第66話 包囲
待ちに待っていたという訳ではないが、ついに『大アルゼ帝国』の艦隊が、太陽系にジャンプアウトしたとの連絡が入った。
「艦長、例の艦隊が太陽系外周部に現れました。アギラカナとの距離は約6AUです。当該艦隊の呼称を只今よりアルゼ艦隊とします」
「かなり近いな。予定通り、艦隊を出してステルスモードで取り囲んで様子を見よう。妙な動きをするようなら、一気に拿捕する。アイン、航宙軍に指示を出すから、アマンダ中将に繋いでくれ」
「アマンダ中将、山田です」
『アマンダです。例の艦隊、いえアルゼ艦隊の件ですね』
「はい、アギラカナのすぐ近くに現れたようです。ステルスモードで取り囲んでいつでも拿捕できるように船を出してください。拿捕する場合は、甘いようですが、なるべく先方に被害が出ないようにお願いします」
『了解しました。第1艦隊より打撃戦隊四、雷撃戦隊九、出撃させます。全艦陸戦隊より派遣された
切り込み隊?いや、普通に拿捕だよな。
艦隊の準備はよさそうだ。対応部隊の呼称を何にするか? 急ぎだし単純に対応部隊で済ませよう。
「アルゼ艦隊に対応する部隊名は、アルゼ対応部隊でいきましょう」
『了解しました。閣下、
「アギラカナの主砲?」
『はい、アギラカナの南極部から北極部に向けて建造された砲身長13000キロの六門の軸線砲が惑星型戦闘艦を想定したアギラカナの主砲です。単純な質量弾から、超大型対消滅弾まで投射可能です。試射を数十年前に一度行っただけですので日本文化の花火のつもりで試しに使ってみませんか? 美しさでは花火に劣りますが、超大型対消滅弾の爆発は見ごたえありますよ』
スクリーンの中で目を輝かせて恐ろしいことを言うアマンダ中将に対し、
「準備するのは問題ありませんが、試しに撃ってみるのは次の機会にしましょう」
あからさまに、残念そうな顔をされてもこっちが困る。
「艦長、アルゼ艦隊より小質量が分離しました。アギラカナに向かっています。その数は二。各々の質量は以前捕獲した無人探査機より若干小さめですが形状はほぼ同一です。おそらくジャンプ機構を持たないものの同型の無人探査機と思われます」
「無人探査機なら、破壊してもいいが、前回同様捕獲しておくか」
「了解しました」
プライマリー・コア破壊後、マリアの歓迎会の席で彼女がつぶやいた言葉が印象的だった。「結局、アーセンは我々バイオノイドを最後まで信頼することが出来なかったんですね」
アルゼ艦隊が現れるのがプライマリー・コアの破壊が完了した後で俺と地球は救われたのだろう。プライマリー・コアの介入にびくびくせず対応できるのはありがたい。
今となっては、プライマリー・コアがアーセンの末裔に対してどのような判断を下したかはわからないが、希望的観測に頼るわけにはいかない。そう判断をしてプライマリー・コアを破壊した。その結果、雇われ艦長の俺が本当のアギラカナ艦長になったわけだ。義務と責任を考えれば、俺もとうとう立派なアギラカナ人だ。
出撃指示を出して四時間後、アマンダ中将より連絡が入った。
「アマンダです。アルゼ対応部隊の展開を完了しました」
アルゼの放った小質量物体は推測通りの無人探査機だったようで、その捕獲も無事終わり、既にアルゼ対応部隊はアルゼ艦隊を包囲完了している。さらに、対応部隊の各艦はアルゼ艦隊全艦を切り込み用突入ポッドの射程に捉えている。
こちらは修理が二カ月ほど前に完了した航宙軍旗艦兼第1艦隊旗艦インスパイア、現在は対応部隊の旗艦の任に就いている。その中央指令室。
『全切り込み隊、対艦突入ポッドに搭乗完了しました』インスパイアの陸戦隊指揮所からインスパイア艦長に連絡が入る。
「別命あるまで、そのまま待機」
対艦突入ポッドには半個分隊六名の陸戦隊員が切り込み隊として搭乗し、隊員一名当たり隔壁破壊用またはサイバー戦用一機、近接戦闘用三機、警戒用二機の計六機の無人支援兵器を搭載している。対艦切り込みは降下作戦と異なり狭所での戦闘を想定しているため随伴する無人支援兵器の数は少ない。
対艦突入ポッドは母船より敵艦に向け実体弾投射同様、高速で打ち出された後、敵艦の船殻素材で覆われていない個所をセンサーによって探知し、その個所まで自走突入する。突入ポッド前面には船殻素材をコーティングした衝角が張り出しており、その衝角を敵艦の
切り込み隊員に随伴する支援兵器は惑星降下作戦で使うものと比べ小型となっているが、想定される戦闘時間が短いため搭載する武器類の出力は高くなっている。今回の作戦では、対象となるアルゼ艦隊の艦船には船殻がなく装甲も貧弱であることが判明しており、対艦突入ポッドの射出速度いっぱいでアルゼの艦に突入すると船体を突き抜けてしまう恐れがあるため、射出速度を押さえ突入速度を調整する必要がある。
スクリーン越しに見えるアルゼ艦隊の各艦のうち、比較的大型の艦の形状は、昨年鹵獲した探査宇宙船と同様紡錘型を基調とし、その周りにいろいろな付属物で覆われている。艦の先端部に並んだ開口部があり、その部分以外の開口部にはノズルが付いているので、おそらく艦の長軸を利用した軸線砲の砲口なのだろう。
[あとがき]
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