エピローグ
「電子アイドルずは結局その後どうなったの?」
ほなみが質問する。
ライブ終了後の楽屋――村雨は語った。
「……同じ第五世代の子、三人のアイドルグループだったんですけど、今はどうしているのかわかりません。元々アイドルのために生み出されたわたしたちだったんで、お仕事上の関係というか、会話はしましたが、トレーネほど仲良くはなかったんです。
……もっと話しておけばよかったかな」
そう微笑みながら語る村雨は、どこか悲しそうだった。
ライブは大成功に終わった。
十曲で終わる予定だったが、アンコールの声が鳴り止まず、神の怒りと真夏の大恋愛計画を二曲続けて再度やるハメになり、サドンデスのメンバーも再々登場したことで会場が沸いた。
ちなみに十七曲連続で、演奏・歌・踊りを行い、さらにメンバーがあまり慣れていないMCをその後も引っ張っていったゆづきは、ライブが終わるや否やステージ上でぶっ倒れた。
バッテリー切れである。
イリスもほなみも世代差もあって、最後の方にはふらついていた。
今回のライブで学んだ今後の大きな課題である。まずはMCをまともにこなせるようになりたいとほなみは思うし、バッテリーもそろそろ交換の時期が来ているのかもしれない。次は多少値が張っても大容量バッテリーを買わないと。そう思うほなみだった。
さて。お金のことである。
これまでのマイナス分、三百六十二万二千円もチケット販売数だけで一千万を超え、さらにはグッズ関連も軒並み完売となり、取り戻すどころか大幅プラスになってしまった。
ライブハウスにいくらか持っていかれたが、それでもプラスだ。
勿論、トレーネメンバーできちんと五等分にしたが、ほなみの手元には決して少なくない金額が残った。今後の生活も暫くはなんとかなりそうだ。
イリスの借金についても無事に全て返すことができた。しかし、クレジットカード請求額とPVに使ったヘリ代でイリスに限ってのみ、利益は雀の涙程度にしか残らなかった……らしい。
現在は一緒に住んでいるくらのに食べさせて貰っている始末で、イリスはくらののひもと化している。
お金が全てじゃないとは分かっている。とはいえ、お金が無ければここまで大変な「アイドル」は続けられない。生活だってあるのだ。
就職できる見込みは相変わらず無い。というより、探してもいない。
――このままアイドルで食べていきたい。
そう思うほなみだった。
決して就職活動が面倒臭いからではない。
その日。
イリスを除いたトレーネのメンバーはいつものレッスンスタジオにいた。
いつも通り、真ん中に集まっての車座である。
ライブから数日後。集まって今後の話し合いをしようということとなった。
「ねえねえ。ほなみん。眼球新しいやつにしたんだけど。どうかな? 似合うかな? かわいい? かわいいって言って?」
☆マークがハートマークへと変わっていた。
「悪趣味」
「ええええええええ!? なんでー!? バッサリー!?」
また不良品なのでは?
前と同じく涙は溢れんばかりのゆづきだが、ショックで本当に涙目なのかもしれない。
ぐいぐい上目遣いで身体を寄せてくるが、ほなみは若干引き気味だった。
いつもならかわいいと思う。しかし、ハートマークの瞳は常時発情しているようで貞操が心配になってくる。アイドルに恋愛はご法度じゃないのだろうか。ましてメンバー間の恋愛沙汰など。
いや、自分はなにを心配しているんだったか。
とにかく。
「前のがいいよ。戻した方がいいっていうかお願いだから戻して」
「ぶー!」
眼球交換って高いのに。また金欠に陥ったりしないだろうかと心配になった。
「くらのさん。イリスさんは来ないんですか?」
「大切な用事があるから五分ほど遅れてから来られるそうです」
「嫌な予感がしますね」
「気が合いますね。くらのもです」
村雨とくらのが未だに現れないイリスのことを心配していた。
前回を思い出す。
一人だけ遅れて入室してきたイリスのこと。
あの伝説の人間天使プロトタイプは結構な頻度でやらかす。
思えば、開発局をクビになったことも今となっては理解できるような気がする。
ほなみもゆづきもそんな会話を聞いて、なんとなくスタジオの扉に目を向けた。
そして、見計らったかのようなタイミングで「バンっ!」と扉が勢いよく開いた。
「みんな! 待たせたわね! 次のライブが決まったわ!
私たち、トレーネのセカンドコンサートの会場は――!!」
とびっきりの笑顔を浮かべたイリスが一枚のチラシを手にしていた。
了
トレーネ! 水乃戸あみ @yumies
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