第58話 大アルゼ帝国探査省


 大アルゼ帝国、G型恒星ハミラピラトラの第3惑星、首都惑星アーゼーン。現在六基の軌道エレベーターが惑星の赤道を囲むように地表に吊り下がっており、将来的にはそれらが繋がって、惑星をめぐる巨大なリングを形成する予定だ。十年ほど前に技術的特異点シンギュラリティ的に開発されたジャンプドライブが数年前に実用化され、現在帝国内の主要星系内にある宇宙工廠で主要艦船にジャンプドライブの搭載工事が進められている。


 アーゼーンで最も大きな第一大陸にある中央砂漠帯を灌漑して作られた緑豊かな人工都市マイツソマヴェナ。その中央にあるクリスタルでできた帝宮の隣にそびえる中央政庁舎の一角にある帝国探査省の長官室。


 広域探査と知的生命体調査を受け持つ探査局のヴァスカ局長が探査省の探査艦喪失についての報告を頭頂部が薄くなり白いものの混ざりはじめたロアール長官に行っているところだ。


「ロアール長官、G013星系に向かったJ01型自動惑星探査艦が消息を絶ったようです」


「ヴァスカ君、J01型はJが付くと言うことはジャンプドライブを積んだ遠距離探査用の探査船だろう?」


「はい。光学観測によりアーゼーン型惑星の存在を確認していたため、百日ほど前に送り出したJ01型2号艦です。ジャンプアウトに無事成功し、G013星系の外周部から同星系の第3惑星上に高度知的生命体を発見したようです。その後、惑星探査ドローン4機を射出後、通信が途絶し現在も途絶えたままです。惑星探査ドローンには超空間通信装置は装備していませんので、こちらも消息不明です」


「事故なのか、その高度知的生命体の仕業しわざなのかは分からないのだろ?」


「探査艦から通信途絶前に得られたわずかな情報で、確定ではありませんが、高度知的生命体の進化レベルは2ないし3です。従いまして、探査艦が緊急通信を発する時間を与えず破壊することは不可能と思われます」


「それでは、事故なのか?」


「ジャンプアウトは成功していますので、通常空間で複数個の通信装置が一度に破損するような事故の可能性は低いと考えられます」


「それでは、君はどうしようというのかね。J01型1号艦と3号艦はすでに別の星系に送り出した後だし4号艦の完成はまだ先だ。今動かせるまともな探査艦はもうないだろう」


「探査省管轄の探査艦隊はジャンプドライブを搭載後いまだ訓練航海も行っていません。この際、探査艦隊を長距離訓練航海も兼ねてG013星系に送ってみてはどうでしょう」


「一次探査も出来ていない星系に軽武装の探査艦隊は送れんだろう。J01型1号艦が戻ってくるのが一カ月後のはずだ。1号艦が戻り整備完了次第G013星系に派遣しよう。

 今回のアーゼーン型惑星については帝室も大いに期待していた探査だったが残念だ。午後からは御前での閣議が有る。その時にわたしから陛下に報告しておく」


「了解しました。よろしくお願いします」


……


4時間後。


 ロアールは帝宮での閣議を終え、中央政庁舎にある自身の長官室で、探査局のヴァスカを呼び今日の閣議決定を伝えているところだ。


「御前での閣議で、探査艦の喪失について報告したところ、陛下のお言葉により、宇宙艦隊から一個艦隊を先遣隊としてG013星系に派遣することになった。艦隊の派遣は一次探査を待ってから行っていただきたいと奏上したが無駄だった。

 帝国の現状からみて焦る必要はどこにもないのだが、陛下はよほど新たな惑星に期待しておられたようだ」


「一個艦隊といいますと、やはり、マルコ提督の遊撃艦隊でしょうか?」


「その通りだ。遊撃艦隊だけが全艦ジャンプドライブ搭載済みだからな。遊撃艦隊から有力艦を抽出し先遣部隊とするそうだ、先遣部隊の構成は重巡洋艦四、軽巡洋艦一二、大型輸送艦二だ、これで最大一年の作戦行動が出来るそうだ。じきに、宇宙軍で戦闘序列が発令される。

 艦隊は集結後すぐにG013星系に出発だ。仮に先遣部隊で対処できないような問題があった場合は、第1艦隊と第2艦隊でジャンプドライブ搭載が完了している艦を抽出し第2部隊が編成されて派遣されることになった」


「攻略部隊は同伴しないんですか?」


「艦隊で惑星を包囲すれば、よほどのバカ者でない限り降伏するだろうから、艦に同乗する海兵隊で十分だろうと宇宙軍では言っている。どのみち占領するわけだから治安要員の派遣がそのうち必要になるだろうがな」


「そうですか。もし、われわれのJ01型2号艦の発した高度知的生命体情報が誤りで、レベル3ではなくわれわれと同等のレベル4、最悪、われわれを超えるレベル5ということが有った場合かなりまずいことになりそうですね」


「君は心配性だな。安心したまえ、いくら探査ドローンの一次探査前でも、そんなことはあり得んだろう」


「そうですよね」


「仮に相手がわれわれと同等の進化レベルが4相当なら、先遣部隊はすぐに撤退するだろうし、相手がもしも進化レベル5相当だった場合、帝国が滅ぶだけだ。どうしようもないことに悩んでも仕方がない。われわれは帝国、いや、陛下の決定に従って探査艦を送ったのだからな。降格や罷免はあっても百年前じゃないんだから処刑されたりはせんよ。ガハハハ」


 慰めにも何もなっていない探査省長官の言葉だった。



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