第5話

「これより第一回ゴブリン殲滅作戦を実行する。作戦内容は今話した通りだ。お前ら準備は出来てるな?」


「はい騎士様、いつでも出発の準備は出来ています」


「ロト! 私も準備okだよ」


「アリサもokなの」


「お前はダメだ。他の村の奴らと留守番してろ」


「えーー。アリサも行きたかったの」


 俺たちは今からゴブリンの隠れ家へと向かい、ゴブリン達を皆殺しに行く。流石にまだ子供のアリサは聖女とは言え危険すぎるので村で留守をしてもらう。

 森に入るのは村の男数十人と俺とルカだ。


「おい! 性女、みんなの分の聖水はちゃんと用意出来たか?」


「ねぇ、その呼び方なんか気に触るから辞めてくれない?」


「そっか、今のお前は聖女だったな。悪い、悪い」


「......はぁ。みんなの分の聖水ならもうとっくに用意できてるから、心配しないで」


「よし、じゃお前ら全員をそれを持って俺について来い! それじゃいくぞーー!」


 俺は村の奴らにバケツいっぱいの聖水を一人二個ずつ持たせた。

 これから森に入る、正直周りに森があり過ぎてどれだか分からなくなるが多分こっちだろ。

 俺の勘はよく当たるからな。


「あの騎士様。その......そっちの森じゃ無いです!」


「......」




ー 「イッタッ! あーもー何でこの森ってこんなに虫がいっぱいいるの?」


「馬鹿か。森に虫がいない方がおかしいだろ。いいから刺された所に聖水でもかけとて、その為に沢山持ってきたんだからな」


「そうだぞルカ。騎士様の言う通りだ、これからゴブリンを退治しに行くんだ、このくらい我慢しなさい」


 まだ森に入って5分ほどしか経っていないのに、ルカが文句を言い出した。嫌なら帰れと言いたいが今回の作戦ではこいつが必要になるからそれも出来ない。


「お前らこの辺にはゴブリン達の罠があるからな、足下に気おつけて進めよ」


「それは分かったんだけど、本当にここら辺にゴブリンがいるの? 私全くゴブリン達の気配を感じないんだけど」


「大丈夫だ、俺を信じろ。



 ッ‼︎ あった」


「ん? 何か見つけましたか?」


「いや、何でも無い。じゃここで一旦別行動だ、お前らはここに作戦通りに並んでくれ」


「ここですか? ゴブリンなんていませんが」


「いいから並べ、ゴブリン達が出て来たら作戦通りに動いてくれよ」


 俺は村の奴らに半径100メートルくらいの円を作るように並んでもらい、別行動に入った。

 さっき俺が見つけたのは木に刻まれた、ゴブリン達の隠れ家の目印だ。この目印があると言う事はすぐ近くにゴブリン達がいるという事だ。


 ただルカも言っていた通りゴブリンの魔力を感じることは出来ない。

 なぜなら、ゴブリン達が隠れ家に結界を張っているせいで気配は愚か姿すら見えないのだ。

 

 じゃなぜ俺がそんな事を知っているのかというと、その結界の作り方を教えたのは俺だからだ。そう作り方を教えたのは俺だ、これがどう言う事かというと俺は作り方を知っている、つまり壊し方も知っていると言う訳だ。


 流石に村の奴らに結界を壊すところを見られる訳には行かないので俺だけ別行動をとった。

 さっき村の奴らに円になってもらったのはこの結界の周りを囲んで、ゴブリン達が逃げた際にヤッてもらう為だ。


 ふと俺は昔の事を思い出した。そう言えば以前、ゴブリン達にどうやったら絶対に人間達にバレずに基地を作れるかと相談を受けた事があった。

 その時俺はこの結界の作り方を教えたのだ。しかもこの結界は作った本人と俺しか壊し方を知らないのだ。それを知った時のゴブリン達の喜んだ顔が今でも忘れられない......





「砕けろ結界!」


 俺がそう言うとガラスが割れるような音がしながら結界が割れた。すると、さっきまで何もなかった所からゴブリン達の隠れ家が現れた。

 ゴブリン達は一瞬何が起きたのか理解できずにいた。当然だ、万一破壊されたなら分かるが今のは正式に結界を壊したのだから驚いて当たり前だ。


 まぁそんな事はどうでもいい。俺は作戦通り姿が見えるようになったゴブリン達の隠れ家......いや村へと侵入した。




ー 「また会ったなゴブリン共、悪いけど今日はもう逃してやらないかな。ここで全員死んでもらうぞ」


「またお前か。悪いが俺たちも今日はお前を逃さないぞ。お前たち集まれ!」


 一体のゴブリンがそう言うと周りのゴブリン達が俺を囲むように集まってきた。てか、みんな顔が似過ぎて分からないけどいっつも命令を出してるこいつはリーダーだろうか? いっつも会う気がする。


「そうか、じゃ特別にこっから動かないでやるから全員でかかってこいよ。俺に勝てたらこのネックレスをやるよ」


 俺は服の中に隠していた、宝石付きのネックレスを見せつけた。ゴブリンは宝石や金物には目がない、欲しがって襲いに来るだろう。


「しかも、このネックレスについてる石は......


って、おい! 俺が話してる最中に襲ってくんな」


 俺がまだ話していると言うのにいきなり鋭利な武器を持ったゴブリン達が襲いかかってきた。本当に礼儀のない奴らだ。

 

 ゴブリンの戦闘技術はそれはほど高くは無い。だからあいつらの攻撃を避けるのは簡単だ。


「お前らそんなんじゃ当たんねぇぞ、ほら! 全員でかかってこいよ。早くやらないとこっちも反撃するぞ」


 俺はゆっくりと短剣を取り出した。


「クソッ。お前! 急いでゴードンを叩き起こしてこい!」


 リーダーらしきゴブリンがそう言うと一体のゴブリンがそのゴードンとやらを起こしにいった。

 ゴードン? どっかで聞いたことがあるような名前だな。いや、今はそれよりもっとゴブリン達の気を引かなくてはならない。これで全員か?


 “ドーン“ “ドーン“


 地震? いや違う、何か大きな物の足音だ。しかもかなり大きい、まさか......


「オォォォォーーー! テキ......コロス、ゼンインコロス」


 この声、この大きく緑色の身体。間違いない。こいつはゴブリンの怪物ゴードンだ......。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 名前 ゴードン 性別 不明(多分男)


 レベル 296


 種族 ゴブリン


 上級魔物

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 こいつ、最近見ないと思ったらこんな所にいたのかよ。ゴードンはゆっくりと俺に近づくと手に持っていた鈍器を大きく振り上げた。


「ゴードン、オマエ......



 コロス!」


 ゴードンは手に持っていた鈍器を俺目掛けて振りかざした。俺はそれをギリギリでかわしたが地面に大きな地割れが生じた。

 流石にレベル差がありずきるな、あれをまともに食らえばひとたまりも無い。早めに片付けたいな。


「悪いけどこっちのセリフだ【光弾ピストル】」


 俺がゴードンの頭目掛けて魔術を使うと、意外にも反射神経の良いゴードンは前のめりになり俺の攻撃をかわしタックルのように俺に突っ込んできた。


「ちょっ、【時間移動タイムバグ】......。危ねぇな、いきなり突っ込んできやがって。それにデカい身体の割に俊敏に動きやがって」


 俺は何とか避けたが、流石にあんなのを食らったら即死するぞ。




「よっしゃ、空きやり......



 グァッ!」


「ゴードンガヤル。ダレモジャマシナイ」


 俺のスキを取ろうとしたゴブリンがゴードンにより地面に押さえつけられた。

 どうやら俺とタイマン勝負がしたいらしい。


「いいのかよゴードン俺とタイマンなんて、せっかく仲間がいるんだから全員で来いよ」


「ダマレ。オマエヨワイゴードンヒトリデイイ」


 こいつも言うようになったじゃねぇか。昔、俺がちょっと睨んだだけで腰をぬかしてた奴とは思えないな。てかなんでコイツこんなにカタコトなんだ?昔はもっとハキハキ喋ってただろ。


「ゴードン、テキコロス! 


 フゥ...... フンッ!」


「【時間停止ストップ】」


 そう言うとゴードンは手に持っていた大きなバットのような鈍器を投げつけてきた。

 俺はゴードンが投げてきた鈍器をギリギリで止めると短剣を手に相手の懐に近づいた。


「動け! そして死ね......



 っあ。嘘だろ」


 ゴードンはゼロ距離の俺の攻撃を反射神経だけで避けると、俺の腕を掴んだ。余りの力に手に持っていた短剣を地面に落とした。


「ち、ちょっとゴードンさん? 俺は知ってるぞお前が本当は良い奴だって、だから......」


「ゴードン、コロスダケ!」


 俺がやられるところを見たいのか周りのゴブリン達が近くまで集まってきた。本当に悪い性格してるぜ。でも恐らく、これで全員集まっただろう。



 始めるか。


「そうかなら俺も、もう容赦はしないからな。




今だ、やれっルカーー!」


「了解!」


 俺が森の奥に隠れていたルカに合図を送ると、ゴブリン達の村を覆うように地面に大きな魔法陣が現れた。そう、昨日のルカの魔法だ。


「き、昨日の魔法だ。お前たち逃げろ! ゴードンお前も早く逃げろ」


「ワ、ワカッタ......」


「おいゴードンどこに行く気だ? 俺を殺すんだろ、それとも怖くてにげるのか?」


 一度放されたゴードンの腕を握り俺はゴードンを挑発した。こいつに逃げられたら元も子も無い。


「ゴードンノジャマシナイ!」


 ゴードンは拳を強く握りしめると俺に殴りかかろうとした。


「悪いけどしばらく止まってろ。【改・時間停止ストップ】」


 俺は腰にかけてあった剣の柄を握りながら魔法を使った。この剣には特別な力があり、柄の部分を握りながら魔法を使う事でその質をあげられる。

 これでこいつをルカの詠唱が終わるまで止められるようになった。次は今逃げたゴブリン達を一匹残らず殺さなくてはならない。

 ゴブリンは繁殖力が高く二匹取り逃すとまた繁殖して村を襲いにくる。本当に気持ち悪い。

 

 とりあえず、逃げたゴブリン達は村の奴らに任せるか、その為の作戦だからな。




ー 「こっちだ、ここなら魔法陣の外だからひとまずは安心......」


 魔法陣の外に出てすぐに皆を先導していた、ゴブリンが突然倒れた。


「ど、どうした。



 っておい! お前ら止まれ何か匂うぞ。これはまさか...... 聖水だ、離れろー」


「こっちにも聖水があるぞ!」


「こっちもだ」


「ど、どういう事だ。何で村の周りにこんなに聖水が置いてあるんだ? これじゃ逃げられ無いぞ」


 そう、ゴブリン程の下級魔物にもなると聖水に触れなくても近づくだけで意識を失ってしまうのだ。

 それを知っている俺は村の奴らにゴブリンの村を囲うように均等に聖水入りのバケツを配置させた。それに引っかかって意識を失ったゴブリン達には村人達にとどめを刺させた。


「クッソ! ゴードンは何してんだ? 誰か早くあいつを呼んでこい。あいつならこの聖水を突破出来る」


「無理だ! あいつは今なぜかびくとも動かなくなりやがった」


「どうするんだよ。このままじゃ......」


 魔法陣が光り出した。いよいよ、ゴブリン達ともお別れだ。お前たちはここまで良く戦ってくれたよ、何回か反乱を起こされた事もあったが今ではそれも良い思い出だ、だからゴブリンすまない......



 死んでくれ。


「......魔物を滅ぼしたまえ【神気浄化ベルクール】」


「「グァァァァアア!」」


 魔法が発動すると村中のゴブリン達が合唱でも始めたかのように叫びだした。よし、それじゃゴードンをそろそろ解放してやるか。


「動けゴードン!」


「オマエ、ゼッタイコロォォォォオオ、、、



 グァァァァアア!」


 流石の上級魔物のゴードンでもこの魔法は耐えられ無いようだ。ゴードンは地面に膝をつけるとそのまま体が溶けるように少しずつ消えていった。


「ゴードン、ゼ、ゼッ、絶対に許さねぇぞこの人間風情がーーーーー......」


 ゴードンは最後の最後で本性を表したように態度を一変させたが、そのまま浄化されてしまった。

 

 そろそろ俺も限界が近いな、ただ今日の俺には秘策がある、それは......。


「【時間還元ゼロタイム】、、、


 【時間還元ゼロタイム】、、、


 【時間還元ゼロタイム】、、、」


 俺はこの魔法陣の効果が切れるまで永遠に魔法で自分の体の状態を数分前に戻しているのだ。こうする事で常に無傷の状態を維持できる。まさに無敵だ。


 魔法陣の光が消えた。それと一緒にゴブリン達の合唱も無くなった。周辺から魔力の気配を感じない、恐らく全滅したのだろう。



「騎士様、ご無事ですか? その心配で見にきたのですがご無事でなによりです。そのゴブリン達は?」


「ああ、全滅したよ」


「おーー! 流石、騎士様。



 バンザーイ バンザーイ」


 村の人達は騒がしいぐらいに喜んでいた。


「よし! とりあえずお前たち、撤退だ村に戻るぞ」


「はい。帰ったら盛大にお祝いしましょう!」


「そうです。この勝利と騎士様に感謝を込めてお祝いをしましょう」


「もぅ、分かったからさっさと帰るぞ」


「「はい」」

 

 俺たちはゴブリンの村を破壊する訳でもなくそのまま撤退した。


 帰りの道中、ルカがジワジワと俺に近寄り何か話しかけてきた。


「ねぇロト。さっきゴブリン達を倒したの私だと思うんだけど何故かみんなロトばっかり褒めるの。おかしいと思わない? だってロト、ゴブリン達にやられかけてたじゃん私、見てたからね?」


「おいやめろ、そういう事言うな。俺はこのまま村を救った英雄として国に報告するんだから」


「悪魔でも自分が救った事にするんだね」


 そりゃ悪魔だからな。


「騎士様! 村に着きましたぞ」




ー 「え? ロトもう国に帰っちゃうの? これから村のみんなでお祝いするのに」


「ルカ! 騎士様は忙しいんだ。ここに助けに来てくれただけでも感謝しなさい」


「そうだぞ、もっと感謝しろよ。なんなら昨日出来なかった夜這いでも......」


「あーー! もうサイッテー、何で今その話するの頭おかしいんじゃ無い?」

 

 ルカは顔を真っ赤にして怒り出した。いや照れているのか? よく分からない。


「悪かったよ。ほらコレやるから、もう機嫌直せ」


「え? これってもしかしてお金?」


 俺はルカにお金の入った袋を手渡した。正直カネなんて持ってても使う事も無いから別にあげてもいいだろう。


「では騎士様、王都まではこのウィリアムというものが案内いたしますので、どうぞお乗り下さい。


 このウィリアムというチョビ髭の似合う人物が馬車で俺を王都まで案内してくれるという。これはありがたい、ちょうど王都までの道が分からなくて困っていたからな。


「よいしょっ! じゃ俺はそろそろ王都に向かわしてもらうぞ」


「騎士様、お気おつけて」


「ロトーー! また暇な時に遊びに来てねーー!」


「おう、また暇になったら来るよ」


 嘘だ。俺にとってこんなに危険な村にまた来てたまるか。

 馬車が動いた。後ろではルカや村の人達が感謝の気持ちを込めてか、最後まで手を振ってくれていた。


 この村ではいろいろあったが、本来の目的を忘れてはならない。そう、これから行く場所は勇者がまず間違いなくいる、さっきのように簡単にはいかないだろう。


「なぁウィリー......えっと」


「ウィリアムです!」


「あーそう、ウィリアムあとどのくらいで着きそうだ?」


「まだあと13時間ほどかかります」


「......そうか、じゃ着いたら起こしてくれウリウム」


「ウィリアムです!」


 俺が勇者と出会えるのはまだ先のようだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ロトさん。行っちゃった.....」


「仕方ない。騎士様はああやって村を回っているだ、ここに長くはいられないさ。それとそのお金は大事に使うんだぞ」


「あの......その事なんだけど、多分このお金は使えないお金だと思う」


「どう言うことだ? まさか騎士様が偽物のお金を渡したとでも言うのか?」


「いや、そうじゃ無いの」


「じゃなんだ本物かどうかは、後ろの文字をみれば分かるだろ? ベル王国と書いてあるはずだ」


「確かに国の名前は書いてあるの


 ただ......」


「じゃどうして使えないんだ?」


「じゃ、一つ聞きたいんだけど後ろに書いてある、このゲルド王国って、



 


 どこ?」


「「......」」


【season1】1000年の恨み(終)

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