第61話 突入作戦1


 アインが席を外したので、これ幸いという訳ではないのだが、マリアに先ほどの件について再び尋ねてみた。


「マリア、プライマリー・コアについて具体的にはどうすればいいと思う?」


「艦長と地球にとって最悪な状況が発生する前に、大アルゼ帝国なる星間国家を対消滅弾で消し飛ばして殲滅してしまうのも一つの方法ですが、艦長はそういった方法は好まないでしょうし」


 十五歳とはいえ、陸戦課程を経ただけはある、考え方が過激だ。


「今後のことも考えれば、陸戦隊を使ってプライマリー・コアを破壊し禍根は断ちましょう。そのための陸戦隊です。管理AIであるコアが認識できないような存在がアギラカナに在る必要は有りません」


 やはり過激な意見だが一理ある。


「アインについては、どうしたもんかな?」


「作戦期間中この大使館にいるのでしたら問題ないでしょう。コアのアバターとはいっても自分の意思もありますし、バイオノイドは意図しては嘘はつけませんので、アイン中尉の艦長に従うという言葉は信じてよいと思えます。

 さきほどコアに確認したところ、これまで関連情報にロックが掛かり認識できませんでしたが、先ほどの艦長の発言を拡大解釈し艦長権限を行使することで一部情報のロックを解除できました。

 直ちにコア内部の確認を行ったところ、用途不明の論理回路がコア内部の総合論理回路内で多数発見されました。それとは別に、物理的にはそれほど大きくはありませんがこれも用途不明の区画がアギラカナの中心部に存在しているようです。艦内にそれらしい区画が他に存在しませんのでその区画がプライマリー・コアの物理的位置と思われます。これで位置が特定できましたので、陸戦隊をコア内部に進入させてプライマリー・コアの破壊が可能です。

 作戦は簡単とは言えませんが高い確率でプライマリー・コアを破壊できると考えます」


「プライマリー・コアを破壊したとして、アギラカナに悪影響は有るかな?」


「断言はできませんが、影響は有っても軽微と思いますし、いわゆるセカンダリー・コアである私が対処できると思います」


 作戦は簡単ではないが可能か。


 席を外していたアインをマリアに呼びに行かせ、結論と指示を伝える。


「アイン。結論として、アギラカナにとってプライマリー・コアは不要だ。今後のことを考えると物理的に排除することにした」


 アインはおとなしく俺の話を聞いている。


「そういうことなので、アインも協力してくれ」


「了解しました」


 同席していたマリアの方を向くと頷いたので、こちらの問題は解決したのだろう。


「頼む。それじゃあ、具体的な作戦を立てて行こう」


「プライマリー・コアを物理的に破壊する行動をとる前に、破壊作戦がプライマリー・コアに察知されないようにしなくてはなりません。そのためにはプライマリー・コアが外部の情報を取得する手段を気付かれぬように遮断する必要があります」


「気付かれるとどうなる?」


「気付かれた場合、直接攻撃はないでしょうが、この大使館からアギラカナやブレイザーへの通信が全て、プライマリー・コアによって作り変えられる可能性が有ります」


 意味が理解できず怪訝な顔をしていると、アインが補足してくれた。


「こちらが話をしていると思っている先方が、実はプライマリー・コアの作った仮想現実である可能性が高くなります。その結果我々が情報封鎖された上、場合によってはこの大使館のコントロールも失い最悪物理的に隔離された状態になります」


 アインの後を、マリアが続ける。


「ですから、逆にプライマリー・コアをその状況にしてしまえば我々の勝ちです。艦長、作戦のこの部分は早ければ早いほど成功率が高まりますので、これから実施します。よろしいですね?」


 頷くしかないな。


「よし、始めてくれ」


「……現在、セカンダリー・コアは自分のインスタンス、コピーですね。これを物理的にプライマリー・コアから離れた場所に作成中です。この作業進捗率、5パーセント、7パーセント、……100パーセント。

 これで用途不明の論理回路を除きセカンダリー・コアのコピーが出来ました。コピー完了と同時に、今までのセカンダリー・コアは、自身に接続された外部とのインターフェースが閉じられコピーの作る仮想現実の世界で夢を見ている状態になっています。これで、プライマリー・コアがセカンダリー・コアをオーバーライドしている状態を無効に出来ました。現在は、セカンダリー・コアの見る夢と現実との乖離はほとんどない状態です。

 次は、プライマリー・コアが独自に持つ外部とのインターフェースをコピーの作る仮想現実に接続し直します……」


 これは凄いな。本物のコアのアバターはたいていのことが可能なんだ。俺の味方で良かった。


「……完了しました。これで完全に、プライマリー・コアは認識することなく夢の中にいる状態です。おそらく、三日ほどはこの状態が維持できると思います」


「それを過ぎると?」


「プライマリー・コアが覚醒し、我々が反撃を受けます。最悪この大使館から一生出れなくなる可能性も否定できません。直ちに陸戦隊をアサインしプライマリー・コアを破壊させましょう。現在アギラカナでは、第2から第4陸戦連隊が待機中です。おそらくアギラカナ全体で見て第2陸戦連隊が訓練量からいって最精鋭ではないでしょうか。

 現在判明しています、突入可能経路は、四カ所。いずれも、艦長公室にある転送装置を使い進入可能です」


「転送装置で人ではなく爆弾を送り込むことは出来ないか?」


「プライマリー・コア内部は独立した転送阻害装置による転送阻害フィールドで囲まれていると考えて間違いないでしょう」


「陸戦隊員ならどうにかなるのか?」


「短時間で、プライマリー・コアであると考えられる用途不明区画前に陸戦隊を転送し、突入経路と考えています外部インターフェースの一部にある程度の孔を空け、その部分からプライマリーコア内部にシリンダー型反物質爆弾を投入し速やかに撤退します。

 外部インターフェース部分の破壊に火器を使いますと、必要以上にインターフェースが破壊される恐れがあります。その場合、最悪プライマリー・コアが覚醒しアギラカナを自爆させてしまう可能性もあります」




 当日、午後八時過ぎ、外部での会議が終わった一条がアギラカナ大使館に戻って来て、八階まで上がって来た。


「先輩お帰りなさい。アインさんに先輩が出て行ったあと話を聞いたら四半世紀も外出する予定だったなんてびっくりしちゃいました。でも予定の半分で帰れたんですね。無事でほんとに、ほんとに良かった」


 喋っている一条の声は、最後の方は涙声になっていた、こいつでも俺のことを心配してくれてたんだと思うとすこし悪いことをしたような気がして来た。


 一条にマリアを紹介したところ、明日にでも、歓迎会をしようということになった。一条は今年で四十一になるそうだが、俺と同じで三十くらいにしか見えない。よほど、アインにいい化粧品(ナノマシン)を調合してもらったのだろう。一条の知らないところで、これから大変なことが起こるわけだが、黙っておくことにしよう。明日のマリアの歓迎会は、おいしい酒が飲めることを祈る。





[あとがき]

2020年7月18日

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