第27話 大使館2


 アギラカナについては、侵略的意図はなさそうであるし、日本に対して妙なちょっかいさえ出さなければいいだけだということが欧米各国政府の認識になりつつあり、それに従うように、各国の金融市場も落ち着きを取り戻していった。ただ、商品市場、特に石油、天然ガス、石炭など日本が大量に輸入消費していたエネルギー関連とメタル関連は弱含んだままだった。


 各国政府のアギラカナに対しての外交的接触は、日本国に仲介を頼むより他はないが、アギラカナの片務的防衛義務宣言により、何が日本への攻撃とみなされるかわからない状況で日本に対し過度の圧力をかける訳にもいかず、何もできない状況が続いている。この時点の欧米各国政府は、アギラカナを何とか自国の国益に結び付けたいが、それは当面無理そうなので、国益を損なうことだけは避けたいという消極的考えだった。


 日本政府としても、各国政府に対しアギラカナについての説明を行っているが、既に、報道されている情報以上のものはない。




 午前中、大使館の敷地を視察した俺は、いったん、AA-0001に戻り、私服に着がえ、自宅の鍵と財布をポケットに入れて、小型連絡艇のステルスモードで、自分のマンションの屋上に降り立った。同行は、アイン一人である。乗って来た小型連絡艇は上空で待機させている。


 アインに屋上のエレベータールームの鍵をいつものように開けさせ、俺の部屋に戻る。部屋のドアの鍵をガチャリと開け小さな玄関に入ると、今まで日本で過ごしていた日常があった。


「艦長、お茶はないようですので、コーヒーでも淹れましょう」


「ありがとう」


 締め切ったカーテンを開けると、今までこの部屋から眺めていた景色がそのままだった。


 ベッドの下の金の延べ棒もそのまま毛布をかぶっている。なんだか、少し疲れが溜まってるのかな? 昔はお金は貯まらないけど、疲れは溜まるとかいって笑ってたけどな。


 テレビの横に置きっぱなしにしていたスマホは既に電池切れだった。


「どうぞ」 


 マグカップに淹れられてダイニングテーブルの上に置かれたコーヒーを受け取り、椅子に座って一服する。


「艦長、スマホですと、上の艦内でも使るようにすぐにできます。艦長の部屋には、コンセントを何個か付けておきましょう」


「それじゃあ、持って行くか」 


 充電器とスマホをポケットに入れて部屋を出た。カーテンはアインが閉めてくれた。


 一度、一階におりて、郵便受けのものを整理し、もういちど屋上に戻って連絡艇を呼んだ。


 AA-0001の自室に帰ってみると、既に何カ所かに二穴のコンセントが付けられていたので、充電器を差し込みスマホの充電をすることにした。


 スマホの電源を入れたとたんピロリン。ピロリン。


 着信音が響き、見てみるとほとんどが一条からのメールだった。大使館の方がもう少し落ち着いたらあいつにも連絡するとしよう。



 俺に就業時間があるのかどうかはわからないが、もう一度制服に着替えて、隣の仮執務室へ行くことにする。


 仮執務室の俺の席に座って、この部屋にいる秘書室の女性にお茶を頼む。彼女たちも、この部屋にしつらえた机で、仕事をしている。俺の机だけ見た目豪華な長四角のビジネスデスクだが、彼女たちの使っているのは、アギラカナの秘書室で使っていた物と同じカーブを描いたオペレーションボードだった。


「日本政府からさきほど連絡があり、大使館予定地への立ち入り禁止を徹底するためあすの午前六時より、周辺を警察で封鎖するそうです」 


 何もそこまでとは思うがこれも日本政府ができるアギラカナに対する誠意の一つなのだろう。


「こちらからも、敷地内に人が入り込んでいないことを確認し、問題なければ、あす午前七時から大使館の建設を始めると日本政府に伝えてくれ」


「了解しました。あと、物流ターミナルはどうしますか?」


「あれも一気にやってしまおう。ある程度目星をつけた資源を輸送船でアギラカナから運べるだろ? 早目に交易を開始して、アギラカナの恩恵を日本国の国民に感じてもらおう。アギラカナでも日本の食材をみんな待ってるそうだからな」


「そうですね、資源の輸送用にはH2×2(H2ツイン)級の輸送船ですとかなりの量が運べますから目ぼしい資源を満載にして月辺りに浮かべとけば便利じゃないですか? 食材やその他の日本からの輸入品は、C1級輸送船を何隻か用意すれば十分でしょう」


「H2×2(H2ツイン)級とかC1級の輸送船てどんな船なの?」


「H2×2は元は、H2級ですから、1辺、240メートルの六角柱型で、全長2400メートルの船体が2つくっ付いた双胴型宇宙船です。単なる輸送船ですので、戦闘艦のような船殻は待ちません」


「中に何を積むのかはわからないけど、それだけあれば、日本の需要は何年でも満たせるんじゃないか?」


「容積が7億立方メートルを超えますから相当量だと思います。原油そのものは作れませんが、メタンやアンモニアなどから各種の石油製品の製造は可能ですのでそういった炭化水素系資源を多目に運んでおくといいかもしれません。ガス関係ですと、今木星の近くにいる工作艦が使っている木星大気の採集井戸からいくらでも汲めますからアギラカナから運ぶより少し早くなります」


「工作艦がいつも木星の近くでじっとしてるから何でかなと思ってたらそういう理由があったんだな。それでC1級の輸送船はどう?」


「ぐっと小さくなりますが、C1級輸送船ですと、直径20メートル、全長100メートルほどの円柱形をした輸送船です。今回の流通ターミナルもこの型の使用を前提に作りました。規格のある輸送船の中で最小なものになりますが、これでもそれなりの量を運べますし、速度が遅いわけでもありませんからアギラカナからでも1日あれば往復できます」


「石油のタンカーもでっかいのはでっかいからそんなもんでいいか。ガスとか石油製品はさすがに相手方の指定されたタンクみたいなところに入れるんだろう? それなら受け入れ場所ごとに、発着場というか資源の受け入れ設備が必要になるわけだな。

 輸送船の発着場の規格みたいなものを作って、資源の購入先の会社に作ってもらおう。なるべく大掛かりなもので日本の技術で問題なく作れるもので頼む。発着場の建設費はアギラカナ持ちでいいからな。そうすれば、それなりの企業が潤うんじゃないか? まあ先のことだけどアイン、覚えておいてくれ」


「ある程度余裕を持たせた発着場の規格を考えます」


「それじゃあ、アインよろしくな」


「大使館の建屋が完成すれば、日本企業との直接交渉を行うため、日本人スタッフを雇用するのも良いと思います。当面は、日本文化に少しでも慣れている、駐在員を呼び戻して、対応していきましょう」


 日本政府との繋ぎの人員も欲しいところだし、そういった人をまとめる人材も必要になるな。


「駐在員の方は、早めに呼び戻そう。日本人スタッフは、積極的に雇用していくとして一人だけだけど当てはある」


 当てはあるのだが、果たして、役に立つかは不明だ。




[あとがき]

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短編SF『我、奇襲ニ成功セリ』

http://kakuyomu.jp/works/1177354054894691547 未読でしたらよろしくお願いします



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