第67話 降伏勧告


 大アルゼ帝国、G013星系先遣部隊、司令官マルコ提督が座乗する旗艦メトレシーの中央指揮室。


「提督、先ほど本艦より不明惑星に向け射出した探査機が二機とも消失したもようです」


「消失?」


「本艦の探知機が探査機二機を同時に見失いました。探査機からの信号も途絶しています。探査機の故障ではなく物理的に消失したものと思われます」


「了解した」



 マルコ提督は、司令官席で目を閉じる。


 6AU先に表面が金属に覆われている正体不明の惑星。いや、未知の天体か。しかも、その表面を覆う金属がなんであるか我々には現時点でも解析できていない。そして、そちらに向けて放った二機の探査機の同時に消失。


 確かに第3惑星を地球、自らを地球人と呼ぶこの星系の第3惑星の先住知性体は宇宙進出を始めたばかり、進化レベルでいうとレベル2程度であることは確認できている。しかし、この星系の中に地球人だけが棲息すると決めつけていいのか? そういえば、消息を絶った探査省の惑星探査艦も事故で失われたのではなかったのかもしれない。いまさらだが、一次探査も出来ていない星系へ艦隊を飛び込ませてしまったことが悔やまれる。


 もしもこの未知の天体に進化レベル5、我々では手も足も出ないような高度な知的生命体がいたら、彼らの星系に土足で踏み込んでしまったこの艦隊だけでなく、帝国の危機にもなり得る。ここで対応を誤るわけにはいかない。


 この謎の天体にむかもしれない生命体が、進化レベル5と仮定すると、当然地球のことは知っているはずだし、地球の言語は理解できるだろう。

 地球上には多数の言語が存在したため言語解析に手間取ったようだが、主要言語に対しては翻訳可能なレベルまで解析は進んでおり、最もデータ量の多い言語についてはすでに同時通訳可能だそうだ。


 先方が進化レベル5であるならば我々は既に探知されているのだろうから、地球の主要言語を使って、先方に呼びかけてみるのも手かもしれない。先方の超空間通信のプロトコルは不明だが、進化レベル5なら我々が超空間通信を送っても解読できるだろう。試しに通信してみるか。それがダメなら地球人の電波通信方式で呼びかけてみよう。

 こちらのこれまでのアクティブ探査にも反応していないのだから、指向性通信程度で攻撃行動とはとられまい。

 とはいえ、第3惑星に対する全権は得ているが、今回のこの件は、私の手には余る。本国の宇宙軍へお伺いを立てたいがその時間が有るか?



「提督、宇宙軍軍令部より通信が入っています。おつなぎします」


 状況についてあれこれ思案していると、当の宇宙軍より通信が入ったようだ。艦隊の収集している観測データなどは自動で宇宙軍本部に逐一送られているので、こちらの状況は向こうでも把握しているはずだ。用件は未知の天体のことだろうか? 最近悪い予感ばかりするし、こんども嫌な予感がする。可能性は低いが直ちに撤退せよというものならありがたいのだが、それだけはないだろうな。


『こちら帝国宇宙軍軍令部です。マルコ中将、陛下より派遣艦隊に対し勅令が発せられました。内容は「可及的速やかに第3惑星を制圧せよ。惑星環境を破壊しない限り、手段は問わない」。以上です』


 本国よりの通信はこちらが詳細や経緯を尋ねる前にこれだけを伝えて切れてしまった。軍令部でもいきなりの勅令に混乱しているのだろう。


 目の前の未知の天体を無視して、地球を攻略する? 攻略部隊も連れてきていないのに制圧せよとは、地球人を艦砲で吹き飛ばせと言っているのか? 艦砲を使えば惑星環境は大なり小なり破壊されるのだが、どうせよと。威嚇だけで地球が降伏してくれるのなら楽ではあるが難しいだろう。


 いったい陛下は何を焦っているのだ? しかし、一度勅令が発せられた以上、地球攻略を最優先しなくてはならない。幸い未知の天体から積極的な反応も無いようだし、我々の行動を無視してくれることに賭けてみるしかないか。


「艦隊は、第3惑星地球に向け進撃を開始する。威嚇のため、地球の衛星に対して融合弾による核攻撃を加える。これより地球に向けて行う電波通信到達時刻を起点に地球時間で二十四時間後に融合弾が衛星に着弾するように。各艦は攻撃準備をなせ」


 麾下きかの艦隊に命令を伝えた後、艦隊司令部参謀に指示を出す。


「降伏勧告文を予定通り地球の主要国に送るように」




 五分後、いきなりの最後通牒ともいえる電文が地球に向け発せられた。


『こちらは、大アルゼ帝国太陽系派遣艦隊である。地球上の各国に伝える。抵抗は無意味である。降伏せよ。七十二時間以内に降伏の返答がない場合、大アルゼ帝国は地球に対し自由な行動をとる。回答の有無にかかわらず二十四時間後に月に対して示威攻撃を行う。降伏の方法は……』


 この通信が三時間後には地球に到達するわけだが、素直に降伏してほしいものだ。



「進路、第3惑星。艦隊は回頭後第1戦速まで加速します」




 アルゼ艦隊が地球に対し、交渉など何もなく最後通牒を行った十五分後。


「提督、不明惑星からアルゼ語で超空間通信が入っています。通信は我々の超空間通信プロトコルを使ったものです」


 報告を寄こした参謀の顔が心持ち青ざめていたような気がする。私も傍から見れば青ざめているかもしれない。まずいな、気を引き締めよう。


 何らかのアクションが未知の天体からあると思っていたが、我々の母国語を解し、更に我々の超空間通信プロトコルも解析済み。こんな相手に我々はどうすればいいんだ?


「通信をこちらに繋いでくれ。衛星への威嚇攻撃は一時中止する」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る