第71話 事後処理
アルゼ帝国の辺境星界がゼノの侵攻を受けアルゼ人の居住する惑星が壊滅した。
アギラカナとしては、300光年も離れたアルゼ帝国がゼノによって被害を受けようと直接的な脅威を受けることはないため、今回のゼノに対して無視しても問題はないのだろう。しかし、一匹でも多く残存するゼノを
まずは、こちらに残った仕事を片付けて、ゼノへの対応を進めていこう。
アルゼ艦隊が地球に向けて放った降伏勧告の電波通信に対し、電波障害を起こさず妨害するには時間が足りなかったようで、地球上の各地でその電波通信が受信された。アルゼ艦隊から見て地球の裏側にはその電波は直接は届かなかったがネットワークを通じ一気に情報は拡散し、ほぼ遅滞なく主要国政府にこの通信が届けられた。
各国政府は、いきなりの宇宙からの降伏勧告を受け、一斉に日本国政府に対しこの通信の真偽をアギラカナに確認してもらいたいという依頼を行った。日本政府は、そういった意味でアギラカナの窓口になっているため、そのままの形で、各国からの依頼内容がアギラカナ大使館にもたらされた。つまり俺のところに来たわけだ。
これを受け、日本政府が各国に対し個別に対応するのは面倒だろうと思い、WEB上の動画サイトに以下の声明と動画を配信し事態の鎮静化を図ることにした。
「太陽系より、およそ300光年先に大アルゼ帝国と自称する星間国家が存在しており、その大アルゼ帝国が太陽系に派遣した艦隊が地球の各国政府に対し降伏勧告を行ったことは事実です。
これに対し、宇宙船国家アギラカナは、大アルゼ帝国の派遣艦隊に対し太陽系からの速やかな退去を指示しました。
この指示が拒否されたため、アギラカナ宇宙軍の艦隊により、大アルゼ帝国の派遣艦隊を包囲し戦闘を行うことなく全艦を接収しました。すでにアギラカナへの収容も完了しています。従いまして、各国に対し大アルゼ帝国の発した降伏勧告は、実質無効となっています。今後、大アルゼ帝国が今回と同じように艦隊を太陽系に派遣した場合も同様の対応を我が国が行います」
陸戦隊がアルゼ派遣艦隊を接収した時撮影されたアルゼ艦が映し出された。
「この複雑な形状をした宇宙船が、アルゼ艦です。そして、こちらが今回アギラカナが派遣した艦隊の旗艦です」
今度は、直径1800メートルの特S5級重巡洋艦HL-0001-インスパイアが画面に映し出された。接収部隊が搭乗する豆粒のような連絡艇がインスパイアから発進した情景を他の艦からとらえたものである。そこから、発進した連絡艇が大写しとなりインスパイアの巨大さが強調された。
「これまで、宇宙船国家アギラカナについて、具体的な発表を行っていませんでしたが、現在アギラカナは、天王星の公転軌道上、地球より約20天文単位の位置で太陽の周りを公転しています」
太陽からの距離が遠いためうっすらと半月状に見えるアギラカナだが、ところどころ発光しているため全体の球型の形状はなんとなく見て取れる。
アルゼ艦隊の接収を終え、アギラカナに帰投する艦隊からの映像である。
「これが、直径14000キロ、惑星型宇宙艦アギラカナです」
宇宙空間で背景をふさぐ黒い天体が徐々に大きくなり、はっきりとした形が映し出された。艦がアギラカナに接近するにつれ、内部の宇宙港に繋がる開口部が徐々に拡大していき、アギラカナ内の宇宙港に通じる明るい光で照らされたシャフト内部が映し出されたところで、動画の配信は終わった。
この動画に各国政府、特に日本と疎遠な国は
俺の隣の席で机の上のモニターを通じ今の動画を見ていた一条が目を丸くして、こちらを見ている。そういえばこいつには詳しい説明をしていなかった。
「先輩、アギラカナは大きな宇宙船だとは聞いていましたが、あれは星ですよね?」
「地球の直径が12000キロだから、それより大きい。星と言ってもいいが、アギラカナは宇宙船だ。留守にしている間、あれに乗って、12000光年を往復してきたんだ。内部に地球並みの広さを持つ地表が10層ある。今は2層だけしか人は住めないがな」
「???」
「まあ、お前の予想以上だったみたいだな。中には俺の家も建ってるぞ。今のところ建ってる家は俺の家だけな」
「食べ物なんかはどうなってるんですか?」
「たいていの日本食の食材は、アギラカナで作れる。そういえば、今じゃあ、日本酒もいろいろアギラカナで作ってるぞ。アギラカナで作った酒を日本酒と言っていいのかは分からないがな」
「先輩ズルい」
「そのうち、お前の暇なときにでも連れて行ってやるよ」
「絶対ですよ」
予想通り、動画配信前に民主朝鮮は自国のみでアルゼ帝国に単独降伏をするか動揺したようだが、なんとか思いとどまったようだ。もしもいち早く単独降伏していたら、民主朝鮮はアギラカナから見てどういう位置づけになったのだろう? アギラカナに降伏した艦隊に降伏した国? いずれにせよ、地球上の各国からそれ相応の評価を受けただろう。
投降したアルゼ艦隊の司令官以下全乗組員には、収容した宇宙港付近に宿舎を用意している。宿舎も、アルゼ帝国の首都惑星アーゼーンに送り込んでいる探査機からの情報をもとに用意したので、不自由ではないだろう。収容時に行った検疫も問題なかったようで、食料等もこちらで用意できるもので問題はないようだ。
アルゼ帝国側がこのアギラカナに投降した派遣艦隊の面々を受け入れてくれるなら、すぐにでもお帰り願いたいところではあるが、艦隊の面々も簡単に投降してしまった以上帰りにくいという気持ちも察することが出来る。
今後のことについてアギラカナの主要メンバーと協議した上、アルゼ帝国の派遣艦隊の司令官と早急に会談するため、マリアを伴い地球周回中の軽巡洋艦クラインに乗り込みアギラカナに帰還することにした。
俺とマリアは十時間ほどかけ、アギラカナにある俺の執務室に到着した。
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