第57話 アーセンの末裔2

 

 ゼノの発生源の中性子星を破壊し二月ほど経ったいま、予定では、アギラカナが太陽系に現れるのは十二年もの先の話であるのだが、その時アギラカナのコアを構成するプライマリー・コアが新たにアーセンの末裔が現れたと考えた場合、どのような判断をするのか不明でありアインにとって不安である。


 鹵獲ろかくした無人小型宇宙船をその後も引き続きブレイザーで調査した結果、アーセン滅亡の一千年以上前に使われていた無人探査宇宙船に酷似していることが判明した。アーセンの末裔なのか、その技術を踏襲しただけなのか確認はできていない。


 宇宙船の形状やごてごてした付属物から推測される製造者の姿は、人型でやや好戦的いうものだった。宇宙船に自爆装置を付けていなかったところを見ると同等の文明との闘争はあまり経験していないものと推察されている。後日判明した鹵獲ろかくした無人宇宙船が発した信号の解析結果は、ブレイザー艦長のブリュース大佐の推測通り『進歩した知的生命体を発見した』というものだった。


 重装甲かつ高速の探査艦は偵察、調査任務に最適なため、無人宇宙船が信号を送ったと思われる星系の調査に探査艦を送り込みたいところだが、アインには現在作戦行動中の探査艦を呼び寄せる権限がないため、すぐにできることは手持ちの探査機を送ることしかない。そのため、ジャンプ前のアギラカナからブレイザーに積み込まれていた二基のジャンプドライブ付き探査機を当該惑星に送ることにした。相手側の探知網にかかり自爆する前になるべく多くの情報を太陽系で待機中のブレイザーに送ってくれることを期待している。


 六日後、便宜上DT01星系と名付けられた星系にジャンプアウトした探査機はすぐにステルスモードに移行し、各種の信号を発している第3、第2惑星へ接近しつつ情報収集を開始した。星系内には複数のハイパーレーンゲートを確認したほか、多数の宇宙船が当該星系を航行中であることが判明したが、相手側には探査機程度の小質量を探知する技術がないようで、二基の探査機は最終的には発見されることもなく、第3惑星上空の衛星軌道上に侵入を果たし、映像の他に言語、文化、科学水準などのデータをブレイザーに中継し、駐日アギラカナ大使館にいるアインの元に送り続けている。


 今回送り込まれた二基の探査機から送られてきた映像には、DT01星系の主星をめぐる第3惑星の静止衛星軌道上に複数の軌道エレベーターが建設され、その中の一つの軌道エレベーターのプラットフォームから伸びる桟橋付近に戦闘艦と思しき宇宙船が集結して小規模艦隊を形成しつつあるようだ。


 最終的に集結した艦船の内訳は、アギラカナの駆逐艦相当の小型艦が四隻、更に小型の艦が十二隻。輸送船らしき中形宇宙船が二隻。その十八隻からなる艦隊がスラスターの青白い光を輝かせながら星系外縁部に向け遠ざかって行った。



 DT01星系には、自らをアルゼ人と名乗るアーセン人に酷似した人型知的生命体が、第3、第2惑星に各々数十億単位で生息し、大アルゼ帝国という名で星間国家を作り上げていた。星系内には他に人工天体も複数存在し、活発に星系内を宇宙船が往来しているようだ。


 ブレイザーから送り込まれた探査機が傍受した通信の内容から、大アルゼ帝国は十二の有人恒星系および複数の開拓中の星系から構成され、人口も三百億を超えることが分かった。各星系はハイパーレーンゲートで結ばれているようだ。データを解析した結果、アルゼ人の科学力は、ジャンプドライブを除けばアーセンと比較するとその滅亡の千五百年前から一千年前の科学力を持つようで、ジャンプドライブといった突出した技術がどういった経緯で突然大アルゼ帝国で生まれたのかは不明である。


 大アルゼ帝国はDT01星系の中心に輝くG型恒星をハミラピラトラ、首都惑星である第3惑星をアゼーンと呼称している。その主都惑星アゼーン近傍から、星系外縁部に向かった小艦隊は、そこで超空間ジャンプを行ったようで、もしその艦隊が太陽系を目指すのならば、三カ月後に太陽系にジャンプアウトすると考えられる。


 アインは残ったジャンプドライブ付きの探査機を改造し、それを使ってブレイザーに搭乗する陸戦隊特殊戦部隊から抽出した工作員を大アルゼ帝国の首都惑星アゼーンに潜入させるかと考えたが、アギラカナが不在のためバックアップ体制の構築も困難ではあるし、こちら側の工作員がアゼーンに到着するころに、大アルゼ帝国側の先遣部隊が太陽系に到着するタイミングとなるため、大アルゼ帝国の先遣部隊への対応を待ってから検討することとした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る