第95話 潜水艦戦


「艦長、マルコ提督への通信確立できました」


 机の上のモニターにマルコ提督が現れた。


「マリア、ありがとう。

 こちらは、アギラカナの山田です。マルコ提督ご昇進、ご陞爵しょうしゃくおめでとうございます」


「山田代表、ありがとうございます。すでに私の私事までアギラカナに伝わっていましたか。それで、どのようなご用件でしょうか?」


「提督もご存じでしょうが、貴国の一星系にハルマイネという星系が存在しているようなのですが、その星系において、大規模な内乱の兆候をわれわれが掴みました。近日中にも蜂起が発生するようです。もはや蜂起を止めることは難しいと思います」


「それは、本当ですか?」


「われわれの得た情報からの推測ですが、まず間違いありません」


「ハルマイネが不安定化しているという話は聞いていましたが、そこまで事態が悪化していたとは思いもよりませんでした」


「内乱はアルゼ側の本格介入により約一年後に収束すると、当方の試算では出ています」


「一年ですか」


「期間もそうですが、双方ともに甚大な被害をこうむるようです。アギラカナとしましては、その紛争を調停する手段を持ち合わせているとだけお伝えします。これから、そちらにこの件に関するデータとシミュレーション結果などを送りますので、まずはそちらでも検証してみてください。この回線は常時開いておきますので何かありましたらご連絡ください」


 そういって、含みを持たせて会話を終了した。エサはまいたので、あとは先方の反応を待つだけだ。




 そのころ、北太平洋、アリューシャン列島沖。


 所属不明の潜水艦が護衛対象の戦略原潜に危険距離、具体的には長射程魚雷の射程50キロまで接近した場合、護衛の攻撃型潜水艦は当然正体不明潜水艦に対して定められた行動をとる。


 デフコンレベル3でのあらかじめ定められた戦略原潜護衛手順に従い、バージニア級攻撃型原潜SSN-26『ポンぺオ』は行動を開始した。


「艦長、音紋照会でました。大陸中国097型の1番艦から3番艦の三隻です」


「正確な海中温度分布図など持たないだろうによくわれらが聖域サンクチュアリーまで出張でばって来たものだ。そこだけは褒めてやるが、これ以上コロンビアに近づける訳にはいかない。副長、交戦規程の確認と記録を頼む」


「アイ、サー。……、デフコンレベル3における交戦規定、現段階においてオールクリア。記録しました」


 これだけ水中で騒音を振り撒く潜水艦はかの国だけだが、実戦でこちらが探信音をださずピンを打たずとも位置が特定できるのはありがたい。


「ご苦労。それでは、諸君実戦だ。なーに、相手はチャイナボカンだ、訓練より簡単なことは私が請け負おう」


 艦長の渾身こんしんの冗談は指令室内では通じなかったようだ。もちろん命令ではないため誰も復唱しない。


 艦長は気を取り直し、


「対潜水艦魚雷戦用意、発射管は1番から3番を使う」


 四基ある魚雷発射管のうち4番は予備としていつでも発射可能な状態になっているべきものであるため、あえてそれを口にはしない。


『発射管室。アイ。推進剤注入開始。……、推進剤注入完了。1番から3番にMkマーク48装填完了、……、発射管注水完了』


『1番から3番魚雷発射準備完了』


前扉ぜんぴ開け」


『前扉解放、確認』


「1番発射、2番発射、3番発射」


『発射完了。……、全魚雷正常駛走しそう中』


「本艦はこのまま急速沈降、水温躍層すいおんやくそうまでもぐる」


「アイ、サー。メインタンク注水、急速沈降」


 ピーン、……、ピーン、……、ピーン。


 ここで、敵潜からの探針音が艦内に三度響いた。このまま沈降しあと二十秒もすれば水温躍層すいおんやくそうだ。水温躍層まで潜れば魚雷搭載のシーカーではとらえられないだろう。沈降必要時間と敵艦との距離から考えてもはや安全だ。


「1番、シーカー敵潜捉えました。ワイヤー切断します」


「2番、シーカー敵潜捉えました。ワイヤー切断します」


「3番、シーカー敵潜捉えました。ワイヤー切断します」


 順調に魚雷は敵潜を捉えていく。


「敵1番艦、デコイを放出しながら転舵した模様です」


「この局面でスクリューを止めずに転舵してどうしたいんだ。所詮しょせんは三流海軍か」


「敵2番艦、魚雷発射しました。二本です。……、大きく旋回して迷走しています。敵魚雷、敵潜に異常接近。敵魚雷、自爆しました」


「敵3番艦、デコイを放出し、機関を停止しました。急速沈降を始めたようです」


「本艦、水温躍層すいおんやくそうに入りました。パッシブ、感度低下します」


「水平前進微速」


「水平前進微速、沈降停止しました」


 魚雷がすでに敵潜を捉えている以上もはや撃沈は確実だ。



 そこから十数秒経過し最初の衝撃が艦に到達した。


「1番魚雷、命中しました。……、爆発音、引き続き気泡音、浸水音複数確認、敵艦自然沈降中。撃沈確認しました」


 そして、二度目の衝撃。


「3番、命中しました。……、爆発音確認、……、気泡音、浸水音確認しました。敵艦自然沈降中。撃沈確認しました」


 最後の衝撃も艦を通り過ぎて行った。


「2番、命中しました。……、爆発音、気泡音、浸水音確認、敵艦自然沈降中。撃沈確認しました」



「副長、初めての実戦相手だったが、なんだかすごい連中だったな。まともだったのは、敵の3番艦だけだったか。もう少し早く対応されていたらMkマーク48でも逃したかもしれないな」


「艦長、自分の撃った魚雷で撃沈された場合、撃沈戦果数にカウントするんでしょうか?」


「アナポリスでは習わなかったが、われわれが知る必要はないだろう」






 マルコ提督と話し合いを終えて、自席で一服中のところに、アインがやってきた。何事かと思って話を聞くと、


「艦長、北西太平洋において、潜水艦戦が発生したようです。合衆国と大陸中国との攻撃型原潜同士の潜水艦戦が発生し、結果は合衆国側喪失艦なし、大陸中国側喪失艦九、大陸中国側は太平洋に先日侵入した全艦を喪失した模様です」


「これもまた、極端だな」


「装備と錬度でここまで差が出るとは私も驚きました」


「なぜ、大陸中国は無理をして太平洋に進出したのだと思う?」


「おそらく、合衆国による何らかの挑発もしくは日本経由での情報の意図的漏洩ろうえいがあったためかと思います」


「日本経由?」


「先般のデータを入手した合衆国が、それを元に日本国内の大陸中国に取り込まれた重要人物に接触し何らかの取引をしたのではと思います。確度を高めるため、合衆国も含め電子データを再調査しますか?」


「なるほどな。了解した。あと、もう再調査の必要はないだろう。一条に渡したデータが何らかの引き金になったわけだ」


「データの件と戦略原潜の移動は時間的に前後しますから直接ではないでしょうが、先ほどのような形で事後的に利用された可能性は高いと思います」


「合衆国もなかなかのものだな。大陸中国側の潜水艦戦力は今回の衝突でかなりダウンしたのだろうが、そもそもの実力差がこれほどまであることを実感して、少しはおとなしくなるかな」


「あの国の拡張主義は政体上止められませんので、何とも言えません」


「そうだな、サメと一緒で泳ぐのを止めると窒息死してしまうからな。それで、今回の一件で、大陸中国の内部的にはどうなんだ?」


「大陸沿岸部の海軍閥の力は弱まると思いますが、党勢への影響は限定的と思われます」


「なにかしでかさなければいいがな。それともしでかさせて一気に叩き潰してしまうか?」


「艦長のお考えとしては少々過激ですね」


「まあな、他国へ干渉する気は今までなかったが、そのタガが外れてしまえば、それはそれで楽だしな」







[あとがき]

潜水艦戦は想像です。推進剤注入タイミングが不明のため先に注入し発射管へ装填したことにしました。

何となく潜水艦で魚雷を撃って見たくなったので、魚雷戦をして見ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る