第14話 魔術師、再び

人気の無い所場所へと転移してきたわたしは、素性がバレ無いように直ぐに仮面を装着して魔術師のローブを羽織る。

そして、直ぐに下位クラスの冒険者が魔物と戦闘している場所へと駆け出した。


わたしは、自分の存在を隠す為の認識阻害の結界を纏い、魔物との戦闘を繰り広げている冒険者たちに近付き過ぎないように気を付けながら戦況を見守り、例の男たちを探していた。


「どうやら、この付近に魔物使いは居ないようね」


この辺りには、目標とする魔物使いの姿は無かった。

仕方が無いので、わたしは魔物がやって来る方向に向かって捜索範囲を広げることにした。


そして、わたしは移動しながら索敵と魔力感知を並行しておこない、居るであろうその範囲をしぼっていく。


「見つけた!」


小高い丘に立つ一本の樹のところで、男たちが練っている魔力をわたしは感知した。


しかし、このまま駆けて移動していたのでは、男たちに魔物をどんどん召喚補充

されてしまうので、わたしは自重せずにその場所へと転移することにした。


「うぉっ!誰だてめっ」


わたしが、突如として現れた事に声を荒げる男たち。


だが、普通それで悠長に名乗るバカは居ない。


わたしは、答えずに問答無用で男たちを切り伏せていく。


ギャ~!


男のくせに情けない声を出すんじゃない。


ぐがっ!


まぁまぁかな。


きゃ~!


おねぇかい。


そして、わたしは魔物を召喚していた魔物使いの男たちを瞬殺したのだが...

数メートル先にある召喚の為の魔法陣が、男たちのコントロールを失い暴走を始めてしまった。


「あっ、ヤバい!」


その時、この日一番の大物が魔法陣の中から頭を出し始めているところだった。


わたしは急いで、その暴走を始めた魔法陣を消滅させるための魔法陣を構築していく。


「ん~、間に合うかどうか。間に合えっ......えいっ」


GAaaaaa~~~!


わたしの構築した魔法陣が何とか間に合い、魔法陣の暴走を止める事には成功したのだが、魔法陣が消え去ったその後には、胴体とサヨナラしたオークキングの頭部が転がっていた。


合掌!


「あっ、そろそろ戻らないと拙いわね」


わたしは周りを見渡して、人気がない事と、安全を確認すると御手洗いへと転移した。


◇◇◇◇◇


「ふぅ~、終わったな」


「今回の盗賊たちには手練れが多かった」


「まったくだ。魔物使いまで居やがるんだからな」


「そう言えば、マーク。これの報告はどうするんだ」


そう、Aランクの冒険者パーティのリーダー・マークは思案していた。

いま彼の目の前には、魔術師のローブを着た魔物使いの男たち三人の亡骸とオークキングの頭部があるからだ。


「どうするも、現状を正直に報告するしか無いだろう」


以前あった魔物の氾濫の時のように、討伐してくれた人物を特定することが出来ない状況になっていたからだ。



翌日......。


冒険者組合ではAランクの冒険者たちを集めて、昨日行われた盗賊団迎撃の報告会議が行なわれていた。


「皆、昨日はご苦労だった。死者も出ること無く終えること出来たのは何よりだ」


組合長から、迎撃成功に対しての労いの言葉をきっかけにして報告会議が始まった。


………。


「そうか。マークたちがその場に駆け付けた時には終わっていたんだな」


「あぁ。今回はその人物の姿を見た者は一人もいないから、前回以上に人物の特定をする事は難しいだろう」


「それは、しょうがないか。領主様には前回同様『仮面の魔術師』として報告しておこう」


◇◇◇◇◇


七の月になり、わたしは満月の夜を楽しみにしている。


盗賊団の事件後、冒険者組合の方は平常運転に戻っていたので、わたしは平穏な時間を過ごしていた。


「明後日かぁ、楽しみだな」


わたしの口からは、独り言が出ていた。


「ユリアちゃん、何が楽しみなの?」


わたしの後ろにいつの間に来ていたのか、シンシアさんに聞かれてしまったようで、問いかけられてしまった。


「お花を見に行く予定なんです」


「そう。一人で行くの?」


「勿論です!」


わたしは、即答する。


「そこまで、強調しなくても。相変わらず男性には興味がないのね」


シンシアさんは何かにつけて男性の話題を振って来るが、わたしには全くその気は無いのだ。


ジェンダーレスとして、自由に生きるのだから。



二日後......。


前回訪れた洞窟へとやって来たわたしは、満月の月明かりが照らす場所を確認しながら、印を目印にして青光草の花が開花するのを待っていた。


洞窟の天井に開いた数カ所の穴から月明かりが垂直に地面へと降り注いでくる。


するとその月明かりに反応して、青光草の花弁がゆっくりと開いていく。


「綺麗!」


花弁の外側は薄い青色なのだが、内側は外縁の薄い青が花弁の中心に向かって濃い青へ変化していく。

そして、青光草の周りには金色の粒子が舞っていた。


わたしは、その神秘的な花を見ながら鑑定もしていた。


※青光草

一年草、七の月の満月の夜にしか咲かない。

効能、優れた薬剤師や錬金術師が調合すると万能薬となる。


「わぁ~、万能薬になるんだ」


この夜わたしは数本の青光草を採取すると、宿の自室へと転移魔法で戻ったのだった。

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男の娘、異世界を満喫する あんドーナツ @ando_natu

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