第96話 日本国内、情報開示


 一条が例のデータをうちに出向中の外務官僚を通じて合衆国のしかるべき機関に渡した影響か、民間ではそれなりの動きがあったが、とうとう政治の世界にも動きが現れて来たようだ。


 経済界にも見放された感のある現内閣に対して前与党の民自党から会期末を前に内閣不信任決議案が提出された。その際一部野党も不信任決議案に同調し決議案に賛成票を投じたため議案は可決された。


 これに対し現内閣は衆議院の解散ではなく総辞職の道を選んだ。その結果行われた総理大臣指名選挙において民自党総裁の高一佳苗が両院での過半数の票を獲得し次期総理に指名された。高一は総理就任後、直ちに組閣を済ませ、間を置かず衆議院を解散している。先の季節外れの人事異動の影響か、マスメディアの対応もこれまでとは異なり高一の新内閣をいたって公平に扱っており、選挙では民自党の単独過半数の議席獲得が早くから予想されており、そこからどれだけ議席を伸ばすかに焦点が移っている。また今後聡明党との連立は行わないと民自党では明言している。



「艦長、日本の首相官邸から会談の要望が七階を通じて寄せられているようですがいかがいたしましょう」


 アインから報告が上がった。


「会談というのは、俺と誰の会談だ?」


「日本政府の高一たかいち総理です」


「ほう。就任後間を置かず、最初にアギラカナを会談相手とするのか。ふうん」


「それで先方は会談場所に、ここアギラカナ駐日大使館を希望しているようです」


「総理自らここに出向いてくるのか。なかなか熱心だな」


「一応、高一たかいち総理と新川官房長官の二名での訪問を希望されているようです」


「それで、先方はいつを希望している?」


「こちらの都合がつけば明日の午前でも可能だそうです」


「選挙期間中だろうに、フットワークが軽いな。それなら、明日の午前十時、十階の会議室で会談しよう。下の車寄せでの出迎えはアインと一条かな」


「了解しました。一条さんには伝えておきます。会談場所は応接ではなく会議室ですか?」


「二人ともまともな政治家のようだ。話を最初して見て、信頼できる人物だと確認したらゼノのことを話して、移民の協力を取り付けよう。会議室でビデオを見せれば理解してもらいやすいだろう。随員等は遠慮してもらって会談は二人だけという条件を忘れずにな」


「大丈夫でしょうか?」


「いずれ告げることになるわけだからな。相手が信頼できるのならば早ければ早い方が先方のためになると思わないか?」




 翌日。


 当方はシナリオ通りのビデオを用意して総理一行を大使館で待ち受けている。


 そして、約束の十時五分前、黒塗りの日本政府の公用車が三台ほど下の車寄せに到着した。私服のSPたちは、玄関前に並んで、そこから総理と官房長官が車から出て来た。これに対し打合せ通り、大使館入り口で一条とアインが出迎えている。もちろんわが方の陸戦隊員たちも大使館敷地内の各所で目立たないよう細心の注意を払って警備をしている。



 十階直通エレベーターに乗って上がってくるはずなので、総理たちを出迎えるため俺はマリアを伴いエレベーター前に向かった。


 

 ピン。という注意音とともにエレベーターの扉が開き、高一佳苗日本国総理大臣と新川健官房長官が十階に到着した。


「どうも、お忙しいところ、われわれのために時間を取っていただきありがとうございます」


 いきなり一国の総理に頭を下げられてしまった。


「いえいえ、わざわざお越しいただきありがとうございます。今日はお越しいただいたお二人にこちらからもお見せしたいものがありますので、応接ではなく会議室にご案内します」


 今度は俺が先頭に立って二人を会議室まで案内する。その間、お客さまの二人はキョロキョロ周りを見回している。まあ、普通のオフィスビルとは違ってほとんど何も置いていないし殺風景なところもある。


「日本政府からの出向帰りの者に聞いた話ですが、このアギラカナ大使館は、地震の時にも揺れたことがないとか」


「そうですね。この建物はこのような形をしていますが、実質宇宙船なので、今も直接地面の上に建っているわけではなく数十センチですが浮かんでいるようです。その関係で地震が来てもここは揺れません」


「なんと!」


 総理に驚いていただけたようで何より。


 先方には随員なしの二名で会談に臨んでもらうようあらかじめ断っていたので、会議室ではやや長めの机に、左右に分かれて席に着いた。部屋の正面の大型スクリーンの左半分に日章旗。右半分にうちの旗、といいたいところだがアギラカナには旗がないので、いつもの、宇宙を背景としたブレイザーの六角柱を映しておいた。


「それでは、あらためまして、このたび日本国の総理大臣を拝命いたしました高一たかいちです」


「官房長官に就任した新川です」


「わざわざご丁寧に、アギラカナ代表の山田です」


 これではまるで会社員のあいさつだが、逆に好感は持てる。


「それで、お二人がわざわざ私共の大使館までお越しになられたのはどういったご用件でしょうか?」


「まずは、さきの内閣でのことではありますが、わが国がアギラカナに対する背信行為とも言うべき非礼を働いてしまったことをおびにうかがいました」


 ここで、二人が一斉に立ち上がり俺に向かって頭を下げて来た。ここまでされるとは思っていなかったので少々面食らったのだが、こちらは心情的には小市民なのでそれなりに機嫌が良くなってしまったことで、ああ、俺もまだ日本人だったのかと不覚にも思ってしまった。


「先日のことは、お二人が頭をおさげになるほどのことでもありませんので、どうぞ頭をお上げください」


「ありがとうございます。今回の訪問の主旨ですが、わが国はアギラカナとの共存を図っていく以外に発展の道はないと考えています。しかし、この十数年間、アギラカナからわが国が得ている恩恵とわが国がアギラカナに対して与えているものを比較した場合、圧倒的にわれわれの得ている恩恵の方が大きいわけで、こういった一方的な関係は望ましくありません」


「続けてください」


「ということで、ご用うかがいでもありませんが、何かわが国がアギラカナに対して貢献できるようなものがあればお教えいただきたいと考えてここに参りました」


「なるほど、分かりました。それでは、一点だけこちらにも日本政府に対して要望があるのですが、その前にある映像をお見せします。かなり驚かれるような映像だと思いますが、実際の映像です」

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