第69話 帝国探査省2


 私は帝国探査省探査局の局長を務めるヴァスカだ。


 数年前、惑星開発を進めていたある星系に関しての一切の情報が扱いとなり、探査省内の担当部署の担当者も異動となった。その時期を境に探査省は予算を潤沢に与えられるようになり、アーゼーン型惑星の探査を進めるよう帝国枢密院より指示を受けている。


 帝国枢密院というのは形式上は皇帝の単なる諮問機関であるが、帝国の重鎮がそのメンバーとなり皇帝を補佐している。皇帝及び帝国枢密院の意思を実行していくのが政府の務めであり、その政府を構成する省庁の一つが探査省である。


 かねてよりの光学観測でおよそ300光年先のG型恒星をめぐる惑星の一つがアーゼーン型惑星であることが判明しており、新たに開発されたジャンプドライブを搭載した最新型の惑星探査艦をその星系に送り込むことに成功した。


 帝国枢密院の強い要請に応じる形で行われたこの最新惑星探査艦派遣だったのだが、残念なことにその惑星探査艦は星系探査の初期に失われてしまった。しかし、G013星系と名付けられたその星系の唯一のアーゼーン型惑星に知的生命体の存在を確認することが出来た。当然さらなる調査が必要と探査省では判断したが、皇帝の一存によりG013星系に対し宇宙軍から艦隊が派遣されることになった。


 無事、派遣艦隊はG013星系にジャンプアウトし、星系内の観測データを宇宙軍および探査省に送ってよこしていたのだが、派遣艦隊がどうやら、前回の探査宇宙船で見落としていた惑星を見つけたようだ。その新たに発見された惑星なのだが表面が分析不能の未知の金属で覆われているという。


 大方なにかの加減で鏡面化した表面を分析してしまったのだろうと当初は思っていたが、どうもそうではないらしい。


 単一原子と見なせる超高密度素材の可能性が有ると担当者が騒ぎ出した。自然界に存在するとは思えない物質で惑星表面が覆われているというのだ。


 その後しばらくして、派遣艦隊からの情報が遮断されたかの如く探査省に入らなくなった。宇宙軍に問い合わせてみたが、要領を得ない返答を得るにとどまった。


 さらに宇宙軍が旗下の艦隊に対し、アーゼーンへの集結指示を出しているという噂や陸軍に対し待機指示が出されたという噂がどこからともなく流れてきた。ロアール長官にも、詳しい情報は入っていないようだが、いったいどうなっているのか。派遣艦隊からの情報が探査省に入らなくなったことと、軍の動きは関連が有るのだろうか?


 まもなく閣議から長官が戻ってくるはずだ。なにか情報なり事態の進展があるかもしれない。



『ヴァスカ君、長官室まで来てくれるかね』


 あれこれ考えていたところ、長官よりの呼び出しの連絡が入った。


「了解しました。すぐに伺います」





「ヴァスカ君、大変なことになった。艦隊をG013星系に派遣する前に冗談でいっていたことが現実になってしまった」


「長官、それはどういうことですか?」


「派遣艦隊がアギラカナと名乗る星間国家に降伏した。派遣艦隊は一戦も交えずアギラカナに降伏している。おそらくアギラカナは進化レベルでいうとレベル5だ。

 現在、宇宙軍で状況の分析を進めているが、アギラカナの戦力は圧倒的らしい。派遣艦隊は気付かぬうちに大艦隊に包囲され、アルゼ語で降伏勧告を受けたそうだ。アルゼ語でだぞ! しかも、派遣艦隊がG013星系で新たに発見した惑星は実はそのアギラカナの母星だったようだ。見るかね、これが派遣艦隊を取り囲んだアギラカナの宇宙船で最も大きい船だ」


 長官がわたしに見るように言ったプリントアウトには、球形の宇宙船?がプリントされていた。


「そいつの直径は1800メートルあるそうだ。こっちが、連中の一番小さい船だ。それでも、わが方の重巡並みの大きさだ」


 こちらは、四角錐型の宇宙船がプリントされている。


「閣議では、派遣艦隊が一戦もせずに降伏したことについて艦隊司令官のマルコ提督を批判する者もいたが、わしからすればさすがはマルコ提督だと感心したほどだ。無駄な死人がでなくて済んだのだ。一戦でも交えていたら先方も後には引けんだろう。他人の領分に土足で踏み込んだあげく暴れたとなると先方も容赦はすまい。最悪帝国が無くなる。

 派遣艦隊からは降伏以降なにも連絡は入っていないが、帝国は臨戦態勢、いや、防御態勢に入った。余剰生産力はすべてそちらに振り向けられる。このことは、まだ一般民衆には秘密だ。君もくれぐれも気を付けてくれたまえ」




[補足説明]

秘密情報:情報の存在すら秘匿される国家レベルで重大な情報

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