第64話 歓迎会
なんとか、犠牲を出すことなく作戦が終了した。これで今までのセカンダリー・コアが唯一のアギラカナ・コアとなったわけである。現在、反物質爆弾で破壊されたプライマリー・コアの存在した個所およびその周辺の修復作業中である。爆発エネルギーの逃げ場が外部とのインターフェースのあったスリット部のみであったため、スリット部から漏れた爆発エネルギーで広範囲が破壊されたため修復にはそれなりの時間がかかるそうだ。
それが終われば現在正常稼働しているセカンダリー・コアのコピーがオリジナルを最後に覚醒させ、自身はオリジナルに引継ぎを行った後、消滅することで作戦は完全終了する。
今回の作戦は、アギラカナのためという訳ではなく、単に俺と地球のためというものだった。それもあり、俺自身はこの作戦が成功したとしても、犠牲が出たのならば今日のマリアの歓迎会は欠席するつもりだった。
しかし、ありがたいことに陸戦隊の被害は軽微で済んだようで、負傷した隊員たちも二、三日で完治するそうだ。アギラカナのバイオノイドで完治に二、三日かかるのだからそれなりに大怪我だったのだろうが完治するのならば歓迎会に出席してもいいだろう。アインもプライマリー・コアが破壊されたからといって何か変わったふうでもなくいつものアインだったのでこちらも安心した。
今日のマリアの歓迎会は、一条がセッティングした銀座の寿司屋で夕方七時から開催されることになっている。
参加者は、マリア、一条、俺、そして、コアのアバターから解放されたアインの四人と、一条が懇意にしている法蔵院麗華嬢の五名だ。
法蔵院麗華の名前を聞いてすぐには思い出せなかったのだが、アーセンの遺伝情報が俺に次いで多い人物ということで一時期ドローンを使い警護していた人物だった。
大使館から、四人で店に訪れ、引き戸を開けて店の中に入ると、白い板前服を着た壮年の店の主人と思しき人に奥の個室に通された。その人が、一条をオーナーとか呼んでいたのだが、俺のいない間にこいつは何をやってたんだ?
われわれが席につくと、間を置かず麗華さんが部屋に現れたので、さっそくビールを全員のグラスに注ぐ。
「部外者の私のようなものが呼ばれましてありがとうございます」
「麗華ちゃん、何言ってるのよ。ここにいる人達は小さなこと気にする人達じゃないから気にしなくていいの」
俺も含めみんなにこにこ笑って頷いている。
マリアはアギラカナの人間で十五歳で成人を迎えていると店の人には断っているので、未成年者の飲酒で通報されることはない。厳密にいえば外人にも日本の法律が適用されるのだろうが、通報されなければOKだろう。俺とバイオノイドの二人はいくら飲んでも気持ちが良くなるだけでザルなのだが、おそらく麗華さんもそうだろう。心配なのは一条だけである。
「それでは、マリアさんが大使館に来られたことをお祝いしてカンパーイ!」
「皆さん、ありがとうございます」
今朝獲れたという相模湾の黒ムツの卵の煮つけが先付けで出されたのだが、箸をつけて驚いた、これはうまい。初めて食べたものだが生たらこの煮つけよりも濃厚な味が日本酒に合いそうだ。ビールではもったいない。今日の歓迎会の会費はオーナー持ちと言うことにしてしまおう。
考えたらここ十数年間お金を使わない生活をして来たので、財布も持参していなかった。今日は無難に〇寿で行くことにするか。あれ、一条は田〇の大吟醸でいくのか。相変わらずいいところを押さえてるじゃないか。
そんな感じで俺のいない間の一条特別補佐官のご活躍の自慢話を聞かされた。主賓のマリアはだまって周りの話を聞きながら、出された料理を適度に食べ、グラスに酒が注がれるまま相当飲んでいた。
一条は、俺が留守の間しっかりやっていたようで、元からあるアギラカナ代表特別補佐官の肩書のほか、主だったところで、法蔵院グループ社外特別顧問、ニチアグループ最高経営責任者というのを持っていた。他にもそれなりの企業の役員になっているという。
ニチアグループというのは、アギラカナが主体となった企業グループで傘下に通信インフラ国内最大手のニチア通信、日本と友好関係にある東南アジア諸国と日本間の物資の輸送を宇宙貨物船で行うニチア高速輸送、建設会社で使用済み核燃料の廃棄処理、原発廃棄処理も請け負っているニチア国土建設、AMRを中心とした観光業、国内各所の宿泊施設への出資、ソーラー・クルーズへの出資、アギラカナの軍事用VR技術を生かしたゲーム、コンテンツ産業など多岐にわたる総合エンタテイメント会社のアムールを持つ。それに、ニチアファーム。ファームステーションと呼ばれる農業・漁業用の宇宙ステーションを保有し、飼料用作物、漁業飼料用プランクトン、小魚などを栽培、養殖して日本及び東南アジアの友好国に輸出している。
さらに驚いたのは、すっかり忘れていた話だったが、いまや俺を実質解雇した○○製作所のオーナーだそうで、あの時の関係者は全て解雇したそうだ。俺以上に根に持っていたらしい。
法蔵院麗華嬢の方は彼女が高校生の時、一条が大使館に連れてきたおりに一度会ったきりだが、いまは法蔵院グループの総長を務めているそうだ。法蔵院グループの先代は
後でアインから聞いた話だが、今では日本を中心に東南アジア各国からなる円経済圏ができあがっているそうだ。ニチアグループと法蔵院グループがその立役者であるそうなのだが、両グループのトップ同士が非常に仲が良いため、将来的にはニチアグループと法蔵院グループが合併するのではと噂されているらしい。完全非上場のニチアグループと構成企業の多数が上場している法蔵院グループが合併するにはハードルはかなり高いのだろうが、この二人のことだから何とかするのだろう。
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