第6話 どんな魔法を使ったの?
全然好きじゃないって思った。
優しくないし、気が利かないし、いつも口が悪くて生意気。全然、本当に全然、私の王子様には釣り合わない。
「まあでも俺は円香のこと好きだけどね」
心を読まれたんじゃないかって思う返事が返ってきてひゅっと息を飲んだ。
長い睫毛が大人びた横顔に、影を落とす。陶器みたいな肌に手を伸ばしそうになって、慌てて引っ込めた。
「燿。年下なのに呼び捨てにしないで」
誤魔化すように言葉を紡ぐと、けらけらと年相応の笑い声が降ってくる。
「そっかー、オウジサマにはなれないか」
低い声が落ちる。まるで寂しいみたいな、音だけが。
けれどそれは一瞬のこと。
ああそうかと何かを確信した彼はにやりと良くない笑みを浮かべる。これじゃまるで悪役だ。
「じゃあ従者でもいいよ」
「は?」
「しょうがないから従者でも、家来でも、何だっていいよ。円香の側にいられるなら」
なんでもないことのように、とんでもないことを言って、燿はじっと私を見つめる。
「オウジサマじゃなきゃ円香の側には居れないの?」
真っ直ぐで、心臓まで見透かされそうな視線が苦しかった。それは、溺れるような感覚だった。逃げ場がなくて、どろりと甘い。美しい色のシロップに溺れるような。
「………考えといてあげる」
カラカラの喉から用意した言葉は、なんとも情けない音だった。
「ふうん」
またあの意地の悪い笑みを浮かべて、燿はまたまじまじと私を見た。
「そっかそっか」
大きな瞳をきゅうと歪めて溢した声は、それはそれは嬉しそうで。
私はぱたぱたと何かから逃げるように頬を仰いだ。いや、まさか、そんな。
王子様がすぐ隣にいるなんて、どんな童話にも書いてない!
青春アラカルト 七夕ねむり @yuki_kotatu1
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