それに彼女の言葉と笑顔に胸が思わずドキッした。
立ち上がり、蒼葉さんはドアの方へと行く。
すると振り返って僕の方を見てきた。
「また…弁当その…つくってくれないか…?」
彼女は頬をポリポリとかきながら恥ずかしそうに言ってくれた。
その言葉が聞けて僕はとても嬉しかった。
「いいよ!」
僕の周りの危険な彼女ら 石田未来 @IshidaMirai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕の周りの危険な彼女らの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます