第91話 第二層視察


 アギラカナは内部に無数の重力制御装置を持っており、バランスを取りながら調節することで必要な個所の重力の大きさと方向を調整している。


 すなわち、気層のあるシャフト内、テラフォーミング中の外周部やテラフォーミングが終了した外周部第一層や第二層、コア内にあるバイオノイドの居住区などはどのような状況においても1G相当の下方への加速度を得るよう調整している。


 また、テラフォーミング済み、およびテラフォーミングがかなり進んだ階層では、重力方向をややずらすことで、疑似的自転環境を作り出して、大気の循環や海流を作り出している。


 テラフォーミングが終わった外周部第一層や第二層の天候は、アギラカナの重力方向の調整での疑似的自転速度がゆるやかなため、大気の循環はおだやかで、気象の変化も同時におだやかである。また海流も非常にゆるやかである。


 日本からの移住者のために提供しようと考えているのは、この外周部第二層の中の南北に長いサツマイモのような形をした島である。このサツマイモ島に対し第三層底面の発光体の発光時間や発光強度などを調整し、日本の四季相当の気温の変動が起こるようにしている。


 俺はまだこの島をはっきりと見たことがなかったので、この機会に確認しておこうと思い、アギラカナに連絡してドローンを数機飛ばし、第二層のサツマイモ島を確認していくことにした。ドローンの操縦はマリアが俺の口頭指示に従って隣の机から遠隔で行う。


 サツマイモ島の面積は約五十万平方キロ。日本の本州の面積が二十二万八千平方キロというからその二倍ちょっとの面積がある。島の周辺には小さな島はあるが、近くに大陸などはない。


 島の中央部は南北に1000メーター級の山々が連なる緩やかな山地が走っており、島の東西を分けている。その山地から数本の川が東西に流れ出ている。高低差があまりないため川の流れもゆったりしたものである。中央の山地の他はほぼ平地のため、平地面積は、日本の約十万平方キロに対してその四倍相当の四十万平方キロはあることになる。


 江戸時代の日本の人口は三千万人前後で推移していたそうだ。要するに、十万平方キロもない土地を使い、人力に頼った生産力だけで養っていける人数が三千万人だったということだ。土地がその話の四倍もあれば、何らかの理由で文明が江戸時代程度まで後退したとしても、一億二千万人は食べていける勘定である。


 サツマイモ島の中央の山地から流れ出る河のうち、島の中央辺りから東の海に流れ出る河、中河なかがわの下流域に十キロ四方の土地を今回の移民用に整地した。すでに道路、上水道、下水道、電気、ガス網が敷かれ、それら用の発電所、浄水場、下水処理場、ガスタンクなどのインフラの準備が終わった段階である。この十キロ四方を一単位として小都市を建設するつもりだ。もちろん当面の消費材は、アギラカナの専用工場から運んでくることになる。


 現在、日本に生息する草本を主体とした植物をクローン移植し徐々に木本も増やしているところだ。また昆虫などを島に放して繁殖させてもいる。まだまだ、安定はしていないのだろうが、もう数年もすれば、小動物を島に放てる程度には落ち着くものと思う。少なくとも、サツマイモ島については、問題はなさそうだ。






 そのころ、合衆国、大統領官邸ウエストウイング、国家安全保障会議室。


 ……


「それでは、国家安全保障会議NSCを始めようか。国家情報長官からアギラカナについて定例の報告を頼む」


「はい、ミスター・プレジデント。

 アギラカナの広報サイトの最新更新版によりますと来年三月いっぱいで、日本から移民を二十万人程度募集するとありましたが、この数字は今後増える可能性が有るとのことです。そのサイトでは、謎の天体アギラカナの内部映像が数十点掲載されていましたが、分析の結果いずれも本物、実写であるとのことです。映像を分析した結果、アギラカナは人工太陽下にある惑星であると専門家は結論付けました」


「人が住んでいるんだから惑星なんだろうが、人工太陽というのが意味が分からないな」


「天球自体が発光体で出来ているとのことです」


「天球が発光体なのか? まるで地底世界だな。まあ、それでわれわれが、どうなるわけでもないからいいか。アギラカナがにわかに移民を募集し始めた件について何か情報は得られたかね?」


「最近大陸中国が積極的に日本の一部の政界、メディアを使いアギラカナの排斥運動を行っていることは、ミスター・プレジデントに先日のこの会議で述べた通りですが、どうも、アギラカナは、ある程度の日本人を引き連れ、日本、いえ地球から撤退するのではないかとある専門家は申していました」


「ほう、面白い分析だな。それだと、まさに大陸中国の思惑通りになるわけか」


「アギラカナが去った後の世界秩序の再構築に向けてわが国も準備しておく必要があるかもしれません」


「具体的には?」


「アギラカナの片務的防衛義務が消滅した場合、これまで、太平洋への出口を長年塞がれていた大陸中国の暴発の可能性が高まります。

 対抗するためには日本の防衛力を強化しておく必要があります。残念なことにわが国のエージェントは日本政界、メディアへの浸透度が大陸中国に比べ大きく劣っていますので、そちらの方面からのアプローチは厳しいと思います。ですので、第7艦隊の増強を提案します、いまは幾分安定している中東方面より、空母を回航し、第7艦隊に編入しましょう」


「直接的軍事力か。コストがかかるな。しかし、日本の築いた東南アジア円経済圏を大陸中国に奪われるわけにはいかんからな。許可しよう。国防長官、そのように。国務長官は関係国との調整を」


「了解しました」「はい、ミスター・プレジデント」


「こう考えると、沖縄を日本に返還したのが痛かったな。民主党政権下で話をほとんど進めていたため次の共和党政権では取り消せなかったそうだよ。大陸中国がいまのように図に乗っているのも、民主党政権が大陸中国を甘やかした結果だからな。あの連中はその場しのぎでしかものを考えられん連中だ。

 愚痴を言っても今さら仕方がない。諸君、われわれのステーツのためにできることをやっていこう」


「はい、ミスター・プレジデント」



[あとがき]

国家安全保障会議については、いつものように適当です。

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