第13話 お金が入ったので着替えの為に服を買うことにした

 お金も手に入ったからやることは一つだ。

 買い物である。俺はこの世界に着てほとんどなにも持っていない。服も一着だけだ。

 それにこの格好も目立つ。


「というわけで、アリシア。悪いけど服屋ってあるかな?」

「……その前にあっち」


 水路を通る橋の上をアリシアは指さす。そこにいるのは箱に秤を乗せた男であった。


「…………サールエント金貨は大きすぎるから両替」

「ありがとう」


 早速両替をしてもらう。

 とりあえず1枚。


「これ、両替してくれ」

「…………」


 男は黙って、金貨を秤にのせて重さをはかっていく。


「何に両替する」

「……ルード銀貨」


 俺が何か答える前にアリシアがそう言った。


「……騙したらわかる」

「送り人を騙すかよ。燃やされちゃ敵わん」


 そういって彼は箱の上に銀貨を出していく。


「手数料と税金を引いて、ルード銀貨129枚だ」


 アリシアが何も言わないので俺はそれを受け取って彼女が渡してくれた別の袋に入れる。

 129枚の銀貨はかなりの量でそれなりにずっしりと懐が温まった感じがしていい。

 ただこれスリにとってはカモなのでは……? と思ったので金貨は本当に懐に入れて置く。

 銀貨も小分けにして持っておくことにした。


 それから再びアリシアの案内で服屋へ。

 そこでこの世界の服を買う。庶民は古着を買うのが当たり前らしいが、俺は竜の素材を売った金がある。

 アリシア曰く結構な大金なので、遠慮なく新しいものを買わせてもらった。寝間着と普段着を合わせて二着ずつくらい。洗濯して着まわそう。


 それらを入れる背嚢も買って、外套を羽織ると少しは旅人っぽく見えるようになった。

 一応、護身用に武器を持とうかと思ったが、竜骨のこんぼうよりも強い武器はなさそうなのでやめておいた。

 というか武器を持っていたとしても俺には使えないからな。せめて使いやすい棍棒で良い。


 というわけで――ルード銀貨3枚を使ってよい服を買った。

 残りの銀貨は126枚だ。


「どうかな?」

「…………」


 アリシアに見せてみたわけだが感想なし。俺ってそんなに駄目だろうか。いや、うん駄目なところしか見せてないな。

 出来るところを見せたいけれど、俺にできることは特にない。ただの学生にいったなにが出来るのだろうか。


 それでも何とか竜を養殖して彼女にドラゴンステーキを食べてもらおう。うん、それがいい。

 まあ、その養殖する手段もなにもないわけだが。


「あ、夕飯とかは俺が払うよ」


 アリシアが見せに入りたがらないので露店で肉巻きを買う。

 見たことない野菜を軸に肉が巻き付けてある食べ物だ。美味しい部類だが竜の肉を食べてしまったおかげで、微妙に感じられて辛い。


「おいしいか……?」

「…………ふつう」


 アリシアもこの反応である。

 そして、この日もどこかに泊まることにするが、やはりアリシアを泊めてくれるところはないというわけで、昨晩と同じ部屋にまた転がり込んだ。

 ここは一泊ルード銀貨8枚らしい。串焼きなどが銅貨数枚だったので、かなりの値段になるようである。

 新品の高級な服がルード銀貨1枚だと考えると、結構高いようである。


「……身体目当て?」

「だから違うって!」


 1人部屋は認められていないから仕方ないのだ。

 この日は俺が支払った。たくさんあると思っていた銀貨はかなり減ってしまった。明日も何か取りに行かないといけないだろう。


「……お湯、沸かした」

「あ、ああ、ありがとう」

「……先にどうぞ」

「お、おう……」


 宿で体を洗う。

 タライに張られたお湯。それで彼女はやっぱり衝立の向こう側にいる。ちらりと衝立の向こう側を除けば、彼女はすまし顔でベッドに座っている。


 俺ばかりが意識しているみたい。現にその通りなのだが、どうしたって慣れるわけがない。

 なにこの羞恥プレイ。


 意識したらもう駄目だ。とにかく頭を振ってその考えを振り捨てて身体を綺麗にすることだけ考える。

 あまり時間をかけているとまた彼女がこっちに来てしまうから手早く。


「終わった。どうぞ……」

「…………ん」


 寝間着に着替えて、アリシアと交代する。

 衣擦れの音、水の音。俺は目と耳をふさいで終わるのを待つ。こんなの慣れそうにない。

 早急になんとかしたい。そう思う気持ちがあるのだけれど、それと同じくらいこのままでもいいかなと思う気持ちもあった。


 美少女と同じ部屋。薄い衝立一枚向こう側では裸の彼女が体を綺麗にしている。そんな状況を逃したら次はいつになるか。

 彼女いない歴イコール年齢の俺では望めない。娼館はなんか怖いし……。興味はあるけれど、性病とかありそうだしで、手が出ない今、これを逃すわけにはいかない。


 そう俺の男子高校生の部分が叫ぶ。良心だけが、それに反対している状態。

 ただそう、ここ以外に行くとしたってどこに行けるというのだろう。俺はこの世界のことをまだ全然知らない。

 アリシアがいなければ買い物だって出来ない。彼女と別れたあとに生きていける光景がまったく想像できない。

 だから、仕方ないと自分に言い訳して、文句も言わない彼女に寄りかかったままの現状維持を選択する。


「……ふぅ……」


 軽い彼女の息と、ベッドに感じる振動で彼女も風呂を終えたのだとわかる。


「……ねえ、明日はどうするの」


 ふいにそう、アリシアが聞いてきた。

 俺は何も考えずに振り返って。


「そうだな……って、服!?」


 彼女の裸を真正面から見てしまった。


「……服はあれだけ。言った」

「そうだけど!」

「……問題?」

「問題だらけだよ!?」

「…………身体目当て?」

「ち、ちがう、け、ど……」

「……なら問題ない」

「…………」


 俺ばかり意識してしまって心臓が持ちそうにない。

 でもしっかりと彼女の裸体は焼き付いている。傷一つない綺麗な体だった。スレンダーながらも出ているところは出ていてそそる身体である。


 ――いやいやいや、何を考えているんだ!


 慌ててその考えを振り払う。


「あ、明日、だよな」


 ものすごく上ずってる。

 恥ずかしい。


「あ、明日も、何か探しに行こうかなって」

「…………わかった」


 もぞもぞと動きがあって、それから静かになる。

 寝たのだろうか。

 恐る恐る振り返れば、アリシアの寝顔が目に入る。ついでに言えば、俺が起きているせいで、ちょっと見えそうになって慌てて顔をそらす。


「…………まるで意識されてねぇ……」


 そう思わずつぶやいてしまった。他意はない。うん、他意はないはず。ないったら。

 そんな風に悶々と一夜を過ごすことになると思っていたけれど、やっぱり疲れと慣れない環境というのは大きくて、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。

 昨晩のようなことは何もなく、眠りは妨げられず、朝になる。


「んーはぁ、良く寝た。おはよう、アリシア」


 ベッドは硬いが眠れないほどじゃない。

 それに隣に美少女がいるというのはなんというかそれだけで精神的に勝ってる気がしてよく眠れている気がする。


「…………おはよう」


 今回はアリシアも起きてすぐというわけで準備中だった。


「って、まって、なんで普通に着替えてるの!?」

「……?」


 そう俺が起きているのに惜しげもなく窓を開けて光を取り入れながら裸体を晒して着替えをしていたのだ。

 慌てて視線を逸らして、溜め息を吐く。まったく意識されていないということが再確認できた。

 だからなんだということもないのだけれど、俺は衝立の向こうで着替えをする。


 昨日の服装とかも洗濯して部屋に干して、貴重品と装備を手に宿を出る。数日くらい借りるということで前払いしているから大丈夫だろう。

 げへへ、お楽しみにと仮面の支配人の下世話なせりふが聞こえたが、まあ気にしないことにする。気にしないったら。


 そして宿を出たところで。


「一緒に来ていただけますか?」


 再び、あの騎士さんに同行を頼まれた。

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