第97話 日本国内、情報開示2
ここで会議室の照明がやや落とされ、両国国旗?が映っていた正面スクリーンにゼノに関する映像が映された。
「このやや水色がかった灰色の紡錘形の物体をわれわれは、星間生命体ゼノと呼んでいます。厳密に生物といえるかわかりませんが、われわれは生命体であると思っています。このゼノは成体で全長40メートル最大径10メートルほどでそれほど巨大ではありませんが、その質量は二百万トンから四百万トンあります」
「四百万トン」そう呟いて、つばを飲み込む声が聞こえた。
「はい、四百万トンです。この四百万トンのゼノが光速の15パーセントという速度で恒星間空間を飛び、そのまま減速することなく岩石型惑星に突入します。太陽系ですと、地球や火星といった内惑星がゼノの標的になります。
四百万トンもの質量を持つゼノが光速の15パーセントで
「一体でもと言うことは、そのゼノは複数存在するということですか?」
「その通りです」
「次にお見せするのは、そのゼノがある岩石惑星に突入した時の映像です。今から十数年前に起こった出来事で、場所は太陽系から約10光年の距離にある星系内です。
ここでは、七十五万のゼノが一つの惑星に突入し、その惑星が白球化しました」
映し出された映像はエリダヌス座イプシロンI星系の内惑星。その惑星が降り注ぐゼノにより閃光を発しながら崩壊して行き白球化した時の映像だ。惑星の周囲には宇宙空間まで吹き飛ばされた破片がリングを形成し、白球化した惑星により白く照らされている。初めてこの映像をみた二人は声を失っている。
「これが、ゼノの脅威です。このゼノは惑星に突入後数年をかけて繁殖し次の目標に向け旅立っていきます」
ここで、またつばを飲み込む音が聞こえて来た。
「幸いにして、われわれアギラカナには、先にお見せしたゼノをたおす手段を持っていますので、この惨劇の数年後、繁殖を終えて惑星から飛び立った全てのゼノをたおしています、その時撃破したゼノの数は三百十二万でした」
こんどは、息を吐く音。
「こういった映像をわれわれにお見せになったということは、どういった意味合いがあるのでしょうか?」
と、
「ここから先はお二人の記憶の中にだけ留めていただきたいお話になります」
二人がうなずいたのを確認し、
「実は、このゼノが太陽系に迫っていることをわれわれの探査機群が発見しました。距離と経路などを勘案すると、太陽系到達までの時間は二百年以上あると予測しています」
今度は二人ともほっとしたようだが、ここで話が終わったわけではないことを悟ったようで口元を引き締めて俺の話を聞いている。
「この太陽系に接近しつつあるゼノの数が問題で、これまでの観測数値では二十六億強を記録しています。
この二十六億のゼノに対し、われわれアギラカナが二百数十年に渡る戦いを挑むシミュレーションを行った結果、われわれが今持ち得る技術で甚大な被害を顧みず徹底した攻撃を行ったとしてもゼノの完全撃破は不可能という結果がでました」
実際は五分五分だったが、少しは話を盛ってもバチは当たるまい。
「ということは、将来的には地球はそのゼノによって滅びるということですか?」
「申し上げにくいことですが、そういうことになります」
「われわれ地球人がゼノ撃退のため全力で協力すれば何とかならないでしょうか?」
ここで、マリアが、
「ご存じかも知れませんが先日、大陸中国の原潜部隊と合衆国の原潜部隊が北太平洋で軍事衝突しました。この結果、大陸中国の原潜部隊九隻は全滅しています」
「軍事衝突、それも原潜同士の潜水艦戦があったんですか? あとで防衛省に確認しますが、こちらでは全く把握していなかったと思います」
「ご確認ください。従いまして、非常に申しあげにくいことですが、地球人類が一丸となってゼノに立ち向かうことができるのかわれわれは疑問に思っています。また、一般的地球人を搭乗させた戦闘艦艇と無人艦艇との戦闘力の差はほとんどありませんので、こと対ゼノ戦での戦闘力などの提供のお申し出はあまり意味はありません」
はっきり言って気を悪くするような二人ではなさそうだがそこまで言わんでも。
「そういったわけで、お申し出はありがたいのですが、今後ゼノに対してこれまで以上に有効な攻撃手段が見つからない場合は、
「理解しました。……、あっ! それで、突然のアギラカナの移民募集だったんですか?」
「そういうことです。いままでお二人にお話した事柄を、地球上の全世界に発表した場合のインパクトを推定した結果、非常に思わしくない結果が出てしまいました。そのため、この発表は控えて、せめて日本人の方々には出来る限り混乱のない状態で地球からの人類の脱出を進めて行こうと思い、移民の協力を要請するため先日、前の政権の方々にお会いしたのですが、ああいった形の会談となってしまい、こちらからの協力要請をせずに引き上げました」
「そうでしたか。重ね重ね申し訳ありません。いまからでもわが国が協力できませんか?」
「そう言っていただければ、ありがたいです」
「あのう、少しよろしいですか?」と、
「はい」
「アギラカナが惑星に匹敵する宇宙船ということは理解しているつもりなのですが、アギラカナにすべての人類とはいわずともすべての日本国民を避難させることは可能なのでしょうか?」
「日本からの移動という意味でも、住む場所や働く場所といった空間的な意味合いでも全く問題ありません。いま現在、日本からの移民のみなさんに開放しようと考えている場所というか、島? それをお見せしましょう。
マリア、この前視察した時の映像を頼む」
「はい。艦長」
「艦長?」
「ああ、アギラカナは宇宙船といっていますが、実は戦闘艦でして、私はアギラカナ代表などと自称していますが、実は惑星型宇宙艦アギラカナの艦長なんです」
ほぼ全員が軍人の国など理解は難しいだろうな。
話をしているうちに先日視察した周囲を海に囲まれたサツマイモ島が前面のスクリーンに映し出された。
「これは惑星?」
「これは、アギラカナの内部です。アギラカナでは内部にこのような惑星環境を持っており、地表は数十キロ上空にある天井の発光体によって照らされています。夜空に星は見えませんが昼夜の区別もあります。今スクリーンに映っている島は私がサツマイモ島と呼んでいる島で、この島を当面日本からの移民の方々用に開放するつもりです。
この島の面積は約五十万平方キロ。日本の本州の面積が二十二万八千平方キロですからその二倍ちょっと。平地面積比で比較すると、日本全体の約四倍ありますから、土地問題は当面起きないと思っています。ここが一杯になれば、まだまだ土地はたくさんありますので問題はないでしょう」
「言葉の上だけで納得していた惑星に匹敵する宇宙船がこれほどのものだとは思ってもいませんでした。ぜひ、移民計画に協力させてください」
これまで、移民について少し投げやりになっていたが新しい日本政府の要人二人と会談してみて、もう少し真面目に移民問題に取り組もうと思ってしまった。人の感情は面白いものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます