第70話 アルゼ辺境、壊滅
アルゼ帝国の中心ハミラピラトラ星系より30光年ほど離れた大アルゼ帝国で最も辺境に位置するミトカナ星系。その中心に輝くミトカナは太陽よりやや小さく、黄色味を帯びたK型恒星でその周りを岩石型惑星がただ一つ公転している。
ミトカナ星系唯一の惑星シノー。
第一次開拓団二十万人が入植して五年、インフラ整備がほぼ完了し、第二次開拓団の受け入れ準備も滞りなく完了している。あとは彼らの到着を待つばかりの状態にまで開拓作業は進んでいる。
第一次開拓団はインフラ産業従事者が中心だったが、第二次開拓団は一次産業従事者が中心となっている。彼らにより一次産業が軌道に乗れば惑星シノーは独り立ちできる。
開拓基地のある場所は将来的には惑星首都となる予定で、惑星シノー最大の大陸の中央にある大淡水湖のほとりに位置し、そこからくもの巣状に基幹交通網が建設される予定である。
開拓基地内の星系観測所。
この観測所は開拓第一陣を運んだ大型宇宙船に搭載されていた観測装置を設置しただけの簡易的な観測所である。開拓団を運んだ大型宇宙船はすでに地上で解体され様々な資源として利用されている。
「距離1AUに多数の高速移動体を観測しました。速度は0.15光速。シノーへの直撃コースを取って向かっています。1AUの距離を光学観測するのに八分の時間差がありますから衝突まで四十七分」
夜勤で交代したばかりの観測員が、すでに退勤した上司に非常事態を報告する。上司も事態の重大さ故、さらに上の上司に報告する。……
そして、四十七分が経過した。
今日のインフラ建設の作業を終え、使用した作業機械の整備も完了し、仮住居としているバラックへの道すがら、星の
最初、夜空の異変を見つけたのは数人だったが、今では通りに出て空を眺める者、宿舎の窓から東の空を眺める者と、夜空の異変に気付いた者が増えはじめた。
突然、東の地平線の彼方から真っ白い閃光が広がり、夜空の星がその光の中に隠れた。何か大変なことが起こったのは分かるが何が出来る訳でもない。
そして破局が突然訪れる。
大気を伝わる衝撃波よりも先に地殻を伝播した圧縮波により地面が浮き上がり、その上の人や物を区別なく吹き飛ばしていった。
そして閃光が全てを飲み込んだ。
俺の執務机の上のモニターに今映し出されている映像は、アルゼ帝国の一星系に送り込んだ観測機からさきほど送られてきたものだ。アルゼ帝国にとって辺境の星系での出来事が映し出されている。
ゼノの最初の衝突により、衝突個所周辺の大気が閃光とともに宇宙空間に吹き飛び、発生した衝撃波が超音速で惑星表面を伝わった。それと同時に、地殻津波が発生し、水たまりに小石を投げ入れてできた
そして、雨が降るようにゼノが閃光とともに惑星に降りしきり一つ一つの波紋がぶつかり合いさらに惑星表面が激しく波打つ。
観測されたゼノの総数は約五万。その全てが惑星シノーに降り注ぎ、惑星は赤く輝く球体となった。惑星の周囲には飛び散った地殻の破片がリングを作っており、蒸発した海水や吹き飛んだ大気が薄く宇宙空間に流れ出ている。
詳しいことはわからないが、これまでの探査機の観測結果から、惑星シノーには二十万人程度のアルゼ人が活動していたという。ほとんどの者が自分の死を悟ることなく
今回の五万のゼノはその質量分布から推定すると、後二回、多くて四回繁殖行動をとると自然消滅するほど消耗していたということだ。太陽系からも300光年以上離れた星系での出来事であり、このゼノが太陽系にとって直接的な脅威になることはないと断言できるが、この星系の近傍にアルゼ帝国を構成する比較的人口の多い星系が存在していることが分かっている。
さすがに無視はできまい。それも含めて、降伏したアルゼ艦隊の司令官とこれからのことについて話し合う必要がある。
アルゼ帝国首都惑星アーゼーンで情報を収集しているこちらの探査機で得たアルゼの内部情報によると、彼らがミトカナ星系と呼ぶこの星系の他にも数年前にこの星系に隣接する星系で、内惑星が全てゼノにより破壊され、開拓、植民中の惑星が壊滅していた。距離と移動速度からいってこのミトカナ星界を襲ったゼノの小集団とは異なる集団だと思われる。その集団は、現在、星間空間を次の星系に向け移動を続けているはずだ。
前回の開拓惑星壊滅について、アルゼ帝国ではかん口令を敷いていたらしい。気持ちも分かる。アルゼ帝国では、ゼノに対して有効な手段を持っていないのだ。公表したところで社会の混乱を生むばかりだとは思うが、犠牲になった人のことを思えばそれでよかったのか、とも思う。
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