第98話 介入案


 日本国内外で、新政府首脳のアギラカナ駐日大使館訪問がニュースとして取り上げられた。政府発表では単なる表敬訪問であると伝えられただけだが、新政府の速やかな動きが好感され、旧政府が政権を投げ出して以降上げ続けていた平均株価はさらなる上昇を遂げた。


 総選挙期日は以前より民自党で準備が整っていたようで他党の選挙態勢が全くというほど整わない中、異例の総選挙期日の十八日前、解散三日後には公示された。




 アルゼ帝国のマルコ提督に内乱関連のデータを渡して、三日が経過していた。マルコ提督からの応答に少々間が開いてしまったので、今回は空振りしたのかと思っていたところ、


「艦長、マルコ提督より、通信が入っています」


つないでくれ」


「艦長の机のモニターにお出します」


 さーて、期待通りの反応か? それとも空振りか? 空振りなら空振りで仕方ない。またほかに何か考えよう。




『山田代表、早速ですが、いただいたデータをもとに当方でも検証した結果、若干の差異はあったようですが、おおむねそちらの結論と同じ結果が出たようです。

 現段階で統制を強めればある程度内乱を押さえつけることはできるとの見方もありましたが問題が先送りされるだけとの結論を得ました。

 また、惑星破壊兵器の使用について、疑問の声が一部あったため、第三者機関で調査検討した結果、現在の軍部の状況を考えると十分ありうるとの結論が出ました。軍部の一員である私が言うのは問題かもしれませんが、帝国の軍部は私も含めて国内的に失態を続けており、もはや負けられないとの意識を強く持っているのは事実であり、そういった兵器の使用もありえるとの結論です。

 ここまでの内部データをアギラカナが収集した手段等気になる点は多々ありましたが、私の権限下で確認させていただきました』


「それで、アルゼ帝国としてはどのような対応をお取りになりますか?」


『わざわざ、山田代表がわれわれにこのような情報を伝えてきたと言うことを考慮した結果、なにかのバーターで、アギラカナがこの内乱を収める手段をわれわれに提供してくれるのではとの結論に至りました。いかがですか?』


「すこし、卑怯ひきょうな手を使わせていただいたわけでもうしわけありません。実は、提督もご存じの太陽系ですが、将来的にゼノの超巨大集団により壊滅することがほぼ確定してしまい、第三惑星から住民を脱出させるその行き先を探しています」


『お話の腰を折るようで申し訳ありませんが、アギラカナでも対処しきれないゼノですか?』


「はい、二十六億をこえるゼノの大集団が太陽系に向かうと予測しており、われわれが直接的犠牲を払っても第三惑星を含む太陽系の内惑星は救えないとの結論に至っています」


『二十六億。なるほど』


「そのため、移民先の惑星を物色していたのですが、われわれが見つけたどの惑星も非常に遠距離にあるため、将来にわたっての発展どころか高い確率で文明さえも失われてしまうようでした。そこで、文明圏であるアルゼの一惑星、具体的には、ハルマイネ星系近傍でアルゼ帝国がまだ入植していない人類の居住可能惑星を提供していただきたいというものです。対価といたしましては、今回の内乱の調停ならびに、アルゼ帝国領へのゼノの接近の事前警告、提供された惑星を含む周辺星域のゼノに対する優先的防衛を考えています。いかがでしょうか?」


『中規模有人二惑星を喪失することだけを考えても是非にとお願いしたいところですが、何分領土問題ですので、私の一存ではご返事しかねます。いましばらくお待ちください』


「了解しました。良いご返事をお待ちしています」


『ちなみに、内乱の調停は具体的にはどのような手段をお考えですか?』


「いまのところ、われわれの艦隊で星系を完全封鎖したうえで、内乱側の艦船がもし存在すればすべて拿捕します。その後、内乱側に停戦を勧告し、受け入れられない場合は、ハルマイネ星系の主要惑星に陸戦隊を降下させ保障占領を含めた行動をとります。その際いくばくかの社会資本が失われる可能性が有りますが、そこはわれわれが責任をもって修復します。停戦勧告が受け入れられた場合は、ハルマイネ星系の主要惑星に対して、軌道エレベーターを二基建設させていただきます」


『軌道エレベーターまで。わかりました。それではこの件について早急に枢密院にはかり、回答いたします』



 手ごたえはあったが、どうかな?


「マリア、どう思う?」


「おそらく、こちらの要望は聞き届けられると思いますが、先方がアギラカナに対しある程度の追加要求を行う可能性が有ると思います」


「具体的には?」


「ハルマイネ近傍だけでなく、首都星系ハミラピラトラもゼノからの襲撃に対して防衛を依頼してくるといったところだと思います」


「それについては、われわれの余裕の範囲内ではあるが、もとよりそのつもりだったから問題ないだろう」



「軌道エレベーターについては、私は艦長から伺っていませんでしたが、良いお考えだと思います。ハルマイネの主要惑星の規模からして軌道エレベーターが通常建設されてしかるべきものだったところ、これまで中央政府との折り合いが悪いため、宇宙関連の設備が建設されなかった経緯があったようですので、ハルマイネ側も納得して停戦に応じると思います」


「アギラカナなら簡単に軌道エレベーターを作れると思って、思い付きで言ってしまったが、そもそも軌道エレベーターは簡単に作れるものなのか?」


「特に問題なく建設可能です。工作艦一隻と、原材料を運ぶ輸送船一隻で、軌道エレベーターの基本部分は一基当たり二週間もあれば完成すると思います。動力系や駆動部分についてはアルゼの技術水準までデチューンすれば保守管理もアルゼで行えると思います。

 アルゼにも独自の軌道エレベーターの運用ノウハウがありますから、基本部分以外のプラットフォーム部分やその周辺については先方で好きなように拡張できるようにしておけばそれで十分だと思います。現在工作艦の運用スケジュールに余裕がありますから、同時に二隻の派遣も問題ありません」


「二週間でか。とんでもないな」


「そうはいっても軌道エレベーターはかなり使い勝手の悪いものですから。エネルギーが自由に使えるようになり、重力航法が一般的になればいずれすたれる技術と思います。それで感謝されるのでしたら、それでいいんじゃないでしょうか」


「そうだな。話がまとまった場合、派遣する艦隊は二個艦隊と、陸戦隊の二個連隊かな。工作艦も含めて手配を頼む」


「了解しました」





 翌日、ハルマイネの主要惑星マンドルカで予測通り内乱が発生した。


 もちろん、現地の治安当局では中央からの指示もふまえ、以前より高めていた警戒態勢をさらに高めていたが、治安当局内部への浸透を以前より果たしていた内乱側は、早期に大量の武器を手中にし、旧ハルマイネ軍の退役軍人を中心に市街戦を展開し、有利に戦いをすすめており、数日のうちに治安当局の拠点を全て制圧してしまった。


 その内乱の火は、星系内の他の有人二惑星にも飛び火し、そちらも内乱側が有利に戦いを進めている。


 中央では、ハルマイネの内乱に対し準備指示をすでに発令していた、陸軍部隊一個軍が即応部隊として多数の揚陸艦に搭乗し護衛艦艇を伴い順次ハイパーレーンゲートを使いハルマイネへ向かった。




[あとがき]

選挙の日程などは適当です。

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