第80話 観艦式
アギラカナが超空間から太陽系より2光年先の恒星間空間にジャンプアウトした当日のこと。
一条をアギラカナに招待するには、地球へ便を出す必要があるので、いまや一条の盟友とも呼べる法蔵院麗華女史も招待することにした。
二人を招待するにあたり、アギラカナの見どころはどこかと考えてみたのだが、俺の私邸で風呂に入って宴会をするくらいしか思い浮かばなかった。川に出てボートを漕いで魚釣りをしたところで、日本のどこかの川でボートを漕ぐのとなんら差はないのでそこまで面白くはないだろう。日程は二泊三日だ。さてどうしたものか? いい知恵がないかマリアに聞いてみた。
「マリア、一条たちをせっかく招待するのに、見どころがあまり思い浮かばないんだが、どうしたものかな?」
「艦長、それでしたら観艦式でも行いませんか?」
「観艦式か。面白そうだが、たかだか数名の出迎えに大げさじゃないか? それに、いきなりそんなことが出来るのか?」
「大げさかもしれませんが訓練と思えば全く問題は有りません。航宙軍であれ陸戦隊であれ、いわゆる『常在戦場』ですから、いついかなる時でも艦長の指示・命令に従う準備は出来ています」
「そうか、訓練と言えば訓練になるか。それならそれでいってみよう。艦隊一つ丸ごと出せば相当迫力があるだろう?」
「艦長、それですと、観艦式に出られない艦隊が出てしまいます。第1から第4まで全艦隊、出せる艦は全て出しましょう。私の方で観艦式の手配を行いますので、艦長、許可をお願いします」
こうして、マリア監修のもと、一条たちを歓迎するため観艦式が執り行われることになった。
それから数日が過ぎ、今日は、アギラカナに一条たちがやってくる日だ。
迎えには、俺の専用艦、LC-0002-クレインを旗艦とする第1雷撃戦隊を地球にやっている。
クレインから連絡艇を東京にある在日アギラカナ大使館の屋上に着陸させ、連絡艇からクレインに移乗してもらうことになる。
いまでは太陽系周遊客船も数隻就航しているため、太陽系内の航行は珍しくはないだろうが、一条たちは俺以外の地球人で初めてハイパーレーンゲートを通過することになるわけだ。
そうか。俺は地球人で初めてハイパーレーンゲートを通過した地球人だし、超空間航行も経験した唯一の地球人だ。これはどっかに申請すると、何かに登録されるのだろうか? それは、どうでもいいか。
俺が、十数年前に最初にゲートに突入した時は緊張したが、感動もしたものだ。しかし、やはり一番の圧巻はこのアギラカナを至近で見た時だろう。
そういうことで、訓練も兼ねた観艦式が開始された。
俺は現在、
俺が敬礼するくらいで士気が上がるなら何度でも敬礼くらいする。なんの取り柄もない俺にみんながついて来てくれることをありがたく思い敬礼したわけだ。
今日は、いつものアマンダ航宙軍中将だけでなく、左右に各部門のトップが居並んで、俺の敬礼に合わせてスクリーンに向け一斉に敬礼した。中央指令室に配置された要員たちも一斉に敬礼をする。一糸乱れぬ敬礼は、見ている分にはかなり気持ちの良いものだと思う。どこの軍国主義国家だと難癖をつけるようなやからはこのアギラカナにいないことは幸いなことだ。
今日の観艦式はいろいろな角度から映像を記録している。これを編集して後日地球でネット配信する予定なので、ある程度の演出はやむを得ないと割り切って、マリアの考えた式次第に
木星近傍に設置したハイパーレーンゲートと対になったアギラカナ側のハイパーレーンゲートの前に、艦隊が整列した。
しばらくすると、ハイパーレーンゲートから、底辺90メートル全長270メートルの細長い四角錐型船殻艦のP2級駆逐艦を先頭に第1雷撃戦隊の各艦が次々とゲートアウトし、第1戦隊旗艦の、直径720メートルの球型船殻艦の軽巡洋艦クレインが最期にゲートアウトしてきた。
航宙軍全四艦隊を四角形の断面を持つ筒を作るよう四列に並べ、その真ん中をクレインがアギラカナに向けて進む演出なのだが、思った通り大げさなことになってしまった。マリアの思惑通り良い絵は撮れているものと思う。
筒のゲート側の先端からまず、全長6キロの六角柱形底面の一辺の長さ600メートルのH5級船殻を有する正規母艦が四隻ずつ四列に並ぶ、H5級は現在アギラカナで建造できる最大のH級船殻である。東京上空100キロに浮かぶ、地球におけるアギラカナの武力の象徴であるH3級強襲揚陸艦の実に体積で4.5倍を超えるH級の宇宙艦である。直径720メートルの軽巡クラインが小型艦に見える。
正規母艦の後に続くのが、打撃戦隊の重巡洋艦。一艦隊六隻の定員だが、先のゼノ母星破壊作戦での喪失艦の補充が未達であるため、欠員もまだある。そして、雷撃戦隊、一艦隊当たり九個雷撃戦隊、一雷撃戦隊当たり軽巡一隻、駆逐艦六隻からなる。
各艦隊ごとに一列となった艦船が、ゲートに向かって進み、ゲート手前100キロ地点で外側に百八十度回頭し、筒の中心を進むクレインに追随するよう航行する。
事前練習なしの一発勝負での一糸乱れぬ操艦を眺めていたら、
「閣下、今回の観艦式での操艦は、各艦の艦長による直接操艦で行っています。わたしが言うのもなんですが、かなり高い錬度だと思います」
アマンダ中将の言葉にさらに驚かされた。
さて、そろそろ第1桟橋まで一条たちを迎えに行ってやるか。
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