ROUTE5 「かいくん」がふっとんじゃった!

「あっ、おいっ!」


 ぼくはこわくなって逃げ出した。


 急に、思い出したんだ。似たような男の人につかみあげられたことがあるって。


 そのあと、大きな乗り物の中にほうり投げられて……


 あ。ちょうど今、とてもよく似た乗り物が、大きな音を立ててこっちに向かってくる。


 こわい。どうしよう!


「あぶねえっ!!」


 ふわっと体が浮き上がると、ぼくはそのまま空を飛んだ。


 じゃなかった、誰かがぼくを持ち上げて、そのまま全速で走ってる!

 

 と思ったら、そのままどっかのかべにぶつかっちゃった! ぼくは、ぎゅっと抱えられたからぶつからずにすんだ。


「いってー」


 さっきのお兄さんだった。大きな乗り物は、そのまま走っていなくなっちゃった。


「大丈夫だった?」


 ぼくはぽてっとお兄さんの足もとに下ろされた。


 と思ったら、また別の乗り物が来た!


「うわほぎゃっ!?」


 お兄さんが、変な声を上げてぎゅるっと飛んでっちゃった!


『まったく、世話が焼ける』


 お兄さんの変な声に、聞いたことがある不思議な声が重なった。くろづるさんだ!


 あれ、お兄さんは?


 首をくりくり回して探すと、お兄さんはその辺の茂みに頭からつっこんで、おしりと脚だけが見えてる状態。


「お兄さん、だいじょうぶ?」


 お返事がない。だいじょうぶじゃないかも。助けてあげなきゃ!


 後ろ足で思いっきりジャンプして、お兄さんの腰の上に乗っかった。体を起こしてあげようと思ったんだけど、そのままずるっとぼくとズボンだけが下に下がっちゃった。


「きゃーやめてェー! 半ケツ罪で捕まるぅーッ!」


 お兄さんは、あわてて体を起こして下がったズボンをひっぱり上げた。よかった、元気みたい。


黒鶴くろづるさーん、いつも助けてくれるのは嬉しいんだけどさー」


 黒いもやもや、じゃなかった、くろづるさんに話しかけてる。


「もちっとカッコよいポーズで終わらせてくれると助かるっつーか」


『マヌケな甲斐かいには似合いのポーズだったぞ』


「なんでマヌケなの! 体張って小犬助けたのに!」


『その小犬は、霊だから車にぶつかることはない』


「え」


 そういえばぼく、「れい」なんだったっけ。


 お姉さんが心配そうに「大丈夫?」と近寄ってきて、お兄さんの体についた葉っぱをはらってあげた。お兄さんは、にこにこっとして、なんだか嬉しそう。でも、「あとでズボンのゴム直してあげるね!」と言われたとき、ちょっと泣きそうな顔になった。


 お兄さんは、ぼくのからだをなでて、どこも異常がないか心配してくれた。ぼくは「れい」なのに、お兄さんだけは触ることができるみたい。


 ぼくたちは、お互いに自己紹介をした。お兄さんは、「かいくん」っていうんだって。


 いつの間にか、ぼくは「かいくん」のことがぜんぜんこわくなくなってたんだ。



●・○・●・○・●・○・●・○・●・○


つぎは

⇒ROUTE7 「みやちゃん」がごはんを作ってくれたよ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897223147

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