第68話 逆降伏勧告


「艦長、アルゼ艦隊に対しアルゼ本国より通達があったようです。傍受し翻訳した内容は『皇帝より、惑星環境を破壊しない範囲で速やかに地球を制圧せよ』。です」


 マリアが、アギラカナ・コアと連絡を取りあっているようだ。


 先方も、こう簡単に我々が通信を傍受しているとは思っていないと思うが、これでは武器の優劣以前に戦争など出来まい。


『閣下、アルゼ艦隊が地球に対し電波通信を行い、さらに地球方向に向け移動を開始しました』


 執務室で待ち構えたいた俺の席にアルゼ艦隊を包囲している対応艦隊旗艦ブレイザーの艦長から直接超空間通信が入った。


「どういった通信内容ですか?」


『地球の主だった政府に対し、最後通告を行いました。その中で七十二時間以内の降伏を勧告しており、これに応じない場合は自由の行動をとると言っています。さらに通告では、二十四時間後に月に対し示威攻撃するとのことです。この電波通信が地球に到着するのは二時間四十五分後です』


「こちらとの通信はこのままで、対応艦隊全艦のステルス機能の解除をわたしが指示するタイミングで行ってください」


『了解しました』



 共通の敵を前にして人類が一致団結するようなストーリーがどこかにあったような気がするが、どんなものだろう。これから十年もしないうちに第二次世界大戦が終わって百年だ。いまだにUnited Nations(連合国)と名乗っているばかばかしい組織も健在だ。一度、こういった状況下で国連が機能するのか確かめたい気持ちもあるが、どのみち機能しないだろうし、それでなくとも地を這っているような権威が地下まで潜り込んでしまいそうだ。


 各国政府がパニックになってもらっても困るし、最悪アギラカナの狂言ともとられかねない。可能性としては低いが、アギラカナの対抗勢力としてアルゼ帝国を利用しようといち早く降伏してこびを売る国も出るかも知れない。


 取り敢えず、アルゼ帝国の地球に向けた電波通信は阻止できるものなら阻止するとしよう。


「マリア、聞いていたと思うが、アルゼ帝国の地球に向けた電波通信を可能ならば妨害してくれるか」


「ややタイミング的に厳しいものがあります。地球上の受信装置に障害を起こさず対応するには時間が足りないかもしれません。可能な限り対応してみます」


 どういった方法で電波を阻害するのかはわからないが、使えるものは、上空のブレイザーくらいだから、それで何とかなればいいが。


 間に合わないのなら、こちらからも、各国政府に対しなにがしかの通達が必要だろう。これを機会にアギラカナ本体についても、そろそろ地球にお披露目してもいいかもしれないな。この一件が何とかとうげを越えたら、日本政府を通じ、各国政府に対しアギラカナを紹介するか。


 アインの話によると、各国政府は地球大の謎の天体が天王星軌道付近で新たに観測されたのにも関わらず、アギラカナ大使館の無反応ぶりから、アギラカナに関連した天体であろうとの予測をしていたところ、天体表面のスペクトル分析から東京上空のブレイザーと同じ謎の金属で覆われていることが判明したため確信を持ったようだ。


 我々の名称、『宇宙船国家アギラカナ』から、あの天体こそがアギラカナ本体であるとSNSで発信する一般人も現れ始めたようだ。



 それはともかく、アルゼ艦隊の出方はとりあえず分かった。そろそろ、こちらから動くとして、先方は強硬路線で来たのだから、こちらもそれなりに対応しよう。


「それじゃあ、今度はアルゼ艦隊につないでくれ」


「了解しました。アルゼ艦隊に通信つなげます。同時通訳設定しました」


「ありがとう」



 それじゃあ、いきますか。


「こちらは、当星系の第7惑星の公転軌道上の惑星型宇宙船アギラカナ。アルゼ帝国から派遣された艦隊に通告します。

 あなた方の行っているのは、明らかな侵略行為です。速やかにこの星系より退去してください。地球、およびその衛星に対し攻撃を行う場合には、我々アギラカナが貴艦隊および貴国に対し実力を行使します」


 机の上のスクリーンに付随したスピーカーから中性的な声が響いてきた。


『我々は退去しない』


「速やかに退去しない場合は、実力を行使します。現在我々の艦隊が、貴艦隊を包囲しています。お見せしましょう」


 俺はスクリーン上のブレイザーの艦長に向かって頷いて見せる。


「いかがですか? 我々の艦隊が、取り囲んでいることがお分かりになりましたか?

 我々の艦隊は皆さんを即座に消滅させることも可能ですし、部隊を送り込んで全艦を拿捕することも可能です」


『……』


「それでは、これが、最後の通告です。速やかにこの星系より退去してください」


『……我々は退去できない。……降伏する……』


「わかりました。あなた方の扱いについては、十分配慮しますのでご心配には及びません。それでは艦隊の移動を停止し、こちらの艦隊からの指示に従ってください」


 あとは、ブレイザーの艦長がうまくやってくれるだろう。


 先方の司令官が話の分かる人物で助かった。




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