第63話 突入作戦3


『第1分隊、集合完了、周囲異常なし。通路を前進します』


 第1分隊を指揮する分隊長がアクティブセンサーを起動したヘルメットのバイザー越しに再確認したところ、分隊が転送されたのは、幅10メートル、高さ4メートルほどの通路で、5メートルおきに壁の両側に用途不明の半円柱状の出っ張りが床面から立ち上がっていた。通路内は内部の劣化を防ぐため光源はなく、装甲服に内蔵された分析計によるとマイナス百八十度ほどの低温ネオンガスが充満しているようだ。目標のスリット部は転送地点から50メートル先で、それほど離れているわけではない。


「分隊フォーメーション4、4、3、1(二列目は荷物を持つ二人を挟んで左右に一人ずつ)。荷物を運んでいる二人以外は抜刀。第1分隊前進」


 分隊が前進を始めるなか、分隊長は一番後ろの位置につき後方を警戒する。


 陸戦歩兵の持つパイレーション・ブレードは自分たちの着る装甲服も切り裂くことが可能なため、味方討ちの可能性の高い狭所では対光線兵器用のステルス機能は使用しない。最後の一人になれば使用をためらう必要はないがそこまで追い詰められればどのみち本当の意味での全滅は免れない。


「敵はおそらく出てこないと思うが、十分注意して進め」


 分隊長のコム越しの言葉に無言で頷く隊員たち。普段の彼は、日本のラノベを愛読していたのだが、うっかりミスなのか、盛大なフラグを立ててしまったようだ。


 部隊が、10メートルほど前進したところで、後方でガシャンと音がして、用途不明と思われていた半円柱状の出っ張り部分が通路の壁面から円筒となって分離し、円筒の上端部分から四本の腕、下端から四本の脚部が伸びカタカタ、ガシャガシャ音を立てて接近してきた。


 分隊長が素早く反応し、パイレーション・ブレードで腕部を切り飛ばしたあと、あっけなく胴体を袈裟切りにしてしまった。円筒型の自律機械そのものは戦闘用の自律兵器ではなかったようであっけなく排除されたのだが、


 ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、……


 後方にどこまでも続く通路の両壁面から無数の円筒型自律機械が手足を伸ばし、通路を埋め尽くす勢いで小隊に向かってきている。

 分隊の前方にも十五、六体の円筒型自律機械が手足を伸ばして部隊に迫ってくる。


「1列、前方の機械を掃討したら、後方に付け。インターフェース部分の穿孔せんこう急げ」


 急いでどうこうできるわけではないが、コム越しについ口に出てしまう。数が数だけにやっかいな相手だ。


 第一波の円筒型自律機械は、前列六人で、簡単に片づけることが出来たが、かなり硬い素材でできた機械のようで、徐々にパイレーション・ブレードの切れ味が悪くなってきている。しかも円筒型自律機械は四本の手を振り回しているため、なにがしかのダメージが装甲服に入ってしまう。


 装甲服に亀裂が入れば、一度は装甲服の自動補修機能で内側のコーティングが補修されるのだが、同一個所が損傷すると、自動補修が困難になる。破損個所から極低温の外気が侵入すればその部分に接した体の部位が凍結してしまう。


 2人の隊員に守られ穿孔装置を運んでいた隊員が、船殻素材ではないと思われる正面壁の前に装置を据え付け終えて穿孔作業がようやく始まった。装置から伸びた直径20センチほどのパイプが正面の壁に接触し、その接触部分の壁面素材が徐々に粉末化していき孔があき始める。その穿孔作業がゆっくりと進む中、後方では、無数の円筒型自律機械と隊員たちとの戦闘が繰り広げられている。


 押し寄せる自律機械は、パイレーション・ブレードによって簡単に破壊できるのだが、数が問題だ。後方どこまでも自律機械が続いている。隊員たちは自律機械を切り飛ばしているものの、一歩一歩圧力に押され後退せざるを得ない。パイレーション・ブレードの切れ味も落ち始め、一撃、二撃でたおせていた自律機械も、三撃、四撃の攻撃が必要となって来た。その分後方に押し込まれて行く。隊員たちの着る装甲服にも少しづつ傷がつき始めていた。




「第1分隊、多数の自律機械と戦闘状態に入りました。現在、敵自律機械の詳細分析中です」


「エリス少将。全分隊、非船殻部分に対する穿孔作業を開始した模様です」


 エリス少将が黙って頷く。


 穿孔作業完了後になにがしかの迎撃が有るかもしれないとは考えていたが、この段階での戦闘状態突入は予想外だった。作戦前にこの区画の情報を得ることが出来なかったため、現在戦っている相手がどのような敵なのかはわからないが、作戦目標であるプライマリー・コアの破壊の障害であることは確かだ。


「続いて第2、第3分隊、同じく、自律機械との戦闘状態に入りました」


 エリス少将の見つめる四つのスクリーンに、各分隊十二名を表す緑のマークと数字で隊員のバイタルチェックがリアルタイムで表示されており、少将の座る席の前のスクリーンには、その集計が緑で表示されている。


 第1分隊 12(0)/12

 第2分隊 12(0)/12

 第3分隊 12(0)/12

 第4分隊 12(0)/12


 一名でも被害が出れば、その分隊を表す数字が緑から黄色に変わり、三名で濃い黄色、六名で赤く変わる。カッコ内の数字は生命活動の停止したもの、つまり戦死者数を表している。


「戦闘不能者は直ちに転送して回収する、艦長公邸の転送室経由で医療室への転送になる。転送照準を合わせておけ。

 部隊を襲っているあの筒はいったい何なんだ?」


「敵自律型機械は戦闘用ではなく、作業用のようです」


「そうか。しかし、邪魔だな」


 第1、第2、第3分隊では、徐々に被害が出始め、表示は緑から黄色になっており、第1分隊の表示はすでに、濃い黄色となっている。


 [第1分隊 8(0)/12]


 すでに四名が医療室に転送され治療を受けており、第2、第3分隊でも被害が拡大し始めている。


「第4分隊、戦闘状態に入りました。穿孔作業進捗しんちょく中、……いま、貫通しました。貫通部より反物資爆弾を投入します。

 ……作業完了しました」


「直ちに、全分隊撤収、転送を急げ」


「爆弾起動三十五秒前、三十四、三十三、……、二十、……」


「部隊員、全員回収完了」


「……四、三、二、一、ゼロ」


「アギラカナ中心部での対消滅反応確認しました」


「みんな、よくやってくれた。さすがは、わが陸戦隊だ」






『閣下、作戦成功しました。軽傷者は出ましたが戦死者は出ていません』


 エリス少将より、作戦成功の連絡があった。


「ありがとう。隊員たちにも伝えておいてください」


 犠牲を出さず作戦を成功させてくれた。ありがとう。




[あとがき]

パイレーション・ブレードはカタカナだと分かりにくいですが、パイレーションは海賊行為のPIRATIONです。

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