第62話 突入作戦2


 大アルゼ帝国の先遣部隊が太陽系に到達する前に問題を解決しなくてはならない。

 これとは別に、マリアの予想ではプライマリー・コアを騙せる期限が三日。


 プライマリー・コアが夢を見ている今ならアギラカナに通信しても問題ないので、陸戦隊のエリス少将に通信回線を通じ連絡をとった。


「エリス少将、山田です」


『閣下、いかがしました?』


「……、という訳で、陸戦隊から特殊作戦を行う隊員を抽出し、コア内部にある不明区画を破壊してもらいたいのです。詳細は、こちらにいるマリアに確認してください」


『艦長指示を命令として受領しました。任せてください。

 なーに、敵艦への切込みより簡単な作戦です。航宙軍がこれまで派手に活躍していましたから、陸戦隊もという連中が多くてなだめるのに大変です。そのうち、どっかの惑星にアギラカナの旗を立てたいものですねー。閣下、そろそろ、試しに地球でも制圧してみませんか? 地球相手なら人員損耗無しで制圧可能ですよ』


 ピクニック感覚で制圧される地球。


 冗談だと思おう。きっと冗談なんだろう。


 そういえばアギラカナの旗はどんなのだっけ。後でマリアに確認しておこう。


 いやいや、ここでへんに藪をつつくと旗を考えなくてはならなくなる。べつに旗なんていらんから黙っていよう。ちまたでは、紺色の丸に白い六角柱で通っているらしいがそれでもいいか。しかし、それでは、陸戦隊旗か。うーむ。

 



 一連の事情を話し、陸戦隊によるプライマリー・コア破壊作戦を速やかに実行することになった。


 エリス少将も第2陸戦連隊が最精鋭と考えたようで、アギラカナで訓練中の第2陸戦連隊から抽出した最精鋭四十八名を四個分隊に編成し、艦長公室にある転送装置からマリアが見つけたプライマリー・コアが物理的に存在すると思われる個所への突入経路に部隊を転送する作戦だ。このとき、一時的にコア内の内部転送阻害装置を停止させる。



 陸戦隊司令官のエリス少将が司令官席で見守る中、第2連隊の連隊長のハイヤル・エリニテ大佐と副官ハルナ・フランテ中佐が強襲揚陸艦AA-0002の陸戦指揮室から突入部隊の指揮を執る。陸戦指揮室には他に第2連隊の四人の大隊長をはじめその他の将校も詰めている。


 外部からの装甲服の制御系への干渉を避けるため突入する隊員の装甲服もスタンドアローン化し、無人の随伴兵器についても狭所であることと制御系へ干渉される恐れがあるため隊員に随伴させないことにした。


 当然、プライマリー・コアは船殻相当の装甲で覆われているとみなければならない。しかも、体積的にはあまり大きくはないためプライマリー・コアの装甲は一体成型で目立った弱点となりうる接合部がないだろうから、突入経路の先にある外部への連絡用スリット部分が唯一の弱点である。


 外部とのインターフェースを傷つけることなくその部分を一部破壊し、そこからプライマリー・コア本体を破壊するに必要十分な時限爆弾を投入して撤収する予定だ。

 周囲はセカンダリー・コアの重要領域ではあるが実際はすでにダミーのため、破壊が広範囲に及んでその部分に被害が出ても問題はないが、反物質を封入した時限爆弾が最大四個、別々の場所から別々のタイミングで投入されるため、部隊員の転送機による撤収タイミングがずれ、想定を超える破壊が発生してしまうと部隊員が被害を受ける可能性が高まる。


 エリス少将は簡単な作戦と言っており、プライマリー・コアの破壊の成算は十分あるらしいが、当然隊員たちの生還が保証されているわけではない。自分のため、地球のために困難な仕事を引き受けてもらったわけだが、選ばれた陸戦隊員たちは平然としていた。隊員たちの無事と作戦の成功を祈るしかない。



 一旦アギラカナの艦長公室に集結した四十八名の突入隊員たち全員が鈍い銀色の装甲服を着用している。各分隊のうち二名が荷物を載せた自走キャリアを手動操作している。荷物の一つは非船殻部分に孔をあける穿孔装置、もう一つの荷物がコア破壊用円筒型爆弾だ。


 隊員たちは今回、投射型武器は携帯していない。投射型武器や光線兵器を使用すると放出されたエネルギーをプライマリー・コアが独自に持つセンサーで感知し、その刺激で覚醒しかねないためだ。そのため主装備として各員が携帯するのは振動カッターの一種である敵艦への切り込み用のパイレーション・ブレードだ。


 パイレーション・ブレードは刀身が60センチほどの片刃の刀で狭いところでも取り回しがやすい武器なのだが、刃先のごく1部に船殻素材がコーティングされているため、いかにバイオノイドと言えども素手では扱えない重量があり、パワーアシストのある装甲服を着用した上で両手で扱う必要がある。


 嘘かほんとかわからないが、以前宴会で酔っぱらったエリス少将から聞いたところによると、地球の自動車などは何の支えにもならず、刃先をボンネットの上に置いただけで自重で刃が下まで突き抜けてしまうらしい。


 艦長公室横の転送室は大人数の転送を想定して作られてはいないため、一回の転送で六名ずつ転送することなる。集合した四八人は六人ずつの班に分かれ、計八回目標地点に転送される。転送先の重力は、通常は無重力なのだが今は1Gに調整済みのため白兵戦が起きたとしても支障はない。転送先には光源はないので、装甲服に装備されたアクティブセンサーを使う予定だ。


 作戦開始時刻を示すブザーが陸戦指揮室内に響いた。


 ハイヤル大佐より作戦開始指示が転送室で待つ突入隊員たちのヘルメットに届けられる。


『特別な指示はない。これまでの訓練通り落ち着いて作戦を遂行せよ。諸君らが義務を遂行することを期待する』


「第1分隊より順次出撃! 1班、出撃! 続いて2班 出撃! ……』


 次々と、隊員たちが、六名ずつ転送され、すぐに転送室は空になった。


『第1分隊、集合完了、周囲異常なし。通路を前進します』

『第4分隊、集合完了、周囲異常なし。前進』


 四分隊それぞれ別の場所に転送されており、どれも一本道の突き当りが船殻で装甲されていない目的のスリット部分に繋がっている。一つの班でもプライマリー・コアが占有していると思われる区画内で持ち込んだ反物質爆弾を爆発させることが出来れば、作戦目標は達成される。




[あとがき]

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