第54話 現状報告
アギラカナは超空間航行を今も続けている。
ゼノ主星破壊から一カ月ほど経過し、マリアを連れて魚釣りを楽しんだ後でその魚で宴会をした日の翌日。
俺はアギラカナの幹部、昨日私邸で一緒に飲んだ連中のことだが、作戦会議室でその幹部たちから『対ゼノ主星破壊作戦』を終えた現状の報告を受けている。
最初は兵站部のフローリス少将から、今回の作戦での損傷艦の修理状況と失った艦艇の補充についての報告があった。
「今回の『対ゼノ主星破壊作戦』での損傷艦の内訳は、重巡洋艦九隻大破、うち一隻が特型重巡洋艦のインスパイアです。インスパイアを除く八隻の重巡洋艦は船殻部分の破損が軽微だったためと予備の外殻パーツがあったため修理完了しています。
インスパイアについては損傷状況から見てインスパイアでなければ爆沈を免れなかったと思われます。損傷艦で唯一人的被害も出ていませんし、S5級二重船殻艦は成功だったと思います。修理については、二重船殻のうち外殻をなす第二船殻の損傷が激しくS5級船殻の予備パーツが不足しているため修理完了は二カ月後の予定です。
次は喪失艦の補充ですが、喪失した軽巡洋艦一四隻中二隻、重巡洋艦二隻中一隻の補充は完了しています。残りの軽巡洋艦と重巡洋艦一隻については、艦の補充は船殻パーツが揃う二カ月後に完了見込みです。
しかし艦は揃いますが、航宙軍の方針により損傷艦の人員補充を優先するため、補充艦のうち軽巡洋艦六隻のみ完全充足可能です。全艦艇の人員が完全充足するには一五カ月必要と見積もっています。喪失艦の補充が完了し次第、残存ゼノに備え新たな艦隊を編成すべく、正規空母、機雷艦、補給母艦の建造に取り掛かります。
航宙軍関連は以上です。
次は陸戦隊関連ですが、爆沈、損傷した戦闘艦乗り組みの隊員の他は消耗していませんので特に問題は有りません。三個連隊の錬成完了に伴い新たにH3級強襲揚陸艦が二隻竣工しており、一隻が建造中です。
アギラカナ内の一次資源については特に問題は有りませんが、今回の作戦で二次資源である反物質を大量に消費していますので、反物質生成を重点的に行っています。今回の消費量は予想の範囲内でしたので、反物質生成プラントの増強は必要ありません。一度の会戦で今回の作戦時と同じだけ反物質を消費するとしても、現在の備蓄量で三会戦戦えます」
次は航宙軍のアマンダ中将による、主に失った人員の補充についての説明だ。
「いま、フローリス少将からの説明に有ったように、補充人員に対する専門教育、訓練に一五カ月を見込んでいます。この数字は、これから先十二カ月で成人するバイオノイドの教育、訓練期間も含んだものです。なにぶんアギラカナの周囲が超空間ですので艦を実際に動かしての操艦訓練が出来ず、シミュレーターでの訓練が主体になりますのでジャンプアウト後はベテランも含め実空間での操艦訓練を重点的に行う必要があります。
陸戦隊の新造強襲揚陸艦に配属予定の艦載機のパイロットについてはアギラカナ内で十分訓練可能でしたので、錬成完了しています。従っていつでも配属、実戦投入可能です。
先の作戦で爆沈した閣下専用艦の軽巡洋艦LC-0001-フーリンカの代艦については、第2雷撃戦隊旗艦の軽巡洋艦LC-0002をあてる予定です。LC-0002の艦長はじめ乗組員も、フーリンカ同様閣下から個艦名を与えていただくことを期待していますのでよろしくお願いします。フーリンカが旗艦を務めていました第1雷撃戦隊は解散し、所属していた駆逐艦は、新編の雷撃戦隊に編入し戦隊の基幹構成艦とします。これまでの第2戦隊が繰り上がり第1戦隊に、以降順次繰り上げます」
さて、困った。LC-0002の艦名を考えねばならなくなった。フーリンカを偲んでフーリンカ2でもいいが、どうしたものか。
「付け加えて、今回の戦闘で航宙軍の有する戦闘艦艇中、最強の防御力を誇ったインスパイアが大破したことを受け、閣下の宇宙軍旗艦、艦隊総旗艦とすべくS6級船殻戦闘艦の建造を計画しています」
「S6級と言うことは呼称的には初めての戦艦ですか?」
「はい。S6級戦艦の一番艦BC-0001となります。これも、閣下に個艦名の命名をお願いします」
こっちもか。
「閣下、S6級船殻用プラントを現在建設中ですので、BC-0001の竣工は当分先になります。加えて旗艦の司令部要員も含め乗員の配置換えを含めた手配も必要となりますので新戦艦の就役は最短でも他の艦の要員が充足できる十五カ月先以降になります」
兵站部のフローリス少将から追加の説明があった。特に大作戦が控えているわけでもないのでこちらの方は問題ないだろう。
そして、陸戦隊のエリス少将。
「陸戦隊の方は、地球に残した強襲揚陸艦ブレイザーに搭乗する増強一個連隊を除き、完全充足三個連隊が実戦投入可能です。現在錬成中の部隊は二個大隊で、各大隊の錬成終了見込みは六カ月後と十二カ月後になります。陸戦隊では航宙軍と違い、アギラカナ外周部内の各層内で各種の地形、条件で訓練が可能ですので錬度低下もなく新人の錬成も順調です。ここ十年で、地球上の主な都市を想定し仮想現実と組み合わせた制圧訓練は終了しています。太陽系帰還後、三日あれば行けます」
いやいや、どこにも行かないでいいから。
最後はいつものように探査部のドーラ少将。超空間を航行中のアギラカナの外は観測不能の領域でわれわれ四次元時空連続体に住む者から見ると全くの無なのだそうだ。したがって、アギラカナ内の探査部としては観測対象がないためもっぱら研究、実験設備の増強を通して、新技術の開発を行っている。
この際だから、探査部も名前を探査・研究開発部とした方が分かりやすそうだがどうだろうか。とはいうものの、俺が以前勤めていた会社も、名前の妙に長い部署や意味の分からないような横文字の部署は役に立たない印象が強かったから探査部のままの方がよさそうな気もする。
【補足説明】
S級船殻
球型。主に戦闘艦用の船殻。
S1 直径 360メートル 大型駆逐艦、該当艦なし
S2 直径 720メートル 軽巡洋艦
S3 直径 1080メートル 探査艦
S4 直径 1440メートル 重巡洋艦
S5 直径 1800メートル 特型重巡洋艦
S6 直径 2160メートル 戦艦
[宣伝]
SF短編『敵は弱いに越したことは無い』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054912670445 よろしくお願いします。
ノベルアップでロボット三原則にはれて落っこちたので、なろうとカクヨムに投稿しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます