第92話 台湾海峡


 また今日も大使館前でデモが起こっているそうだ。マスメディアは死に体しにたいの現政権をしきりに擁護ようごしているらしい。大使館前のデモについても否定的な伝え方をしているわけではない。



 これまで、地球の各国に対しては諜報活動を一切してこなかったが、こうもあからさまな排斥運動が起こるようでは、他国の関与が強く疑われる。


「アイン、大陸中国と民主朝鮮の政府内部の電子情報をあさって、日本の政界、メディア、そういったものへの工作がないか確認できないか?」


「可能です。資料をそろえ、昼過ぎにでも艦長にご報告できると思います」


「頼んだ。もう少し早く確認しておけばよかったな。もし、確たる証拠が出てきた場合、使い方が難しいが、何かの決め手にはなるな」


「単純にリークするだけでも面白いんじゃないですか?」


「それもそうだが、出所の説明もできないし、真偽のほどを第三者が確かめることのできない情報だから、そう簡単ではないと思うぞ。単純なスキャンダルのような物なら簡単だけどな」




 大使館内の食堂で昼食を済ませ、自席でくつろいでいるところを、アインがやって来て朝依頼した件について報告をしてくれた。


 結構な数の政治家に対して大陸中国、民主朝鮮から迂回献金などの方法で現金が流れていることが分かった。しかも現金だけでなくそれ相応の供応を受けているようだ。


 現政権内の役付きの政治家ではブラックでない政治家の数など数えるほどだった。問題なのは、こちらが取得した電子情報だけでは、ブラックな政治家は見つけることはできるが、クリーンな政治家であることの確証は得られないことだ。


 放送事業者について言えば、外国人の議決権比率など法律で規制されているため、あからさまに株を購入して会社を支配できないようで、各種ファンドを利用して実質的な議決権比率を上昇させ役・職員に大陸中国、民主朝鮮関係者を押し込んでいるようだった。その他のメディアに対しても、積極的に利益供与を行っているようだ。


 これは日本と大陸中国、民主朝鮮との問題で、アギラカナが口出しできる案件ではないが、この状態が続くようだと、移民計画そのものまで邪魔されかねない。





 合衆国海軍フォード級空母「アリス・ミラー」排水量十万トンを超える巨艦である。攻撃型原潜一隻と、戦闘艦三隻と補給艦からなる第13空母打撃群がそれまで展開していた中東方面より移動し台湾海峡に差し掛かった。通常はバシー海峡を通過するところをあえて選択した航路であり、その航路は、海峡中間線をわずかに・・・・台湾側に寄っている。海峡通過については台湾、大陸中国両国に通告を行っているが、台湾側のみ了承の回答を合衆国に対し行っており、大陸中国は強く非難の声明を出している。


 当初、台湾海峡を空母を含む艦隊が通過することは、必要以上に大陸中国を刺激するのではという国務省の意見もあったが、大統領の「その方が我々のメッセージが連中にはっきり伝わるだろう」という一声で、この台湾海峡を強行通過する航路が選択された。



 嘉手納基地より、早期警戒指揮管制機E-10B ビジランスが飛び立ち、警戒に当たっており、同基地のハンガーではF-15EX一個飛行隊十二機もいつでも飛び立てるよう待機している。ビジランスからの情報は第13空母打撃群でも共有リンクしており、こちらもいつでも対応可能な状態で、全通飛行甲板上二基、アングルドデッキ上二基、計四基の電磁カタパルト上に艦載戦闘機F-35Cが用意されている。



 大陸中国、広東省にある、汕頭外砂(せんとうがいさ)空軍基地、上海にある大場(だいじょう)空軍基地各基地から、戦闘機、殲-31と殲-31を攻撃機仕様とした殲-33が、各々十二機、六機、計三十六機が飛び立った。台湾海峡を通過中の合衆国空母打撃群を素通りさせた場合の国家の威信低下と、武力衝突などの偶発事故が発生する危険性をはかりにかけた場合の判断ではあった。大陸中国の場合、中華思想を持ち、国家内、周辺部に対し国家の威信を示し続けることは大きな意味を持つ。


 各飛行場から飛び立った大陸中国戦闘機群だが、早い段階で、E-10B ビジランスに捕捉されており、嘉手納基地および「アリス・ミラー」から、戦闘機が緊急発進している。


 大陸中国側の戦闘機群に殲-33攻撃機が認められた段階で、空母打撃群、嘉手納基地双方に緊張が走り、さらに各一個飛行隊各十二機の戦闘機が緊急発進していった。





 大陸中国、民主朝鮮の日本の政界および、マスメディアへの浸透について調査した約一週間後。


 アインが俺のところにやって来て報告してくれた。


「艦長、合衆国空母打撃艦隊が台湾海峡を強行通過し日本に向かう模様です」


「台湾海峡というのは、大陸と台湾の間の海峡だよな。普段はその外側のバシー海峡を通過して日本に向かうんだろ? そんなところを通過すると大陸中国を刺激しすぎるんじゃないか?」


「そのようです。すでに大陸中国では、攻撃機を含む戦闘機隊が発進した模様です。それをうけて空母側、および沖縄の合衆国基地から戦闘機が発進しました」


「両国で武力衝突が起こると思うか?」


「まず起こらないと思いますが、注意する必要があります」


「わかった、引き続き監視を続けてくれ」


「了解しました」





 懸念された偶発的武力衝突は起こらなかったようで、両国の航空機はいったんはかなり接近したもののその後距離をとり大事には至らなかった。


 一連の緊張の高まりの中、合衆国はこれまでのデフコンレベルを4から3に引き上げた。二千一年九月十一日の同時多発テロ以来である。


 これを受け、ワシントン州にあるキトサップ海軍基地より、待機中だったコロンビア級原子力潜水艦のネームシップ(リードシップ)である一番艦『コロンビア』が一六発の艦隊弾道ミサイル、トライデントⅡ(トライデントD5)を定数積み込み静かに出航した。警護として一隻の攻撃型原潜が同行している。




[あとがき]

E-10B ビジランス、は架空の早期警戒機です。

殲-33は架空の戦闘爆撃機です。

一応調べて書きましたが、フォード級空母と艦載機等については適当です。

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