ROUTE7 「みやちゃん」がごはんを作ってくれたよ 

「ケンタっていうのか。見た目甲斐かいけんっぽいから、『甲斐かいケンタ』だな」


「その名前、甲斐さんの弟みたいだねー」


 かいくんとみやちゃんが、ぼくに向かってにこにことお話してくれてる。


 みやちゃんは、ぼくのことは見えないんだけど、「ケンタくん、こんにちは!」と、明るくあいさつしてくれた。


 なんでかいくんを呼び止めたのかときかれて、ぼくはやっと、自分が何をしようとしてたのかを思い出した。


「ぼく、『みゆりちゃん』に会いたいんだ」


「みゆりちゃんって?」


 かいくんは、マジメな顔でぼくに質問した。


「あんまり覚えてないの。でも、ぼく『みゆりちゃん』ちに行くはずだったんだ。みゆりちゃんが、おいでって言ったから」


「みゆりちゃんとは、どこで会ったの?」


「あっちの、おっきなたてもの」


 前足をそっちに向けて伸ばすと、かいくんもそっちを見た。みやちゃんも一緒に見てる。


「あそこ、小学校だよな。みゆりちゃんって小学生?」


「んーと、わかんない」


 いつも同じ荷物を背中にしょってる? って聞かれたので、水色の箱みたいなのをよくしょってるよ、と答えた。するとかいくんは、「じゃ、ひとまずあそこへ行ってみる?」と聞いてきた。


「ぼくがみゆりちゃんを捜すの、手伝ってくれるの?」


「そうだなー、霊とはいえ、なんかほっとけないし」


 ただし、「みゆりちゃん」に会えたとしても、ケンタの姿は見えないかもしれないよ。


 かいくんはそう言った。それでもいいんだ、今はとにかくみゆりちゃんに会いたいだけなんだから。



  ◇ ◇ ◇



 小学校にはすぐに着いた。かいくんと、乗り物を手で押しながらみやちゃんもついてきてくれてる。もちろんくろづるさんも。


「なんだいあんたたち! 関係者以外立ち入り禁止だよ!」


 小学校の校門近くで、ホウキ片手にでん! とかまえて立ってるオバサンがいる。よくおそうじしにやってくるオバサンだ。かいくんの顔が、ぴきっと引きつった。


「あ、あの、先輩。まさかこの学校までテリトリーに??」


「たまーに呼ばれるんだよ。子供たちだけじゃ掃除が行き届かないからね。で、何しに来たんだい? ここの卒業生じゃなかったよね?」


「え、えーとですね……俺たち、『みゆり』っていう子を捜してるんです。この学校の子なのかなーって」


「そんな個人情報、あたしが教えるとでも思ったのかい」


「ですよね……甲斐さん、ダメもとで事務室に行ってみよっか?」


 みやちゃんがそう言うと、なぜかオバサンは急にかいくんの腰をバシッと叩いた。「いでっ!!」


「みゆりちゃんは四年二組だよ! 出席番号二番、青川あおかわみゆり。住所はあっちの……ベラベラベラ」


「うわー個人情報丸出し! でも助かった! さすが先輩!」


「で、みゆりちゃんに何の用?」


 かいくんは、少し悲しそうな顔をして黙っちゃった。代わりにみやちゃんが、オバサンに質問してくれた。


「その子、たぶん小犬を飼おうとしてたんだと思います。『ケンタ』っていう小犬のこと、聞いたことありませんか?」


「ああ、ケンタね。一週間くらい前からだね、この辺をうろつくようになったのは。たぶん学校が動物愛護センターに連絡したと思うけど、おととい震度四くらいのおっきい地震が来たあと、いなくなっちゃったんだ。地震にビックリしちゃったのかねえ」


 かいくんが、ぼくの方を見た。んーと、「じしん」ってなんだろう?



  ◇ ◇ ◇



 みゆりちゃんちに行く前に、かいくんとみやちゃんは、おうちに帰ってお昼ごはんを食べるんだって。


「ケンタくんもおいでー」


 ぼくの姿が見えないのに、みやちゃんは優しそうな顔でにこにこと話しかけてくれる。


 ぼくは前足としっぽをぴんっと上げて、「うん、行く!」って答えたんだ。


「なんか、おにいも用事があってすぐには帰れないんだって。先に適当にごはん済ませちゃおか」


 手に持った四角いおもちゃを見ながら、みやちゃんがそう言うと、かいくんは


「あいつにラーメンの材料頼んだのに、仕方ないなー」と、ぶつぶつぼやいてた。


「家にあるもので、おじやか何か作るね。ケンタくん、食べられるかなー?」


 おうちにつくと、みやちゃんが「犬用のとくせいおじや」を作ってくれた。


 ぼくだけじゃ食べられないけど、なぜかかいくんがお皿を持ってくれると食べられるんだ。


 お肉とお野菜たっぷりの、とってもおいしいおじやだったよ!


 食べ終わって、お水ももらったあと、急に後ろから抱き上げられた。


「うわー、急にだっこするのやめてー!」


「ごめんごめん。だって後ろ姿、すっごく可愛いんだもん……丸くてちっこくて、ほんとぬいぐるみみたいだなー」


 かいくんは、ぼくをだっこしたまま「みやちゃん手作りのぬいぐるみ」を見せてくれた。


 ぴんっと立った三角お耳。きりっとしたりりしいお顔。茶系のとら毛模様に、ぴしっと立ち上がった勇ましい差し尾。


 うん、確かにぼくそっくり。


 なぜか少し悲しそうな顔をするかいくんに、くろづるさんが言った。


『甲斐。その小犬、霊は霊でも幽霊ではないぞ。ちゃんと、どこかで生きているはずだ』


「ほんと!?」


 かいくんが一気にうれしいお顔になった。ぼくもうれしいな!



●・○・●・○・●・○・●・○・●・○


つぎは

⇒ROUTE9 「みゆりちゃん」の家へ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897049162/episodes/1177354054897224577

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