第25話 大使館1


 核融合発電プラントの建設は簡単に終了した。今後、日本政府の要望があれば、西日本にも、残った二基のプラントをすぐにでも設置するつもりだ。電力は直接の小売りはせず1KWhあたり五円程度で電力会社におろすことにしている。電力小売価格は既存発電設備の兼ね合いで現行価格から徐々に下げていき、差額の利益分はそのまま、国庫に返納していくそうだ。


 最初のうちは、一日当たり発電可能総量48億kWhのうち5億から10億kWhを見込んでいるので、二十五億円から五十億円の売り上げになる計算だ。年間にすると九千億円から一兆八千億円だ。メンテナンスもこの先数十年は不要だそうで稼働率も百パーセントと考えられる。


 発電コストは実質ゼロ円なので、売り上げ=利益となるのだが、日本側が、電力1kWhの発電コストを五円と見なすと提案してくれたため、実質無税となってしまった。それが分かっていれば、四十パーセントの税金を見込んだ上での五円とした卸値なので、卸値を三円にしてもよかったのだが。そのうち売電量が増えてきたら値下げを検討しよう。




 今俺は、日本政府より提供された大使館用の土地を秘書室の四人を連れて視察に来ている。 周辺にはそんなに高い建物がないため、連絡艇や輸送艇の発着に支障はなさそうだ。そう考えたが、よく考えると上からまっすぐ下りてきてまっすぐ上がっていく宇宙船を使うのだから、真上さえ空いてれば例え井戸の底だって問題なかったと思い至り苦笑にがわらいが出てしまった。


 周辺の建物はいいが、羽田への発着便については、確認は必要だろう。まあ、秘書室の面々に面倒なことは任せておこう。


 連絡艇がステルスモードにもせず近くに着陸しているため、だんだんと人が集まって来た。彼らは近づいてくるわけではなく、遠目でスマホを構えて写真を撮っているようだ。とくに問題はなさそうだし、何かあれば四人が俺を守ってくれるだろう。そのうえ、どこからか護衛の駐在員がわれわれを見守ってくれているらしいので安心だ。心配なのは、暴漢だろうがテロリストだろうが、相手に・・・致命傷を負わせることくらいだ。


 建設を予定している大使館のビルは、敷地に余裕を持たせ、地上十階、地下三階のビルを考えている。屋上には連絡艇の発着場をもちろん設ける。大使館ビルの前には広場を設け、その先に小型輸送船の発着場と物流倉庫をまとめた小型物流ターミナルを考えている。 近くに豊洲市場もあるのでわれわれが一番関心のある、食材確保的には良い立地だろう。地質調査はすでに終えており、土木用ナノボットに建設プログラムを植えつければいつでも工事を開始できる。 


 大使館の役割は日本政府との折衝窓口のほか、食料品などの買い付けとアギラカナから搬入した資源の日本国への輸出が主な仕事となる。アギラカナへの日本人の渡航は当面認めない方針なので、人手を要するビザの発給作業のようなものもない。従って、アギラカナから大使館に駐在するのは、大使他数名で事足りる。大使は当面俺が兼任する予定だ。国の代表が他国で大使を兼任するのはあまり事例のあることではないだろうが、アギラカナとはリアルタイムで交信できるうえ、テロリストであれどこかの国であれ、俺を害することは実質不可能なので大丈夫だろう。


 大使館の建物と物流ターミナルは、現在工作艦で製作中だが、宇宙船のモジュールを流用しているのでほぼ完成している。外観は、ビルではあるが、実質宇宙船ということらしい。内装については、一般人の使用も考慮して既存のビルの設計も参考にしている。物流ターミナルの方は、地下への埋設部分がかなり大きくなっており、地下部分に倉庫機能を持たせるようになっている。


 アインによると、工作艦から今回こちらに派遣された一般作業艇二隻で、短時間で大使館設置予定地の地盤の掘削、補強は完成するらしい。



 そういうことなので、けさのうちに、大使館建設工事をすぐにでも始めたい旨を日本政府に連絡し、当該区域に一般の人が近づかないことと、ヘリコプターや航空機などが上空に接近しないようお願いした。今回は除染や発電所の整地と違って、完成予想図だけだが日本政府に提出済みだ。今回建設する建造物は、極端に巨大な建造物でもなく、工法、資材その他、これまで日本に例のないものため、建築基準法の適用除外物件に指定してくれるそうだ。そもそも、着陸した宇宙船を、建築物というのかどうかも不明なのではあるが。



 用地を視察しながら、アインが話しかけてきた。


「艦長、日本政府より、有償で、原発跡地一帯を広範囲に除染してほしいとの要望と日本政府が抱えているその他の核廃棄物の処理の依頼が来ています。またレアメタルの安定供給契約を結んでほしいと打診されています」


「除染については、区域を向こうに決めてもらって、順次やっていこう。価格は任せる。今まで、作業をしていた企業なんかへの補償もあるだろうから、安めでいい。核廃棄物の処理も同様だな。今後は、原子力発電所の解体なんかも視野に入れて事業化でもするか。

 レアメタルは、こちらで用意できるものならいいんじゃないか。安定供給の意味合いは、継続中の外国との買い付け契約は切れないが、どっかの国に意地悪されたら面倒を見てくれってことだろ? まあ、今の日本に意地悪できるような国があるかどうかはわからないけどな」


「はい。日本側の受け入れ態勢が整えば、すぐにでもアギラカナから運んでこれますので内諾という形で了承しておきます」


「こういったことの折衝窓口なんかも、早めに人員補充していかないとな」


「そうですね。当面今の駐在員を呼び戻しますか? 今でも、少量ですが地球産物品の購入は行っていますので即戦力になると思います。」


「主に彼らは何をしてるの?」


「全員、艦長が地上に降りた場合の警護を行っています。いまも周辺に展開しています。それ以外の場合は、物品の購入、調査の継続を行っています」


「それじゃあ、全員呼び戻そう。たしか十一人だったよな? 警護はほかの陸戦隊の人に頼んでもいいだろ?」


「了解しました。そのように取り計らいます」


「あと、何かあるかい?」


「艦長のご自宅のマンションはどうされます?」 


 マンションの管理費は勝手に俺の口座から落ちているから心配ないが二週間ほど留守にしているので、一度行って見るか。


 地球に帰って来てから人前に出るときはいつもこの制服を着ているから、普段着を着て眼鏡でもかければ変装できるんじゃないかな。



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