第81話 歓迎会1


 俺とマリア、そしていつものアマンダ中将以下将官四名で、艦長公邸前から専用シャトルに乗り込み、第1宇宙港、第1桟橋に到着した。


 第1桟橋は、アギラカナ艦長専用艦専用という建前の桟橋で、フーリンカ喪失後、艦長専用艦がクレインとなった後はクレインのみ着岸が許可されている。



 桟橋前でシャトルから降りると、ちょうどクレインが着岸したところだった。


 すぐにクレインの人荷用シャフトのハッチが開き、そこからクレインの艦長に先導された一条と法蔵院麗華嬢が現れた。ハッチ前の桟橋上には、陸戦隊員たちが左右に整列しており、その中を三人が進んで、俺たちが並んでいる桟橋中ほどまで歩いてきた。


「要人移送任務完了しました」


 そう言って敬礼するクレインの艦長に対し、


「ご苦労さま」


 と一言ひとことねぎらって答礼したところ、クレインの艦長は一条たちを残しきびすを返して自艦に戻って行った。



「先輩、いったいこれは何のマネなんですか? びっくりさせられっぱなしです」


「まあいいじゃないか。いい経験になったろう?」


「もう、先輩ったら。だけど、ほんとに先輩、偉い人だったんですね。わたし、宇宙船に乗るまで先輩のこと、アギラカナの代表って言ってるだけで、ただの出先の代表、いわば支店長くらいだと思ってました」


 これには、苦笑いしかない。一条を含め地球の連中のほとんどはそう思っているのだろう。実感がなかったのは俺のせいでもある。大使館でいつもコーヒーを飲んでぼーとしていた俺を見てれば仕方ない。


「山田代表、私までお招きにあずかり恐縮です」


「法蔵院さんも、硬くならずに気楽に話しかけてもらって大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


「私の後ろにひかえている連中はアギラカナの主要メンバーだけど、紹介は食事時しょくじどきでいいとして、それじゃあシャトルに乗って艦長室に案内しよう」



 シャトル乗り場までぞろぞろと歩いていき、停まっているシャトルにみんなで乗り込んで、艦長公室に向かった。


 われわれアギラカナ側の者は、シャトル内でも落ち着いて座席に座っているのだが、一条だけは落ち着かないようで、きょろきょろと周りを見回している。窓がないのだから何も変わったものなどないだろうに。この調子だと、迎えにやったクレインの中でも相当周りに迷惑をかけたのではないかと心配になる。


「今乗っているシャトルはさっきの桟橋から行き先の俺の執務室のあるところまで150キロを三分で走るそうだ。時速にすると3000キロだからマッハ2.5くらいかな。最高速度はその数倍出てるそうだからすごいだろ?」


「それですとジェット戦闘機以上の速度なのですね」


 法蔵院さんの方は、一条と違い落ち着いている。


「私も聞いた話なので詳しくはないけど、このシャトルは真空に近いチューブの中を走っているそうです。そのおかげで音速を超えてもいいみたいですよ」



 そんな話をしているうちに、シャトルは艦長公室前に到着した。


 シャトルを降りて、少し歩き艦長公室の中の作戦会議室の中に案内した。同行していた将官連中は解散しており、食事会まで各自の任務に戻って行った。


 一般人を作戦会議室に招き入れると言うことは地球では考えられないことかもしれないが、何も隠す必要もないし、何らかの技術が漏洩ろうえいしたとしてもそれを模倣する基礎技術が地球にはないので気を回す必要はないと考えている。


 作戦会議室の中の席についているのは、俺とマリア、招待客二名だけである。


「それじゃあ、せっかくだから、アギラカナの簡単な歴史と概要だけ説明しておこう。マリア頼む」


「はい、艦長」


「それでは、アギラカナの建造された経緯からご説明します」


 マリアによって語られた、ゼノによるアーセンの滅亡とその中で建造されたアギラカナの脱出行と試練。その後の浮遊惑星の発見とその核と入れ替わる形でアギラカナの原型を形成し、現在まで営々と宇宙船化を進めてきた歴史が語られた。


「そして近年、アギラカナの周辺を探査した結果、太陽系第3惑星、地球にアーセン型種族を発見し接触を図りました。その中で、今の艦長をスカウトし現在に至っています」


「いまから半年ほど前になりますが、十二年の歳月をかけて問題のゼノの母星にたどり着いたわれわれは、若干の被害をこうむりましたが、その母星の破壊に成功しています。ゼノそのものの根絶には至っていませんが、今後数百年後にはゼノはその姿を消すものと見積もられています。


 活動中のゼノに対しては、太陽系を中心に探査システムを構築しているため、ゼノ襲来の数十年前に探知することが可能になっています。通常の規模のゼノの集団ですと撃破可能です。撃破不能と判断した場合は、地球からの疎開が必要ですが、その場合でも時間的余裕は十分あると思います」


「あのう、疎開ということは、どこかよその惑星へ行くってことですよね? 地球人七十億以上が移り住めるようなところがあるんですか?」


「第一候補はここアギラカナになりますが、時間は十分ありますので移住可能な他の惑星を探すことも可能です。艦長、疎開についてはそれでよろしいですか?」


「そこらへんはまだ十分詰めてないんだ。まあ、何とでもなるだろ」


「それでは、アギラカナの構造ですが……」


 十層からなるアギラカナの外周部の説明で、またまた、一条が驚いていた。今度は法蔵院さんも驚いたようだ。


 一応の説明が終わったところで、一条が、


「今回のわたしたちの訪問は記録に撮ってるんですよね?」


「ああ、ちゃんと撮っている」


「わたしや麗華ちゃんも映ってるんですか?」


「それはそうだろう? 何か問題でもあるのか?」


「センパーイ。わたしと麗華ちゃんは地球ではミステリアスレディースで通ってるんですから、むやみに映像には出てはいけないんです。断固、そこら辺の編集を要求します」


「わかった、わかった。そこらはなんとでもなるだろ、なあ、マリア」


「ご希望に沿った編集が可能です」


「だ、そうだ」


「ちゃんと要求しておいてよかったー」

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