第26話 閑話。対艦戦闘訓練、アステロイド演習


 アギラカナ艦長の座乗するH3級強襲揚陸艦AA-0001を護衛して太陽系に進出した0001雷撃戦隊であるが、護衛任務終了後は太陽系全域の哨戒任務に就いていた。


 ここは、0001雷撃戦隊旗艦、S2級軽巡洋艦LC-0001の中央指令室。


 雷撃戦隊旗艦の中央指令室内には慣例として戦隊司令の席が一段高いところに設けられているが、基本的に雷撃戦隊には戦隊司令がアサインされることはなく、旗艦艦長が戦隊司令代理として戦隊隷下れいかの駆逐艦に対し指示を出す。


 0001雷撃戦隊内の各艦の呼称は01-01が旗艦、軽巡洋艦LC-0001。01-02から01-07までが、隷下れいかの駆逐艦となっている。ちなみに、0002雷撃戦隊の場合は同様に02-01が旗艦、02-02から02-07までが駆逐艦となっている。


 艦長のカブラ・ハイナンテ中佐が今は空席の戦隊司令席の前の艦長席に座り、戦隊内放送を始めた。副長のアーサ・ナバイテ少佐は、副指令室にすでに詰めている。副指令室の役目は、何らかの理由で中央指令室が機能を喪失した場合の予備、および応急指令室として戦闘時における艦の応急処置の指示を出すことである。


「これより、わが0001雷撃戦隊は、小惑星帯において演習を開始する。三分後の演習開始にそなえるように。また、搭乗陸戦隊員は、切り込み戦に備え、応急処置応援要員を残し、対艦突入ポッドにて待機」


 状況開始後、指令室内の全スクリーン、コンソールデスク上のスクリーンも含め全てがシミュレーションモードに切りかわりる。


「状況は、昨日の通達の通り。小惑星、ジュノー、プシケ、エウロパを敵重巡洋艦と見立て、戦隊はこれを撃破する。それでは状況開始」


 ブウウウウ、ブウウウウ。……


 艦内に演習開始のブザーが鳴った。


 小惑星は実際には機動するわけではないが、シミュレーション上は戦闘機動をしたものとして各艦との相対位置をシミュレートし、戦隊はその情報をもとに仮想上の相対速度、相対位置をとりながら演習を進めていくことになる。


 戦隊司令を兼ねるハイナンテ艦長も演習開始以降のシナリオの展開は知らない。


 六隻の縦長の四角柱型駆逐艦が二隻ずつのペアの三分隊で旗艦を中心とした正三角形をつくり上げた戦隊は、三隻の敵艦に向け加速を始めた。



「空間走査機により、高速飛翔体を発見、その数三、距離0.2AU」


「飛翔体をこれより目標A、B、Cと呼称する」


「目標A、B、Cの速度はいずれも光速の20パーセント。

 ……光学観測結果、出ました。目標A、B、Cの形状はいずれも球形、戦闘艦である蓋然性がいぜんせい99パーセント以上。敵艦と断定します」


「目標Aを敵1番艦、目標Bを敵2番艦、目標Cを敵3番艦と呼称する」


 それまで、スクリーン上に目標A、目標B、目標Cと表示されていた白色のマーカーの表示色が赤く変わり表示も1番艦、2番艦、3番艦に切り替わった。


「敵1番艦から3番艦、艦種、S3級相当船殻艦と断定」


「攻撃装備を対消滅ついしょうめつ装備に変更、反物質注入開始」


「これより、戦隊は、敵艦隊への襲撃行動を開始する。戦隊、第一戦速」



「……全分隊、襲撃体制を取りつつ最大戦速に加速、突撃」


 各々の駆逐艦の艦尾には、プラズマスラスターの噴射ノズルが束ねられており、すべての噴射ノズルから青白く輝く高速プラズマが吐き出され、六隻の駆逐艦は一気に加速した。


「敵艦隊、わが方に向け加速開始しました」


「迎撃誘導弾第一波発射」


 球形の艦体の北半球に四カ所、南半球にも四カ所設けられた汎用はんよう舷側開口部が開放され、無数の誘導弾が艦の周囲にばら撒かれた。それら誘導弾は、急速に進行方向をねじ曲げながら敵艦との射線上で予想される敵誘導弾との衝突予想宙域に向かって加速しつつ飛翔を始めた。もちろん隷下れいかの駆逐艦からも誘導弾が多数発射されている。


 スクリーンでは、旗艦LC-0001を表す青丸のマーカーと、駆逐艦を表す青三角形のマーカーから、無数の白い糸が敵艦隊に向けて伸びていった。


「敵艦、多数の小質量を分離。小質量体、進行方向をこちらに向け進行中。誘導弾と思われます」


 今度は、敵艦を表す三つの赤丸から、無数の赤い糸が0001戦隊に向けて伸びてきている。


 赤い糸と白い糸が重なるとどちらもスクリーン上から消えていく。その中で多数の赤い糸がそのまま0001戦隊に向け伸び続けた。


「迎撃誘導弾、第二波発射」


 さらに無数の白い糸が、伸び続ける赤い糸に向かっていった。


「本艦も敵艦隊に向け最大戦速、突撃」



「全分隊、おとり弾とともに多弾頭対消滅誘導弾全弾発射完了したもようです。全艦艦首軸線砲を発射しながら突撃中」



 こちらの第二波の迎撃網を潜り抜けた敵誘導弾が、戦隊各艦に急速に接近する。


「迎撃誘導弾の弾幕を抜け複数の誘導弾が本艦に向けて接近中」


「近接防御戦闘開始します」


「戦隊各艦、近接防御戦闘を開始しました」


 こちらの近接防御用実体弾の網の目をくぐり抜け、何発かの対消滅誘導弾が味方艦に直撃した。


「駆逐艦01-02、被弾。航行に影響なし」


「駆逐艦01-04、被弾。軸線砲砲口部消失、航行に影響なし」


「駆逐艦01-03、被弾。突撃コースから外れそのまま直進しています」


「駆逐艦01-03、さらに被弾。被害拡大中。……信号停止。質量拡散確認。駆逐艦01-03、喪失しました」



 次々に戦隊の被害が広がっているが、被撃沈艦は今のところ01-03のみだ。



 小口径実体弾投射機が接近する敵誘導弾に向け高速実体弾をばらき続ける。その実体弾の直撃を受けた誘導弾が対消滅反応を起こし閃光せんこうの中で消えていく。その閃光せんこうを抜けて複数の誘導弾が艦に迫ってきた。その誘導弾も次々と撃ち落されていくのだが、とうとうその中の一発の誘導弾が、近接迎撃網をかいくぐりLC-0001の船殻に直撃した。


 ここで、艦に被害が発生したことを知らせる警告音が艦内に響き渡る。スクリーン上では艦の至近を閃光せんこうが先ほど同様覆っている。


 ビー、ビー、ビー、……


「U2区画、対消滅弾被弾、船殻欠損、被害が内部に拡大中、隔壁再構築、関連区画閉鎖」


「関連区画閉鎖完了」


「U3区画、大型対消滅弾被弾、船殻喪失、被害甚大。被害急速に拡大中。中央指令室機能停止」


 ここで、中央指令室に詰めていたオペレーターたちは艦長を含め死亡判定されてしまった。


 これから先は、副指令室に詰める副長のアーサ・ナバイテ少佐が戦隊司令として戦隊の指揮をとる。




 敵艦三隻の各艦に対して、雷撃戦隊の1分隊が割り当てられ、各駆逐艦は撃ちっぱなしの大型誘導弾をおとり弾をふくめ全弾撃ちくしたあとは主砲である軸線砲を連射しつつ突撃していった。分隊の陣形は二隻横並びの陣形で、主砲の軸線砲および対消滅弾の射線が重ならないようにしている。




 副指令室で艦の応急処置の指揮をとっていたナバイテ少佐だが、中央指令室の機能停止を受けて、


「こちら、旗艦副長のアーサ・ナバイテ、これより戦隊の指揮を執る」


 副指令室内の正面スクリーンには、彼我ひがのマーカーが映し出されているが、すでに、隷下の六隻の駆逐艦の内、一隻は消失している。


 そのなかで、オペレーターの声が響く。


「わが方の誘導弾、敵迎撃網を多数突破。なおも進撃中」


「敵2番艦に対消滅弾直撃。敵2番艦質量拡散確認。撃破しました」


「敵3番艦に対消滅弾直撃。敵3番艦質量拡散確認。撃破しました」



 そして、敵の迎撃網を突破した最後の対消滅誘導弾が敵1番艦に直撃をしたようで、敵1番艦を表す赤いマーカーが点滅し始めた。


「敵1番艦に対消滅弾直撃。敵1番艦大破、機関停止した模様。質量拡散認めず。その他の反応有りません」


「戦隊、攻撃中止。これより、01-01は敵艦を拿捕する、敵1番艦に急速接近。切り込み戦用意」


「陸戦隊切り込み班、対艦突入ポッドの射出に備えよ」


 各突入ポッドには半個分隊6名ずつの陸戦隊員たちが搭乗し座席について敵艦への発射に備えている。


「01-01は敵1番艦に接近。戦隊各艦は敵の反撃を警戒せよ」


「対艦突入ポッド射程内に敵艦を捉えました」


「対艦突入ポッド1番から4番、発射」


 高速で撃ちだされた四基の対艦突入ポッドが敵艦(小惑星ジュノー)に突き刺さる。


 ブウウウウ、ブウウウウ。……


 艦内に演習終了のブザーが鳴った。死亡判定を受けていたハイナンテ艦長も前のめりになってスクリーンをのぞき込んでいた体を起こし肩の力を抜いて座席にゆったりと座りなおした。 


「ようし、状況終了、ここまででだ。これより指揮は旗艦艦長が引き継ぐ」


「対艦突入ポッドの回収を急げ」



「……ポッド回収完了」



「戦隊各艦は通常航行序列に速やかに移行せよ」



 被撃破判定を受けていた駆逐艦も所定の位置に戻り、本日の雷撃戦隊による襲撃演習は終了した。



[あとがき]

船殻、対消滅弾等の特殊用語の解説は後日、本編内の用語解説で行います。本作では同等技術をもつ艦との対艦戦闘は基本的に起こりませんので、今回は雰囲気だけ。

ちなみに、アギラカナではS3級船殻を有する艦は探査艦のみで、S3級戦闘艦はいまのところ配備されていません。

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