第56話 アーセンの末裔
――探査艦J01-002より帝国探査省に報告
――ジャンプアウト成功
――探査対象星系、第3惑星にレベル3知的生命体の存在を確認
――レベル3知的生命体接触プログラムに従い詳細調査を行います
――惑星探査機1号から4号、第3惑星に向け射出します
……
「これが太陽系に突然現れ、天王星軌道付近で超空間通信を行っていた小型宇宙船ですか?」
現在、アギラカナ代表代理、アギラカナ駐日大使代理を務めているアインが、アギラカナ大使館八階のアギラカナ代表執務室にあるオペレーションデスクのスクリーン越しにH3級強襲揚陸艦AA-0001-ブレイザー艦長ブリュース・タリムテ大佐に確認しているところだ。
スクリーンに映った宇宙船の形状は、紡錘型の本体に、球状の膨らみに棒状をした多数の突起や付属物が取り付けられ非常に複雑な形状をしており、ところどころにスラスターのものと思われるノズルが付いている。アギラカナの艦船を見慣れたアインから見ると非常に無駄も多く旧式に見える代物だった。何より被弾を全く考慮していない形状に驚いている。
「木星にいる工作艦SII-001の艦載機が
「その宇宙船がどこに向かって超空間通信を送っていたか解析できましたか?」
「宇宙船内部の超空間通信装置を調査したところ、可能性の高い星系は、この太陽系から300光年ほど離れたG型の恒星を持つ星系だった。星系名は、とりあえずDT-01とした。DT-01には、惑星が複数存在しており、地球型の惑星も存在することを確認している」
「それほど遠くない位置に、宇宙船を建造できる文明を持つ知的生命体がいてアギラカナが探知できていなかったことは驚きですが、
「アギラカナと同じ水準のジャンプドライブを持っていることはわかった。要するに光速の一千倍で進むやつだ。通信装置の能力は半径約2000光年。船内には超高密度素材は一切使われていなかったところを見ると、われわれの持つ船殻技術は持っていないと思われる。それと、推進装置に重力スラスターも使われていない。すべて推進剤を用いた旧式のスラスター技術しか無いことからも船殻技術を持たない傍証と言える。
動力関係も、水素から一段の核融合しかできない反応炉を積んでいるのみで、反物質もなければ対消滅反応炉などは積んでいない。全体的に言って非常に旧式かつ鈍重であるということだけは分かった。武装艦を見たわけではないので何とも言えないが兵器技術も高くないだろう。ジャンプドライブ以外の技術はアーセンの技術の非常に古いタイプのものに酷似したものが使用されている。
アギラカナが遠征より帰還するまでわれわれは、宙間戦闘用の戦闘艦を持たないが、この鹵獲した宇宙船の技術の延長線上の戦闘艦から構成された艦隊が現れても本艦の攻撃機隊だけで十分対処できそうだ」
「わかりました。脅威度は低そうですが太陽系外周部の哨戒の強化をお願いします。あとは念のためブレイザーでの対消滅型反応炉と対消滅弾用に反物質製造を急がせていただけますか。
おっしゃるように、技術体系がアーセンに酷似しているとなると、失われたアーセンの末裔の可能性もありますので少し厄介ですね」
「了解した。アーセンの末裔がどうのといった難しい話は君に任せるよ。そういえば、現在運航中の太陽系クルーズ宇宙船にも護衛を付けた方がよさそうだな」
「そうですね、クルーズ船にはこちらから連絡しますので、できれば護衛の方は早めにお願いします」
「攻撃機のパイロットたちのいい訓練になるから問題ない。地球の静止軌道上にあるファームステーションの方は自衛も出来るしこのブレイザーからも近いから問題ないだろう」
[補足説明]
ファームステーション
地球と太陽とのラグランジュ点L1、L2上、および地球の静止衛星軌道上にファームステーションと呼ばれる農業・漁業用の宇宙ステーションが複数建設されている。主に飼料用作物、漁業飼料用プランクトン、小魚などを栽培、養殖している。
船殻と重力スラスター
船殻を持つ艦船は超重量のため、重力スラスター以外の推進剤を使用したスラスターでは加速が難しく実用的でなくなる。
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