第65話 先遣部隊


 プライマリー・コアの破壊後、即応力を高めるため、これまでブレイザーの哨戒機で行っていた太陽系外周部の哨戒を取りやめ、アギラカナから複数の雷撃戦隊を派遣して太陽系外周部の哨戒に当たらせることとした。


 マリアを引き連れ大使館に戻って五日が過ぎた。依然、大アルゼ帝国の艦隊は太陽系に現れていない。


「以前の感覚だと300光年は相当な距離と感じたが、今となっては、五日半の距離か。かなり近いな。そのDT01星系からジャンプしたという小艦隊は具体的にはどのくらいの規模なんだ?」


「アギラカナの駆逐艦相当の小型艦が四隻、更に小型の艦が十二隻。輸送船らしき中型宇宙船が二隻です。我々の駆逐艦相当の艦を超える艦が、DT01にはいないようでしたので、おそらくその艦が大アルゼ帝国の主力艦と思われます」


「その程度の規模で船殻も持たない艦隊を撃破するだけなら今哨戒に当たっているこちらの雷撃戦隊一つで十分対応できそうだが、まだ明確な敵対行動を起こしていない相手を有無を言わさず攻撃するのもどんなものかな。

 平和的に接触できればそれに越したことはないが、大アルゼ帝国とか、国名に『大』を付けるような自尊心の肥大した種族だとすると、対応は少し難しいかもしれないな。

 その艦隊の目的次第だろうが、アインから見て連中の目的は何だと思う?」


「わざわざ300光年先まで来るのですから、資源目的ではなく、地球型の惑星を望んでいると思います。付け加えますと地球の文明レベルでは、我々の介入なしに大アルゼ帝国の小艦隊に対抗できるすべは有りません」


「相手方の動きを見てから対応していくしかないか。マリアはどう思う?」


「最終目的は、地球の植民地化と思いますが、おそらく我々同様、内惑星に最も近く資源の得やすい木星近傍にハイパーレーンゲートを建設しようとするのではないでしょうか」


「なるほど。そのあたりは我々と競合するわけだな」


「アイン、大アルゼ帝国には、うちの工作艦みたいな高性能の建設艦はあるのかな?」


「アギラカナの工作艦ですと小型のハイパーレーンゲートの建設にはそれほど時間がかかりませんが、大アルゼ帝国となると、技術的に遅れていますからそれなりに時間がかかると思います。しかも、今回の出現が予想される小艦隊には工作艦は含まれていません」


「と言うことは、そのうち工作艦を別途連れてくると言うことか」


「単艦で来ることはないでしょうから、少なくとも護衛艦が数隻随伴すると思います」


「それはそうだろうな。いまさらだけど、こっちの探査艦を向こうに送った方が良いかな?」


「いえ、現状の探査機でも十分情報は得られていますから、後は大アルゼ帝国を構成する残りの星系に一基ずつ探査機を送っておけば十分だと思います」


「今探査中の探査艦を引きはがして移動させる必要もないか。

 マリア、アギラカナの探査部に指示して探査機を『大アルゼ帝国』の各星系に送らせてくれ。あと、ジャンプドライブだけど、あまり太陽に近いとまずいそうだが、外惑星圏から外惑星圏のジャンプは問題ないのかい?」


「いえ、太陽というよりも、既存天体より5AU程度の距離を取る方が、ジャンプ側、惑星側、双方安全ということだけですので、5AU以内の惑星近傍にジャンプアウトしなければ影響はありません」


「それじゃあ、『大アルゼ帝国』の艦隊が、アギラカナの逆方向の外周部に現れたとしても、ジャンプドライブを使ってアギラカナから、すぐに艦隊を送れるんだな」


「問題ありません。特に今回出現が予想される艦隊は小規模ですし、一個雷撃戦隊で十分撃破可能です」


「いや、撃破せずに、済ませたいんだがな」


「それでしたら、第1艦隊を出しますか? 全艦、アギラカナ艦内に係留中ですから、一時間で展開可能です。我々の探査機のステルスが有効な相手ですし、彼らの艦隊を発見し次第、ステルス状態のこちらの艦隊で囲んでしまえば一網打尽に拿捕できます」


「今の第1艦隊の構成はどうなっているんだ?」


「第1艦隊は打撃戦隊を三個戦隊追加しており、正規母艦四、補給母艦50、雷撃戦隊九、打撃戦隊四で編成されています」


「撃沈目的ではないし、母艦まで出すと過剰すぎるから、母艦は外して打撃戦隊と雷撃戦隊でいいだろう。それでもそうとう過剰だが訓練にもなるからいいか。拿捕する可能性が高いから艦隊搭乗陸戦隊員を増員しておくよう陸戦隊にも指示しておいてくれ」


「了解しました」





 大アルゼ帝国G013星系先遣部隊、司令官マルコ提督が座乗する旗艦メトレシー、中央指揮室。

 

『本艦は五分後に、通常空間に復帰します』


 自動音声が、室内に響く。これから訓練を含め二度目の通常空間への復帰だ。復帰に失敗すると、永遠に超空間に彷徨うとか、完全に無に帰してしまうとか言われているが、本当のことは分かっていない。ただ、自分も含め艦内、先遣部隊内の誰もが、死ぬなら知らぬ間に死んでしまいたいとは思っている。超空間内の航行が百日を超えているが、僚艦との連絡も出来ないため艦隊の状況は全く分からない。陛下の強い希望で派遣されたこの艦隊だが、星系の探査を終わらせた後でも、我々のような実働部隊を送るのは遅くはなかったろうとは思う。探査艦が簡単に消息を絶ったことも、なにか嫌な予感を誘う。


『通常空間復帰、三十秒前、二十八、二十七、……、三、二、一、ゼロ。遷移成功』


 自動音声が、言う必要もない遷移成功を告げた。


 艦内のすべての外部センサーが息を吹き返し、中央指揮室の中が騒がしくなる。


『艦隊全艦、正常に通常空間に復帰しました』


 第一段階はクリアできた。次は、星系を調べつつ目的の第3惑星の先住知的生命体との接触か。


 通常空間復帰後すぐに受信を始めた第3惑星から垂れ流されている電波情報の解析は順調のようだ。まもなく、現地語での降伏勧告の文面が出来上がるだろう。どうやら、第3惑星の先住知的生命体は、自身の惑星を地球、自らを地球人と呼んでいるらしい。地球人の形状は我々アルゼ人と驚くほど外観が似ていることも判明している。


「提督、艦隊より6AUの位置に内惑星型惑星を発見しました。探査省の探査艦がもたらした情報にはなかった天体です」


 嫌な予感がさらに大きくなってくる。この艦隊には探査艦がいないので精密な探査は無理なのだが、こちらの天体も手持ちの観測機器で早急に調べてみた方がよさそうだ。



「光学観測での観測ですが、対象惑星の表面は未知の金属で覆われているようです」


「提督、対象惑星の軌道が、情報を得ていたガス巨星である第7惑星の軌道とほぼ重なっています!」


 次々に簡易観測結果がもたらされる。質量の異なる惑星同士の軌道が重なっている? そんなことが有り得るのか? この惑星はいったい何なのだ? 惑星ではないのか?




[あとがき]

分かりにくくなるので、アルゼ側の単位表記も地球の単位を使っています。


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